第13話 競争

「ロロ!! 何をしてるの!!! 」

「シッ!! 静かに!! 今先生の夢をかなえている最中なんだから。先生青い宇宙ヴェルガに憧れているんだよ」

「でも駄目よ! 」

皆とても小さな声で俺に注意している。それはみんなもクリーム先生がとても忙しいことを、俺たちの事を本当に考えていてくれることを知っているからだ。まあ、時々俺のように叱られている子もいるけれど、それでもクリーム先生が嫌いという子はいない。


「でも・・・・」「・・・ちょっと面白いかも・・・・」


ザワザワとし始めたので、さすがにクリーム先生はゆっくりと目を開けた。

俺は実は自分のしたこととは言え、この事だけは今でも偉いと思っていることがある。

それは先生が目をパチパチとさせ始めてすぐに、俺はすぐに立ち上がって、パレットと筆を俺の机の方に持って行ったことだ。そうしてまた先生の側に戻った。


「ロロ・・・どうして真横に? 」

「クスクス」「クリーム先生・・・」

色んなタイプの声が聞こえたので先生は急に立ち上がり、見たこともないような慌てた様子で、周りを見渡した。そして自分の体の横をちらっと見て、一度元に戻ったけれど、またもう一度そこを確認するように見た。


「ロロ・・・まさかお前・・・・」

「だって先生、青い色に憧れてるって言ったから!!!! 」

そうしてすぐに俺はその部屋のドアを開け、全速力で部屋を出て行った。


「待て!!! ロロ!!! 」


此処の部屋のドアは自動ではない。ノブのついた部屋なので、人間が開けてあげなきゃならない。先生は四本足なのだからそれくらいのハンディーはもらってもいいかなと思った。


俺がほぼ一直線、医療スタッフをよけながら走っていると


「ロロ!! 危ない!! そんなスピードで!! 新しい義手義足なのはわかるけ・・・」

と言っている途中で今度は猛スピードのクリーム先生がその横を通ったので


「クリーム先生・・・急患??? 」


茫然と立ち尽くしていた。そして俺の目的地はこの先にある非常階段だ。ほとんど人が使うことがない。だから入り口も同じようにドアノブがあるが最大の違いは「ヴェルガ用の出入り口」が下の方に合って、頭で押せば、薄い板が上に押し上げられるようになっていることだ。小さい子はそこから出入りして楽しんだりしているが、俺はそこを使うと遅くなる。急いでドアを開け、それがゆっくりしまっている間に、先生も非常階段に入って来た。

「やっぱり早いや! クリーム先生!! 」


実は俺は検査のヴェルガのマサン先生から聞いたことがあった。


「クリームは元々そんなに勉強は好きじゃなくてね。走るのが早くて身のこなしが素早かったから、警察ヴェルガの方が向いていると自分でも思っていたんだよ。こんなに優秀な医学ヴェルガになるなんて、本人も含めて、正直誰も思っていなかったんじゃないかな」


「待て!! ロロ!!! ここで私に勝てるわけがないだろう!! 」


非常階段に高らかにクリーム先生の勝利宣言が響いた。何故なら宇宙中の病院の階段の手摺は通称「ヴェルガ用通路」と言われていて、幅が広く、手摺の上には滑りにくい素材が貼ってある。

犬は登るのは得意だけれど、下るのはとても苦手だ。階段は特に降り辛いから、そういう造りになっている。


先生は数歩で手摺を下って踊り場、また手摺に乗ってということを、繰り返していた、だろうと思う。何故なら俺はそれを見てはいなかったから。


「先生、残念だけど追い付けないよ! だってこの義手義足、最新式だもの!! 」


実は俺にとっては何度も試して、何度も練習している場所だった。



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