第19話 飛び立つ日


 俺の星から医療星まではとても遠いので、退院する日も俺一人だった。

色々な人に挨拶したけれど、クリーム先生は来てくれなかった。その理由を他の先生から聞いていた。だったらこのまま会えなくて仕方がないと、宇宙ステーション行の飛行場に向かった。そこには同じように退院する人、家族と一緒の人が多かった。俺は寂しい気持もあったけれど、もう少ししたら自分の家に帰れると思うとやっぱりうれしかった。すると


「ロロ」


と呼ぶ声がした。

人間からちょっと隠れるように、物陰にヴェルガがいた。


俺は急いでそこに行った。


「クリーム先生、わざわざ来てくれたの? 大丈夫だよ、一人で帰れるから。俺はこれからエンランの試合とかに行くんだから、これくらい一人でできなきゃいけないから」

「本当にエンランの選手になりたいのか? 軽い運動は健康には良いが、言っておくがプロスポーツまで行くと、体には良くないからな」

「ハハハ、先生らしいや」

俺は笑ったけれど、すぐさま先生に抱き着いた。泣かないようにと思ったけれど、やっぱりそれを止めることができなかった。


「先生、先生が一番泣きたいよね、きっとあのお姉ちゃんみたいな子をたくさん見てきたんだよね。先生がよく怒っているのは、生きている人間が簡単にできることをやらないからだよね。生きていたら、きっときっとたくさんのことが、人の気持ちも考えながらできる人たちが・・・あのお姉ちゃんみたいに・・・いなくなって・・・」


「ロロ、彼女は本当に優しい子だった。伝えてくれと言われたんだ、ずっとロロを応援しているって。たとえエンランの選手になれなくても」


「先生・・・ありがとう。俺やってみたいんだ、これから精一杯。先生、疲れているでしょう、休んだ方が良いよ、目の周りがちょっと落ちこんで、鼻が乾いているから」


「ありがとうな、ロロ。一年後に再検査をするからその時にまた」


「うん、ありがとう、先生」

クリーム先生はすっといなくなった。誰も気が付かないままに。


周りに目を配りながら、素早く動く。これは優れた身体能力だ。

「先生、忍者みたい」

今度会った時にそう言おうと思った。


 そうして何度か特殊空間航路を通り、二日がかりで俺の星の宇宙ステーションに着いた。そこでお母さんの顔を見るなり、また俺は泣いてしまった。

「ロロ、ロロ、大変だったでしょう。 さあ、早く家に帰りましょうね」

そうして家族の待つ家に帰った。

 久しぶりにお母さんの作った料理が美味しくて、それを夢中で食べていると、テレビでは全宇宙総合ニュースが流れはじめ。


「さて、今度は素敵なニュースです。今日医療星の入院している子供と、エンランのセキュ=レン選手が一緒に体を動かしました。それでは映像をどうぞ」


「おしかったな、ロロ、後何日か入院していたら会えたのに」


兄弟たちから言われた。俺はもちろんすぐさま抗議の電話を医療星に入れたが、しかし本人と話ができたのはそれから二日後だった。



「クリーム先生!! ひどい!!! どうしてセキュ=レンが来るのを教えてくれなかったの? 知っていたんでしょ? 」


「お前ためには一日でも早く家に帰った方が良いと判断したんだ」


「誰が? 」


「私が。心理的な治療もできるから」


「できるんなら、患者の将来の事を思ってくれてもいいでしょ? 」


「山の王に会えただけでも十分だろう? なかなか会えんのだぞ」


「後になって知ったんだよ! もっと先生がちゃんと教えてくれていたら、いっぱい質問したのに。検査のスタッフも言っていたらしいよ、サインもらっとくんだったって」


「それはしてはいかんことだし、本人はもう騒がれるのに飽きたんだそうだ。ゆっくりのんびり過ごしたいらしい。それにエンランの選手を本当に目指すのなら、試合でセキュ=レンと会うんだな、同じ星域なんだから。その意気込みで頑張れ、じゃあな」


絵の具の仕返しに違いなかった。


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