第32話 ハーナの過去

「本人がそう言ってくれて助かった、なんだ、評判通りの子じゃないか。試合とは別人って本当だ、噂って大体半々だから」


サマーウインドはサングラスにマスクという顔で、星に降りた。

大きな都市に人ごみの一部になった時には、もう夕暮れも近かった。

だが週末の休みなのでまだ家族連れも町に多くいて、広告に使われる巨大スクリーンには、セキュ=レンの事がずっと報じられ、ハーナの事はまだ正確には伝えられていなかった。


「ハーナはどうなるんだろう」「優勝候補なのに、まだ現地に着いていないんでしょ」

責任が自分にのしかかっているようで、サマーウインドはすぐさまそのスクリーンの側から離れた。


「くそ、きっと総司令部は「キャプテンサマーウインドが首を縦に振らなかったから」と言うというつもりなんだろうな。全宇宙大会なんて早すぎるとあれだけ言ったのに」

自分の中で終わったことが蒸し返されて、嫌な気持ちにしかなれなかった。そんな中、きっとずっと昔から変わりなくある都市の形、物を売る店、食べものを売る店、銀行、警察行政機関、その中を黙々と下を向きながら歩いていると、かなり町のはずれまで来てしまった。もう住宅地が近くなり、電気店のショーウインドウのテレビモニターに、エンランの事を話している模様が映っていた。

それを母親と、背がほとんど変わらなくなっている娘なのだろう、ずっと熱心に見ていたが、母親の方がどこか真剣だった。


「ハーナ出られるのかしら、お母さん、ハーナと一緒のチームにいたことがあるんでしょ? 」

「ええ、球技のね。そうね、お前も大きくなったから話しましょうか。ハーナは本当に身体能力が高かった。球を投げるのも取るのも男子並みだった。でもそれで随分嫌な思いもしてきたの。相手チームが「あの義手義足の子のせいで、機械で負けた」っていう子、保護者もいたのよ。

わかっているはずなのにね、そのためじゃないって。それが大きくなったら止むかと思ったら、そうではなかったの・・・

でもエンランだったら誰もハーナを義手義足の事で責めたりはしない、だからエンランに移ったのかもしれないけれど、ハーナは・・・本当は普通に球技を、チーム競技をしたかったのだと思うの。きっとそれでも優秀な選手になったのよ。

だからエンランで全宇宙大会に出ることが決まっても、そんなに驚かなかった、ハーナの力ならできるだろうと信じていたの。特に今が選手として一番いい時期なのに・・・こんなことで・・・」

「おかあさん・・・」

母親は少し涙ぐんでいた。それをどうしたらいいかと悩んでいる女の子を見た時、サマーウインドはまた大きなため息をつきながら、その場を離れた。


「ああ・・・嫌な・・・いいものを見せられたなあ」

何度もため息をついた。


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