第27話 帰ってくる約束
「ここ、面白い!! 」
俺は投げて走りながら思った。風の吹き方も独特で、ものすごく強い風が吹くかと思えば、場所によっては無風になることもある。
「どうしてここをエンラン大会の会場にしないんだろう、森もあるみたいだし、遠くに岩山も緑の山もある、最高だと思うけれど。本部もあるし、離れた所にたくさんホテルとかもある。
子どもでもそう思った。
「面白いだろうな・・・ここで投げたら。今の所俺は山にも森にも入れないから」
これもエンランのルールで、過酷な自然環境で試技を行える年齢があって、俺はそれを超えていない。特に山では滑落したり、落石があったりする場合があるからだ。山でのエンランは最悪「死ぬ」こともある。試合ではないけれど、練習中に大けがというのはよくある話だ。だから山の王の爺さんはやっぱり「レジェンド」なのだ。
ハーナは森でできる年だけれど、ただ女の子だから、一か月に数日は「入ってはいけない時期」がある。血の匂いで肉食獣が寄ってきてしまうからだ。もちろん草原でも同じこともあるから、女子は不利だともいわれる。確かに全宇宙大会優勝者で女子は、今まで一人しかいない。でも間違いなく今まであった女子選手の中で「最高の技術とセンス」を持っているとわかった。
「ああ、いけない、試技に集中しよう、遅くなったらいけない」
そして俺のように草原地帯で行うものには、シンプルなシンプル過ぎる条件がある。つまり
「より遠くからゴールに向かい、より遠くへ投げ、または蹴り、すべての試技を失敗無く行う」
ということだ。エンランの発生時、原点と言われるこの事をクリアーしなければ、広い所で優勝するのは難しい。グリーンキーパーも上級リーグになれば目が肥えて来る。
毎年グリーンキーパーたちが選ぶ「将来有望な選手」というのがあるけれど、今俺はその三位にいる。すごくうれしいことだ、だって宇宙中で三位なのだから。で、セキュ=レンに俺の事を聞いたらしいけれど
「これからですね」と一言だけだったという。馬鹿にされたとは思わない、セキュ=レンは子供に対してはみんなこう言う。一方大人の、自分のライバルに対しては厳しい、というか当然の事とは思うけれどたくさん話は残っている。
人が変わった様に勝てるようになった選手に、最初は囁くそうだ
「ずるをして勝っても、絶対に続かないよ」と。
不正チップの発見者とまで言われている。
「ああ、もう終わっちゃった」
エンラン本部の数人のグリーンキーパーが見えて、俺は最終試技に入った。
「突風だな・・・帽子が飛ばされかけてる、ねえ、審判鳥、グリーンキーパーたちに右によってもらえるように指示してもらえないかな、
曲げるから」
バードカメラがもちろん数台ついてきていた。そして審判鳥もいる。これにはマイクが付いていて、選手の声を拾って、自分では解決不可能なトラブルや、急な天候の変化、落雷などによる一時中止を選手に知らせる。また、他の選手のボールが飛んできているということを知らせることもある。他の選手のボールに接触してもいけない。子どもの試合はそうなることもあったけど、今ではほとんどないけれど。
「行くぞ! 強めの回転をかけて、はじめは低く、それから徐々にだ。ちょっと緊張するな、久々」
ラストショットは百メートル以内に設定する。そうでないとさすがに狙うことは難しすぎるからだ。俺はちょっと近づきすぎたので、煙を乱しても球の威力が落ちないままになる。
「行くよ! ラストショット!! 」
低く投げた。
「え、低すぎない? 」「ロロは煙切りタイプだったろう? 」
「ん? ホップしてくる? 」
「あああああ!!!! 」
煙を出す缶の上ギリギリを通過した。
「ちょっと低すぎたかな、でもストライク!! 」
俺はその後空を見た。
煙がちょっと途切れて上に登っていくのを少々のんびりと眺めた。これからは歩いて良い。煙を切った時間がゴールのタイムなのだから。
「素晴らしかったよ、ロロ」
「此処、いい所ですね、エンラン会場に最高」
「ああ、ロロは知らないか、ここはね、年に一度行われていた全宇宙大会の会場だ。その時だけのための場所なんだよ。
ロロ、君が大きくなった頃にはまた全宇宙大会が開かれることを私たちも願っている、そしてここに帰って来てくれ」
「ハイ」
疑いは晴れたようだった。
そして大会本部の建物の中でハーナと再会した。
そして何も言わず、顔を見ただけでお互い義手じゃない方でハイタッチすると
「痛い! ハーナ力強い! 」
「ロロだって」
二人で笑った。
「俺、絶対ここに戻ってきたい」
「私も。今までの中で本当に最高の森だったわ。十年前の映像を見たけど、私だったら違う攻め方をするわ。ああ、楽しみ!」
「でもハーナ、偉そうだけれど・・・下部リーグと中級リーグはまた違うよ」
「ありがとう、ロロ。でも私はエンランを始めたのは遅い方なのだから、落ち込んでいる暇はないわ。経験を積んで、先に進むだけ」
「凄いな、ハーナ。こっちも元気をもらえた」
「そう、それなら良かった。私はあなたに道を開いてもらったのだから」
二人でここで再会しようと約束した。
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