第29話 出場、不出場
その日の夜は俺とカイウだけで話した。昔の事、エンランを始めてなかなか勝てなくて、「自称ファン第一号」のカイウからどれだけ励まされただろう。
「ロロ、天才には天才の苦労があると思うんだ。エンランは他のスポーツとは違う面もあるから、大変だと思う。でもロロ、今のロロの成績は最初の、無名時代のセキュ=レンのものとよく似ているんだ。
苦しいだろうけれど、がんばって、ロロ」
今思えば、十歳前の子の言葉だとは思えない。
「カイウ、やっぱり頭いいよな、あんなこと言うなんて、すごく大人だったよな」
「でも最近ロロの方が凄いよ、やっぱりチームを率いてるって感じがする」
「でもさ、エンラン協会が感謝したんだろう? カイウに。ボールの色の事で」
「ああ、最近流行のボールの色はこの星ではだめなんだよ、鳥の卵がその色で、他の動物たちが「飲み込んだ」ことが過去にあったんだ。前の規定ではその色を使わないようにと書いてあったんだけれど、それが無くなっているから、どうしてか聞いたんだ。すると完全に「協会のミス」だったらしい」
「凄いな、カイウ」
「ロロのがびっくりだよ、あの時急にエンランの本を山ほど読み始めて。みんな「階段で頭を打ったのか」って言っていたんだよ」
「ばれてたんだ、階段の練習」
「ロロは優しかった、今でも」
懐かしい話も沢山したけれど、
「ロロ、僕はルートの専門家じゃないけれど、明日の散歩一緒について行ってもいいかな・・・・・」
「もちろん、お願いするよ」
そして一夜明けて、俺はエンラン協会に即来るようにと言われた、選手とチームの代表者だけという特別なものだった。
「ドーピング検査は抜き打ちだよね」
「な、はずだけれど・・・まあ情報は持っているけどね、ロロ言っておいた方が良いのかな、知らないみたいだから・・・」
「何? 特別な事? 」
「昨日わかったことなんだけれどね、出て来るよ、選手として「山の王」が」
「そう・・・そうか・・・言っていた、俺が全宇宙大会に出るときには出場してやるって」
「出場してやる、か。複数回優勝しなければ永久出場権は得られないから。さて、手強い敵が増えたな」
「でも、俺は俺のフィールドだから、セキュ=レンの方がやり辛いだろうね」
「彼にとっては、最大の敵かもね」
そうして大きな部屋にエンラン選手がたくさん集められていた。
「ロロ!! 」
「キング・・・うわ・・・仕上げてあるなあ・・・」
キングは片足の義足だけだが、その鍛えた上半身がきれいにわかるような薄いピチピチのシャツを着ていた。
「お前はここまで鍛えるなよ、まだ成長期のおこちゃまだから、やりすぎると背も伸びなくなる」
ちょっと上から言うのは年も十以上離れているし、この前の優勝の勢いがそのままにあるからだろう。
「わかってるよ、わあ、でもみんな見たことのある人達ばかり」
「そうだな、でも・・・」
「でも何? 」
「この中でも、俺ってエンラン選手としてはなかなかの顔だと思うんだけど、いまいちそう言われないんだよなあ、どうしてだと思う、ロロ? 」
「そう言う風に言うからだろう? 黙っていたらカッコいいのに」
「セキュ=レンはそれほどじゃなくても、女性ファンが多いのは」
「そう、きっと寡黙だから、キングはしゃべりすぎなんだ」
「お前・・・年々ティーンエイジャーだな」
「真っただ中だよ」
「この二人面白いなあ、エンラン選手辞めたら二人で組ませませんか、コメディアンで」
「それはいいアイデアですね」
お互いのチームリーダが言っていたが、キングは俺の耳元でささやいた。
「お前の師匠の出場の事でわざわざ呼び出し? 」
「俺もさっき知った」
「レジェンドのチームの人間が山をうろついていたんだとさ、爺さんだから山に迷ったのかと思ったら、すいすい行くからおかしいと思って、誰か調べたらわかったらしいぜ」
「でも、それなら連絡だけで済みそうなものを・・・あ、ハーナは」
ちょうど協会の一番偉い人が部屋に入ってきて急いだ感じで言った。
「皆さん、急に集まってもらって申し訳ありませんが、この事はいち早くお知らせしなければいけないと思い、来ていただきました。
実は・・・セキュ=レン選手は出場辞退です。理由はケガによるものです」
選手もチーム代表者たちも、しばらく力が抜けたように立っていた。
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