第22話 岩男
俺ももちろん山の王の事を調べなかったわけじゃない。色々な逸話が残っていて、「エンラン史上、もっとも個性的な選手」とも呼ばれている。何故なら得意フィールドは「岩山」なのだ。
「私はお前と違って岩山だらけの所で育った。だからできたのさ」
とは言うけれど、それはものすごく難しい事だってわかる。岩や石はそれこそ同じ形のものなんて、宇宙中探したって一つもないはずだ。その上を、ボールがポンポンと跳ねて登ったり降りたりする。映像を見ると、まるで合成して作ったものの様で、いまだに山の王のスーパーショット集は人気がある。
「岩山ではボールが挟まるから、見つけるのに本当に時間がかかった。見つからなくて、一時間探したことがある。それで間に合わなくなって、滝つぼにドボンだ。もちろん深さとか全部調べていて、飛び込みの練習、というか垂直に落下する練習もしていたんだぞ、万が一の事を考えて。それから探知機の犬は止めて、本物の犬にした。そちらの方が良かったよ」
これも大革新だった。確かに大昔は犬と一緒にやった人もいたそうだけれど、それを復活させるなんてすごいことだった。
「でも大変だったんでしょ? 」
「そうそう、その星の自然環境に悪影響を及ぼすかもしれないからと、オシッコはしょうがないけれど、犬の糞だけは持ち帰ってくださいと協会本部に言われたよ。全宇宙大会でも犬の糞を背負って戦ったんだ。糞を、ウンを背負ったから、宇宙覇者になれたかもな、ハハハ」
「本当にやったの? 」
「当たり前だろう? 全宇宙大会前にファンが「自分たちがやりましょうか」と言ってくれたけれど、それは競技の手助けになるから最悪失格になる。今のうちルールも確認しておいた方が良いぞ。
手足組は守らなければいけないルールも、苦労も多い。足組は蹴るから、ボールが大きい、見つけるのもそんなに苦労はないが、手で投げるボールは小さい、子供の大会では見つからなくて泣いている子が必ずいるだろう? お前それを見つけてやったらしいじゃないか、ロロ」
「だってその子探知機の電源が入ってなかったんだよ」
「それがわからないような子供が出るのもどうかと思うがな、そういうことをクリームは「嫌いだ」という」
「ハハハ、言われたんです、プロスポーツは体に悪いって」
「全く、幼い子に何を言うんだ、あいつは。まあ・・・スポーツはケガも覚悟の上やらなきゃいかんがな。スポーツはすべて元は遊びだ。だが・・・そう・・・あれはクリームにはわからんな、体験したものでなければ。
遠くから煙が立ち上っているのが見えた時の、孤独な戦いからの解放感
少しずつ聞こえてくるグリーンキーパーの歓声
ラストショットに沸く声と振動が一つになった大きな音・・・
そう、これを絶対言っておかなければならないと思っていた。知ってはいるかもしれないが、体験したことはまだないだろう、ロロ。大きな大会になれば必ず吹くぞ、「エンラン風」が。これはその地域の気象データーにはない風だ。風向きも強さもその時による。難しいがこの風を読み、この風に乗った者が勝利を手にする。
違うぞロロ!! 全宇宙大会で吹く風は最大級だ!!! 」
嬉しそうに、若返ったように山の王は言った。
「でも・・・それって・・・最近・・・・」
「ああ、大勢の屋台が立つからって言っているんだろう? ロマンがないなあ。でも考えてみろ、今まで人がいたことのない自然の中に、その時だけ人が集まるんだぞ、熱気で温かくなりもするだろう」
「じゃあ、グリーン周りだけ? 」
「それがそうじゃない。グリーンが微妙な風になることはある、それはお前も経験したことがあるだろう。これも気を付けなければならんが、エンラン風は不思議だ。スタート直後のことだってあるんだから。それはこれから経験することだろうが、知っておくといいことだ、ロロ」
本当にたくさんの話が聞けた。そうしてお店を出ると
「ロロ、町では私をじいちゃんと呼んでくれ、知られたくないから」
「ハイ」
「自分のじいさんに「ハイ」はおかしいぞ」
「あ・・・ウン」
それからは本当の孫のようになってしまった。
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