エンラン 全宇宙総合球技記念大会

@watakasann

第一章 エンラン選手誕生

第1話 小さな木の小屋で


「全く・・・あの爺さんときたら何なんだよ「足組に負けるなんて手足組の恥だ! 」なんて言っときながら、何だよ、調べたら自分だって一番調子のいい頃全宇宙大会で負けたくせに。俺があんまりエンランの歴史には興味がないから知らないと思って偉そうに」


 俺は実はこの前の大会で負けてしまった。片足が義足の、蹴ってエンランをする選手、要は足組にだ。俺は左手と右足の義手義足組、だから手でボールを投げて進む。飛距離としては圧倒的に有利なはずだった。でもエンランの勝敗はとても難しい、自分としては勝ったつもりだったし、試合後に会った人達は「俺の方が良かった」と言ってくれたけれど、まあこればっかりは仕方がない。

そしてそれが俺たちの住んでいる星域の大会だったから、優勝者は全宇宙大会への切符を手に入れられる。で、俺は負けたけれど、その前の試合までほとんど全勝だったから推薦枠で出られることになった。これを聞いた時は最初は喜べなかった、だって負けて出るなんて嫌だったからだ。でも周りの人たち、義手義足を作った人達や、ボールのメーカーの人、そして両親は涙を流して喜んでいた。それを見て、素直に

「そうか! あの復活した舞台に立てるのか」と思えるようになり、今は本番さながらの最終調整中だ。本番中はよっぽどのトラブルが無い限り、他の人の助けは借りられない、借りることをすれば優勝は遠のくからだ。


 

 外は風がまだ冷たい。でも今はあったかい絨毯の上で、座って右足の義足の調整をしながら、小さな木の小屋で一人俺はぶつぶつと文句を言っている。極小のドライバー、ちょっと曲がったような形の物もあって、それを使い分けながらネジを締めている。でもハッとして口に出した。


「ああ! いけない! そうだ! 全宇宙大会は競技中の選手の言葉も流れるんだった! それも爺さんから教わったんだった・・・爺さんって呼ぶのもうやめた方が良いよな。だって全宇宙を複数回制した最高の選手だ。ずっと爺ちゃんって呼んでたけど、それを嬉しそうにしていたから呼び続けてたけど、もうやめよう。14になったんだから、俺もちょっと大人になった。みんなレジェンドとか山の王とか呼んでる、俺はどう呼んだらいいかな」


すると側においてある小さなボックスから「ピー」という音がした。義足の調子がちょっと悪くて、線をつないで調整していたのだ。この音は正常につながった時の音だ。

「ヨシ! これで完了! 」 開いていた足のすねの部分の蓋を締め、足にカチリとはめた。俺はズボンを下げ立ち上がった。

小屋の外からはびゅうびゅうと風の音がしている。この小屋には窓はない。エンランの調整のためだけの小屋だから、お父さんが木で作ってくれた。絨毯はお母さんが作ってくれて、ここに練習に来るときは、たくさん食べ物も用意してくれている。


「そう、エンランも昔からのスポーツと何も変わらない。一人ではできないんだ」

ちょっと全宇宙大会向けにカッコいいことを言いながら、外に出た。


 

ものすごい風が小屋の中に吹き込んだ。


「わあ! 」


見慣れた風景だけれども、少し暗いところから外に出た時の感動はいつもある。

目の前には緑色に敷き詰められた丘、丘、丘。

この小屋は大きな丘に隠れるようにあるけれど、それでもとても見晴らしが良い。木はほとんどない、だが遠くに森は見える


「いけない、小屋の電気を消して、ボールと犬と水と食料、ああ、この点本番は楽だな、全部用意してくれているから」

因みに犬というのはボールの探知機の事だ。どこにあるのか、草に隠れている時でも正確に見つけ出すことができる。俺の使っているボールは掌サイズだから、この犬が最高に優秀でないと、投げたものが発見できなくて困るのだ。


「さあ! 行こうか! 今回の犬は最高傑作だというしボールとの相性もばっちりだ、開発時から一緒だったらしいから、ってそうするのが本当じゃないかなとは思うけど、まあ、俺は選手、競技に専念しなきゃいけない」


 俺は構えた。ボールを投げる、できるだけ遠くに、そして走って取りに行き、それからまた投げる、ゴールまで永遠に続けなければならない。

「あ!! いけない、いけない! いっつも忘れるスコアーカード」


何回投げたかは自分が記録しなければならない。それを忘れたり嘘があった場合は失格になる。


「ヨシ! 行くぞ! 風は上空で巻いてそうだな、これならあまり高く上げないでまっすぐ飛ばそう」


俺は構えた。まずは心を落ち着けて、ゆっくりと義手の右手を引く。ボールに澄み渡った青い空を十分に見せてそして勢いよく振りかぶり、手首のスナップを忘れずに


「いけ!!! 」


発信機付きの小さなボールを思いっきり投げた。ボールの姿はもう全く見えない、義手と義足のパワーで、飛距離はゆうに七百メートルを超える。


「さあ目指すぞ! エンラン全宇宙大会の史上最年少記録の更新だ!!! このロロが宇宙に新時代の風を吹かせるんだ!」

フィニッシュで前に数歩出たその勢いのまま、俺は走り出した。

人間が作った大自然の中へと。


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