第3話 偉大な選手


「四時間でこのタイムか・・・好調だな、疲れも少ない」


 自分のためにグリーンは作れないが、本番と同じ煙を出すのろし台をもらったので練習することにした。俺は何より「煙切り」が大好きだ。あんまり大きな声では言えないが、本体に当てるなんて邪道とも思っている。まあ自分と同じ手足組の女子

「森のハーナ」のように缶を一回転させる大胆な完璧さは大好きだけど。

風にたなびく煙の、その方向を計算してこそ完璧なゴール、というのが俺の信念、この前の負けた大会でも最後の試技に対する賞「ゴール賞」は俺が取った。丁度無風状態でまっすぐ投げても面白くないから極端にカーブさせた。


「あれ、ロロどこ投げてんだ? 」「失投か? 」

「何だよ、高い金払って見に来ているのに」「いや、違うぞ、曲がってくる」「でももう通り過ぎたぞ」

「戻って来るぞ、ブーメラン投法だ」

「煙を切ったぞ!!! 天才児ロロ!! お前が新しいヒーロだ!!」

あの時のグリーンキーパーたちの興奮ときたら、もう今までで最高だったのに


「本当に、なんで負けたんだろう、大人の事情って言う人もいたけど、まあ・・・」

それは考えても仕方がない。勝った人間は俺より年が上で、ずっと二位が多かった。グリーンキーパーが手拍子をしながら「ロロ、ロロ」

というのに対し、その相手、「キング、キング」(本名だからカッコいいなと思う)を呼ぶ声は少なかった。でも試技を見ると確かにスーパーキックが数多くあった。キングの最大の得意技は「水切り」だ。池の上、大きなボールでそれをやるのだから確かにすごい。途中で止まったら、もちろん泳いで取りに行かなきゃならない、タイムロスの分、笑いは取れるから、まあパフォーマンスの一つとしても面白いかなと思う。今までキングはそうだった、必ず一度は失敗して、水着になるのがお約束。でも今回はすべて成功していたから、グリーンキーパーたちは徐々に傾いていき、最後に司会者がみんなに問う

「優勝者は! 」

「キング!!! 」


その時にキングを見たら、本当に「何も考えられない」と言う顔をしていた。この星域でシルバーコレクターと言われてもう何年もたっていて、実は俺は今まで負けたことがなかった。必ず「水のへま」をしてくれるからだった。

「くそ! 今度はこんなガキに負けるのか! 」

負けた時に悔しそうにしていたのは何度も何度も見たが、こんな様子は初めてだった。でもキングがそうするのは当然と言えば当然、何故ならこの星域で圧倒的な一位、エンラン史上最強最高の選手と呼ばれる男がいたからだ。

俺もキングも、彼がいたから迷うことなくエンランをやり始めたし、爺さん、レジェンドでさえ「今、若くなくてよかった」と言わしめる人、そう、彼と同じ所で競えるのだ! 


「勝てるか? いや、そんなことよりも、ちょっとでもいいから褒められたい、あのセキュ=レンに! 」



彼の力はあまりにも圧倒的だった。観客が他の競技者の名前を呼ぶこともなく

「セキュ レン セキュ レン」

というコールがグリーンに響き渡るのだ。彼は自分と同じく手足組だが、まず本当の「オールラウンダー」だ。森から草原まで、それに完璧に対応する投球能力を持っている。俺はこの星で育ったので風を読むのが得意だ。まず外れたことはない。だから風に乗せてボールをより遠くに運ぶことができる。地形から途中の上昇気流を読むことも、俺にとってはそんなに難しいことじゃない。でも木々の間をぬうような細やかな投球は出来ない。森のスペシャリスト、ハーナはそれが得意で、今度の大会にも出て来る。女の子の出場は彼女だけ、しかも今季絶好調で、優勝候補の一人ではある。がそのハーナでさえ「彼の球は違う、生きているみたい」という。遠投もそれは見事だ。 


でも「山は少し苦手」だからという理由で結婚を機に、この星域から離れた所に移住した、もちろん山の腕を磨くために。

そこで苦手だったはずの山で勝ち抜き、全宇宙大会へとやって来る。彼がまだ手にしたことのない称号を、当然のごとく受け取るために。


「ああ・・・キング・・・やっと目に涙がこぼれだしましたか。さっきまで呆然と立ち尽くしていましたが、セキュ=レンとの試合を思い出していたのでしょう。良い試技をしても自分の名前がほとんど呼ばれることもなかったあの悔しさが・・・・・やっと・・・・・」


何故かテレビ中継のアナウンサーまで泣いた。確かにセキュ=レンとの試合を俺も何度も見たけれど、キングがかわいそうなくらいだった。中にはキングが試技賞と言って、その試合の最高の試技として認められたこともあったのだ。だが、それをも霞む程のすべての試技の質、ボールを見つけ出す速さ。実際のスコアーと予定表との誤差の無いことと言ったら、見事としか言いようがない。フィニッシュの煙切りに至っては、ある部分を通して煙を二本にしたりということができるのだ。


「勝てる? いやとにかく俺は俺の最高の試技をして走るだけだ。

負けないぞ、負けるのは嫌なんだ、やっぱり」


そう言って煙を切ると。


「あ! ここか! ここを通せば二本になるのか!! 」

発見ができた。


「よしよし、いいぞ、本番にも使えそうだぞ、まあ真似と言えば真似だけど、まずはそうすることも大事だってセキュ=レンも言っていたし」

と一人でニコニコしていると、不意に「ピーヒョロ」と鷹が遠くで鳴いた。見ると森の真上だった。



「俺はオールラウンダーにはなれない・・・なりたいけど、やってみたけど、森では体がすくんで進めなかった・・・」


何故なら俺の手足を失った場所、それがあの遠くにある「禁断の森」だったからだ。

セキュ=レンに憧れて、別の森で練習していたけれど、そうすればするほど、エンランの大会で思ったように勝てなくなった。


「ロロ、森のことは私に任せて。あなたは広い所で思いっきり投げて走って。私はそれを見るのが大好きよ」


ハーナはとてもやさしい。年上で美人・・・とちょっと思う時もあるけれど、料理も上手だから姉さんと、いうよりエンランでは頼れる兄さんのようなものだ。恋愛感情は全くない、何故なら


「ハーナは絶対に倒さなければいけないライバルだから!!! 」

同じ手足組、だからこそ負けられないというのもある。


何度か会って連絡もしているけれど、星域が違うため直接対決は今度が初めてだ。


「ハーナ・・・でも心配だな。大会会場の星まで来れるのかな。

中心部の特殊空間航路、急にまた荒れだしたって」


今度の全宇宙大会は十五年ぶりなのだ、それは特殊空間航路の嵐のためだった。

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