第21話 宇宙で一番忙しい人
試合のあった星から、医療星まで近かったので、俺はあらかじめ予約を入れてもらっていた。遠征道具そのままを持って、一年ぶりにこの星に降りた。
「クリーム先生とは会えないだろうな。ここの医院長になってしまった、宇宙で一番偉いお医者さんで、一番忙しい人・・ヴェルガになっちゃった」
去年とほとんど変わっていない検査病棟に行くと、ちょっとボロボロになった雑誌や絵本が置いてあって、それがこの一年を表わしているようでおかしかった。
「ロロ、ね。もう一人おじいさんが来るから、その人と一緒に」
全く同じことを言われて、待っていた。去年と同じ足音が聞こえた。この前と違っていたのは、すぐさま俺が椅子から立ち上がったことと、ボールを持っていなかったこと。持つ気分になれなかったのだ。
「ロロ、がんばっているじゃないか」
「見ていて・・・くれたんですか」
「私にも責任があるから、まあ先に検査をしてだ。それからゆっくり話をしようか」
検査を終えて、俺は医療星の町に出た。大都市で、食べ物屋さんも沢山ある。
「とにかく食べよう、検査のために食事を抜いているからな」と連れて行かれた料理店は、そんなに高級そうなところではなかった。ちょっと期待をしていた自分が恥ずかしかった。でも小さな部屋に案内されて俺たちはそこで食事をした。
「美味しい!! 」
「そうだろう、試合の合間の検査だ。よくあることだ。ロロ、たくさん食べていいぞ。ここなら金のこともそんなに気にすることはないからな」
俺が気を使わなくていいように考えたのかもしれない。でもそれよりびっくりしたのは、山の王もすごくたくさん食べていたことだ。
「一緒に食べると楽しいものだ、久々食べ過ぎるかもしれんな、医者に怒られそうだ。そう言えばこの前の試合の星で、お前あのカニを食べたか? 」
「あんな高価なもの食べられないよ! 」
「そうだろうな、私もそうだった。だが、あの星の上級の試合で勝つと」
「知ってる! 一年分だよね! 」
「私たちの頃はそれ目当てで、本当に宇宙中から人が集まったものだ。実はあの場所が上級リーグでの初優勝だった」
「そうだったの? 」
「ロロ、そんなに簡単に勝てるわけがないさ、だがちょっとだけヒントをやろうか、手を出して」
俺は言われた通りに手を出した。筋肉のつき方とかを調べるのかと思って、本物の手を出したけれど
「目をつぶって、手のひらを見せて」
なんだかちょっとおまじないみたいな気もしたけれど、とにかく言われた通りにした。
そうして、手のひらに文字を書きだした。短い、簡単な言葉だった。
「何かわかるか、ロロ」
「風、って書いたの? 」
「そう言うことだ、風を知るものがエンランを制すると言ってもいい。この点は他の屋外スポーツと変わらない。お前はあの星に育った、生まれながらの能力かもしれん。クリームから聞いたけれど、ビル風も何となく読めるんだろう? それは凄いことだ、なかなかできることではない。それを生かすことこそが、お前の最大の武器になる。
今はいろいろな事を考えすぎて、それを忘れてしまっているんだよ、ロロ」
「ああ・・・」
確かに自分の武器は何かと言われたら、決定的なものは無いように思っていた。
「飛距離は今の所どうしようもない。体の大きいものが勝つさ。だがお前の年にしては凄く飛ぶ。徐々にその義手義足の調整になれてきたんだろう。誰しもが通る道だ、がんばれ。クリームはもうあの病院の医院長になってしまったから、忙しいのと、お前を特別扱いできないから会えないと言っていた。残念だろうが」
「そうか、クリーム先生らしい。いいよ、俺みたいに先生に抱き着いている子供がいるんだろうから」
「お前も子供だ」
「そうか」
「ハハハハハ、さあ、食べろ、ゆっくりな」
この後は山の王の体験談を聞かせてもらえることになった。
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