第6話 厳しさと優しさの先生
「大丈夫かい? 」
手術の麻酔が切れて僕に呼び掛けてくれたのは、陶器の皿のようにピカピカした毛並の犬だった。
「大丈夫です、ありがとう・・・ございます。ヴェルガの先生」
「クリームだよ」
「クリーム色だもんね、栗毛の馬のつやつや感じがする・・・とってもきれいだね」
「ありがとう」
そうしてすぐに気が付いた。片方の手の肘から下、片足の膝から下が無いことを。ぼんやりとした自分の目で確かめたけれど、その時は涙が出なかった。優しいヴェルガの先生、クリーム先生が側にずっといてくれて
「残念だけど、毒に侵されてしまっていてね」
「わかっています」
ヴェルガというのは元々犬だ。でも人間が宇宙開発するようになり、何故か言葉をしゃべれるようになり、電気的な機械の故障を一時的に回復させたり、病気の抗体を作れるようになっていった。
「ヴェルガがいなければ、宇宙開発は出来なかった。出来たとしても数十倍の犠牲と、年月がかかっただろう」と言われている。僕も犬は飼っている。彼らは犬だから人間の言葉はしゃべれない。ヴェルガと犬の違いは基本的には「声帯だけ」と言われている。
でもヴェルガも犬だ。やっぱり可愛い。だから俺のように小さな子の側にヴェルガの先生が付くことが多くて、その方が回復も早いそうだ。俺もそうだった。クリーム先生は今では医療星で一番偉い人になっている。人と言ってはおかしいかもしれない、全宇宙総合病院の医院長だ、人間でなく、ヴェルガがその役をやっている。
最初の優しいクリーム先生が、だんだんとそうでなくなっていったのは、俺が悪かったのか、それとも・・・・
「ロロがいてくれて助かったわ、クリーム先生の相手をしてくれて」
と医療スタッフから感謝されたことを考えると、クリーム先生にも問題があったのかもしれない。
とにかく、この「宇宙で一番偉い医学ヴェルガ」と対等に渡り合えるのは、どうも俺と、子供のころからの知り合いの「山の王」の爺さんと、宇宙の六人ぐらいだと言われている。でももちろん心の底から感謝はしているから、俺が初めて優勝した時のメダルは、クリーム先生にあげたいと思った。すると
「箱の中がいっぱいだからもういらないぞ」
と一蹴されてしまった。それはそうだ、医療星でたくさんの人間を見てきて、中には爺さんのメダルもあるだろうし、スポーツだけでなくて、頭のいい子たちはその分野で賞を取ったりしているのだから。
でも、なんで俺だけ断られたんだろうと思ったら、確かに断りたい理由は山ほど作ってしまっていた。仕方がない、だって、やっぱり病院の生活はちょっと面白くはなかったから。
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