第26話 大人のため息
「君の球はとにかく飛び過ぎると言われているんだ、さっき見せてもらったものより、試合では百メートル以上飛ぶだろう、ロロ」
「風向きと、落ちた後の転がりがあるからでしょう」
「転がりやすい所に投げているの? 」
「もちろんそうです、だって大人の人と争わなきゃいけないから」
「一年したらプロの試合にも出ることができるよね、そのつもりなのかい? 」
「ハイ、そうです」
「では実際に見せてもらおうか、今日はちょっと風がある、君の腕の見せ所かな」
「そんなものじゃないですよ、地形と過去の気象データーをもとにしたりしますから」
「え??? 君の年で?? 」
「だってここで散歩なんてできないから。出来るだけ資料を見ないと。普通はそこまで見ないです。実際の散歩の方が大事みたい」
「そう、とはプロは言うけれど」
「じゃあ五キロ先のゴールまで行けばいいんですね」
「ああ、もう煙が見えるね、どんな感じだい? 」
「うーんとゴール前で煙切りをしたいから少し飛距離を調整するとして、12投で行きます。転がりがかなりありそうだから、十分でしょう」
「十歳だよね、ロロ」
「そうです、この前飛距離を研究している人が来て、俺のものはベクトルがどうとか言っていたけど、わからなかった」
「数学的に見ても、空気力学的に見ても、君の投球は調べてみたらものすごく理にかなっているということがわかったんだよ。回転のかけ方とかもその時によって変えているんだろう? 」
「もちろんです、そうじゃなきゃ飛ばない」
「つまりね、そう言うことが瞬時に計算できるとすれば、それはものすごく優秀なチップが入っていることになるんだ。でも君の場合はチップは入れられない、小さすぎるのと、君の病気のために。きっと将来的にも君にチップが組み込まれている可能性は低い。もう一度聞くけれど、君の体にチップは入っていないんだね、正直に言って欲しい。君の年だから、君が裁かれることも、君の家族に迷惑がかかることもない。埋め込んだ人間たちが罰せられるだけだ」
「チップでエンランができるのならば、きっとこんなに夢中になることもないと思いますけど」
「なるほど・・・」
調査の投球を始めた。
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