第4話 嵐の予感
「ゆっくり休め、ロロ、明後日は大会の星に出発なんだから」
「うん、ありがとう、父さん、ハーナはどうなりそう? 」
お父さんが迎えに来てくれた、最新のホイールレス車だ。これもエンランの勝利者賞でもらったものだ。
「それがなあ・・・急にレベル8まで上がって、特殊空間航路が進入禁止になっている。しかもバカだから反ヴェルガ組織の連中がまた入って事故ってやがる、救助信号だけは忘れずに出すから始末も悪いし、覚悟もない、全く、航路安全局も助けに行くか協議中だそうだ」
「悪いことって、やっても、後で絶対罰が当たるんだね」
反ヴェルガ組織というのは悪い人間の集まりだ。
「そう言うことさ、本当に面倒な奴らだ。もし数日中に治まっても、今度は危なくて飛べない。ハーナは出場が出来ないかもしれん、それにもしかしたらセキュ=レンの空域も危ないらしいぞ。
「え! 冗談だろう? 」
「エンラン大会本部、総司令部も大慌てさ、今回は大々的に総司令部がスポンサーで、特殊空間航路の安定を祝しての大会だったはずなのに、面目が丸つぶれになるかもしれん。今になって情報が流れてきたよ、やっぱり「宇宙の六人」は大反対をしていたそうだ。俺たちの恩人、キャプテングリーンも結構声を荒げて言っていたらしいぞ「選手ともども殺す気か」って」
「そう・・・キャプテングリーンがそう言ったのなら・・・大会自体が中止になるかな・・・」
「それはあるまい、少なくともこの辺りは安全だから、一日で着くことができる。それよりロロ、お前本当にハーナやセキュ=レンと戦って勝てる自信はあるのか? 」
「無くてどうしてエンランの選手がやれるんだ? 父さん俺はプロテストに合格したんだよ、逃げることなんて、二人のいない大会で優勝したって何の意味もないよ」
「大きくなったなあ、大人になった、でも、義務教育中は勉強も少しはやれ! あと一年だ」
「ハイ・・・」
誰もが通ってきた道だ、これも逃げるわけにはいかなかった。
宇宙のことは簡単に説明しよう。地球時代に発見された「特殊空間航路」はまさに完璧すぎる抜け道で、何万光年も数時間で行くことができる。でも、そこはまさに「航路」、海と一緒だ。俺が生まれた頃この特殊空間航路に宇宙規模で「極端な時化」が起こってしまい、
誰もその中を航行できなくなってしまった。宇宙開発を広げることばかりに熱心だった人間は、地球時代の「自給自足」を完全に忘れ去っていたところに、このことが起こったのだ。そのため、人類として最大級の「存亡の危機」となってしまった。
その打開策として、総司令部はこの時化の中でも航行できるパイロットを養成し始めたが、結局これができたのは宇宙中でたった六人、それも不思議と全く同じ訓練校の同期の六人だった。
その中の中心人物、リーダーと言われているのがキャプテングリーン、俺がプロテストに合格した時、初めて顔を見て話すことができた。
だって、俺が正体不明の毒に侵されて、死ぬ寸前だった時に、医療星(最新の医療技術を常に開発している所)に連れて行ってくれたパイロットだ。
もちろんその後の医療チームもそうだけれど、命の恩人の第一号だった。
今から7年前のことだけれど、今でもはっきり覚えている、強烈な痛みと熱の中で、両親が喜ぶ声が聞こえた。
「キャプテングリーンが医療星へこの子を連れて行って下さるんですか! たまたまこの空域にいらして、そうですか、なんて幸運な子でしょう、でも・・・この子の命も大切ですが、危険な中航行なさって万が一キャプテングリーンに何かあったら・・・」
俺は医療カプセルに入ったまま母親の声に耳をすました。
「いえ、その点はキャプテングリーンが航行可能と判断なさったので大丈夫です。ただ同行されるお母様が気分が悪くなったり、急に精神的に不安定になったりすることがあるので、その点に気を付けてくれということです」
「分かりました、すべてキャプテングリーンのおっしゃる通りに」
と言ったからなのか、俺と船に乗った途端、母親は全くの別室に鍵をかけた状態で入れられたそうだ。
「どういうこと? 」
ともちろん不安と死線をさまよっている子供の側にいられないということに不満を漏らしたら
「すいませんがそこにいてください、異常行動をとるような電波が出ています。今までのストレスで逆に息子さんの生命維持装置を壊したりする可能性だってあるのです」
それを聞いて母親は納得したそうで、小さな部屋で「祈ること」しかできなかったそうだ。そうそう、この事は絶対にしゃべらないようにとも言われた、カプセルの俺にもそのことを説明してくれた。
「クリームからきみの意識を途絶えさせないようにと言われている、エンランの映像をかけているからね」
その言葉に僕は答えた。
「ありがとうございます・・・ごめんなさい・・・」
禁断の森、人間は決して入ってはいけない、研究する人間でさえ、バードカメラでしか見ることのできない森に、子供の興味半分で入ってしまった罰だった。
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