第5話 迷い道
この星の自然、全宇宙の住んでいる星の自然の多くは、人間が作ったものだ。原子の構造はこの宇宙では同様と言っても、元々生物がいない所に住むのだから、大変な労力だった。エンランをしながら色々な物に感謝する。
「地球は今は人が住んでいないけれど、もっともっと豊かだったって聞いた。この星の丘も、地球時代のステップ気候の場所を参考に生態系を移植したって聞いたけど、本当なのかな」
エンランの選手は練習中でも競技中でもこの事を考える。そして俺の場合は森が目に入ると、どうしても気持ちが落ち込んでしまう。しかしこれもエンラン選手には同じようにあることで、それぞれ場所が違うだけ、海だったり、山だったり、もちろん生まれながらにという人もいる。俺の場合は罰と言えば罰だった。
今から7年前のある日
「行ってみようぜ、大丈夫だって。俺の兄ちゃんも平気だったんだから。人が死んだのなんて、もう百年以上も前なんだ。絶対に面白いって」
そこにいたのは男の子ばかりだった。十歳の子を先頭に十人くらいが集まっていた。
もちろん反対意見もあって「僕は行かない、お父さんに怒られるから」と言って帰る子もいた。「一緒に帰ろう、ロロ」と誘ってくれたけれど、
「男だろう、根性見せろよ」
中心になっている子は気も強くて怖いもの知らずだった。その頃俺は小さくて弱虫だった。時々その子から守ったりもされていたので、何だか断りきれずに「帰った奴が告げ口したら大変だから」そのまま向かった、何の準備もせずに。
俺はその時のことを実はとてもよく覚えていて、とても「嫌な感じ」がしていたのは確かだ。
「何か怖い、とても、怖いような気がするけれど、でも」
子供とは言え大人数は、それを見て見ぬふりができる妙な強さになった。
「急ごう、あんまり長くはいられない、もしかしたら明日には移動するかもと言っていたから」
年上の子の一人が言った。
この星の多くの人はいわゆる遊牧民だ。ヤギや羊、馬などとともに
季節によって住むところを変えている。地球時代からこの生活形態はあったという。人間は馬に乗るか、車に乗るかだけれど、移動しながらの最大の遊びは、何と言っても「エンラン」だった。だからこの星からエンランのプロはたくさん出ていて、宇宙覇者も出ている。
「あそこの風はこう吹いて」と子供が教えてもらうこともなく、風を読んだりする。でも俺は小さく、投げる力もなかったので、猶更「風の力」に頼ることを自然に覚えた。それが今では良かったことと思っている。
「急ごうぜ、日が暮れる前に帰らないと」
その言葉に俺は正直ほっとした。つまりほんのちょっと足を踏み入れただけで「俺たちは禁断の森に入った! 」と言いたいのだとわかったからだ。子どもの、子供らしい一面だったのかもしれない。
そうして俺たち一行は森に入っていった。季節は秋から冬になろうとしていて、森に近づくにつれ、葉っぱがカサカサと、時にはバサバサと音を立ててこちらに向かって飛んできていた。
「道がないなあ、当たり前か」
「そんなに怖くもないけど、どうして入ったらいけないんだろう」
「絶対木の実も食べちゃダメって言われてるよな」
「誰か食べる勇気あるか」
「それはやめよう」
風の強い所の森は、うっそうとしているわけではなかった。それほどの暗さも密度もなく、鳥の鳴き声、小さな虫の出す音、別に何も変わったところは無いように思えた。
「なあんだ、もっと何かあるかと思ったのに」
「面白くない、帰ろうぜ」
その言葉に安心したのはどうも自分だけではなかったようで、俺は何人かとちょっとはしゃぐように、木々の間に生えている、背の自分の腰の高さくらいの草を飛んだりしていた。長袖の服と長ズボン、靴もちょっとブーツのような革靴だ。みんなこの星の生き物から作ったもので、俺たちの住んでいる所は夏もそれほど暑くない。俺はエンラン選手になって初めて「半袖、半ズボン」で長時間過ごした。
そしてその時も、本当にどうして俺だけそうなったのかわからない。
「痛い!! 」
「どうしたロロ」
「トゲにやられたみたい」
「服を突き刺して? 」
「うん・・・足と手・・・ありゃ・・服に血が付いた! ばれるかな」
「大丈夫、大丈夫、大きく破けてるわけじゃないんだから、内緒だぞ」
「うん」
怪我をしたのは俺だけで、本当に小さな傷で、ちょっと痛むけれど、歩いて家に帰っていく間に忘れてしまった。
そして、それから本当に三、四時間後だったと思う。急に寒気がし出して、体が震えてきた。そして・・・これだけは今でも忘れられない、あのとげが刺さった部分から明らかに「何かが広がっている」と感じた。
「ロロ、どうしたの? ロロ? 」心配そうなお母さんの声がして
自分でもわかった、これは「隠してはいけない痛みなんだ」と。
すぐさま医療用の高速飛行機が飛んできて、病院に向かった。
「凄い高熱だ、この子の中で必死に戦っているんだろう」
「感染することはないと言われているが、こんな小さな子供では、毒が全身に回ってしまう。確か医療星で新薬を開発中らしいが」
全部聞こえていた。慌てふためく病院の人の声も、お父さんとお母さんの俺を呼ぶ声も、
「この病気、何が原因かもつかめていないんだ」
それを聞いた時、俺は医療カプセルの中、叫んだ
「トゲだよ、小さなとげだ」
「トゲ?? 」
その後キャプテングリーンが医療星へ連れて行ってくれた。
小さなトゲが刺さっただけで、俺は手足を失ってしまった。
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