第15話 初任給の行方
「クリーム先生びっくりだろうな、追いつかないから」
俺は慣れた動作を繰り返していた。まず階段の踊り場から少しジャンプして手摺に義手をつき、その手を軸兼反動に利用して、階段に一歩も降りることなく、踊場へ、そしてまた手をつき、ということを繰り返していた。これも最初は少しずつやって、自分の本物の手を使ったり、手摺を飛び越えて階段に、というちょっと危険なこともやってみた。さすがにその時は失敗して、危うくけがをする所だった。
「失敗して時間をロスすること考えたら、ある程度早くて確実な方が良いかな」
なんて自分なりに考えた。そして今日それを実行している。
「うれしい! 今まで全くミスがない!! 本番でこれってうれしい!!! 」
プロになった今でもあの時の興奮と感動は忘れない、そしてあの時は子供だったことも。
「あ!! 階段が終わっちゃった!! 」
非常階段の扉を開けて病院の敷地内に出た。芝生があって、何人かが道で散歩をしたりしている。
俺は全く人がいない方向に走ったけれど、もう駄目だった。
「ロロ!!!! 」
大きなクリーム先生に飛び掛かられて、凄くフカフカしたところに押し倒されてしまった。
「先生噛まないでよ!! 」
「義手の方だろう、義足がいいのか? 」
「メーカーに怒られちゃうよ! 」
「お前が怒られろ! 」
「先生の歯形が付いているのに? 先生大丈夫でしょ? 水彩絵の具だからすぐ落ちるって。それに絨毯は汚れないように毛の上の方しか塗ってない、絵の具だって机の上に置いたんだよ」
「お前計画的なのか? 」
「だってメーカーの人が言うんだもん、凄くいいデーターが取れているって。追っかけっこみたいなことができればもっといい、子供は複雑に動くからって。先生、絵の具はシャワーで俺が洗ってあげるから、きちんと落ちるまで、ね」
そう言うと、先生の怒りも治まったようで、いつもの、ちょっと怒った感じにもどり
「全くメーカーも言いたいこ・・・・」
そう言いながら、急に固まってしまっていた。ちょっと口が空いて、何かを考えているというか、驚いているという感じだ。
俺はその先生の様子が不思議だったけれど、よく見ると俺の塗った絵の具が思ったほどついていない。俺の方の服についているわけでもない。だとしたら
「先生・・・もしかしたら絨毯の上でブルブルってやっちゃったの? 」
犬が濡れたりするとやるあの動作だ。
「やっちゃった・・・」
「青い絵の具で・・・赤とクリーム色だったよね・・・だから俺わざわざ絵の具を置きに行ったのに! なるべく濃く、でもあんまりべったりだと固まるから少しだけ水を」
「やっぱりお前が悪い!!! 」
学校の先生が止めに来るまで、俺はしばらくの間、甘噛みされ続けた。
「クリーニンング代が私の給料から引かれるんだぞ、ロロ。 お前が働き始めたら初任給で払ってもらうからな」
「ヴェルガってお金はいらないんでしょ? 欲しいものは大体手に入るって」
「高額な欲しい本があったんだよ」
「ごめんなさい、クリーム先生。絵の具一日じゃ取れないかな」
「あとは家で落とす」
「ごめんなさい」
この会話はシャワー室での事だった。この後、しばらくは先生と長い時間話す事はなかったけれど、急にこう言われた。
「ロロ、公園でしばらくの時間ならキャッチボールしてやるぞ」
「本当!!! 」
同じ病室の子が、その星域の休暇でほとんど家に帰った頃の事だった。
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