第11話 絵のモデル

 

 この事があってから、俺とクリーム先生は「今までの患者さんでこんなにクリーム先生と仲がいい子は始めて見た」というくらいになった。すれ違った時でも必ず話をしたり、他の先生と話をしていたら、それが終わるまでちょっと(三十分くらい待った時もあるけれど)待ってから、抱き着いたりした。そしてこの病気の事の発表前、同じように部屋で説明を受けた。


「ロロ、お前のケガの事でわかったと言いたいのだが、そうするとお前に取材が殺到してしまう、この病院にも人が大勢やってくる。悪いけれどしばらく黙っておいてくれないか」

「うん」

俺は素直に聞いた。何故なら俺は生きているけれど、俺より小さな子でこの病気が原因で亡くなった子もいるからだ。それを理解できる年齢に、また病院に長くいるからわかるようになってきた。

ここにいるほとんどの子は、俺のように危険な所に行って、罰が当たったわけじゃなかったからだった。

そうして日々は過ぎていった。




「絶対クリーム先生がいい!!! 」


女の子たちの言葉に、俺たち男の子は「えー」という反対気味の声を出した。その中には俺も混じっていた。

病院の学校の中で、今度の写生の時間に「描きたいものはないか」と先生がみんなに聞いたのだ。


「ねえ、あの図書館の入り口に飾ってある絨毯の上のクリーム先生、きっときれいだよね」

「うん!!! 赤い小さな花模様の絨毯の上のクリーム先生なんて本当に素敵」


年上の女の子たちの言葉に、誰も反論できなかったが、

「面倒だな・・・」「描きにくい・・・」と俺たちがこぼしていると

「だってあの絨毯はロロの星のものでしょ? いいじゃない」

「俺はいつも見ているからそんなに特別なものとは思わないけど。まああれは凄い名人の作品だって、お母さんが言っていたけどね」」

「そっか、ロロの星じゃ普通にあるものなんだ」

「まああれは売り物として作ってあるとは思うよ、大きいから凄く時間もかかったと思う」

「さすが、星の人間!! 」

「当たり前だよ」「ハハハハハハ」


だからと言って決定が覆るわけではない。でも俺はどこかでこの可能性は半々だと思っていた。何故ならクリーム先生は忙しいのだ。そう何時間もモデルをやることなんてできはしない。学校の先生も

「絨毯の借り出しは出来るとは思うけれど、クリーム先生は時間の都合をお聞きしないとね」

「えー!! 」女子の声と「絨毯は絶対描くの? 」という男子の声は、まさに学校だった。



そして写生の日が来た。先生が嬉しそうに

「クリーム先生が来てくれることになったよ、みんな」

「わーうれしい!! 」

「良かった、新しい絵の具の白を買っておいてもらったの! 」

部屋の真ん中に敷かれた絨毯は、確かに俺の星の花の模様だった。でも俺はそんなに絵を描くのが好きでもないし得意でもない。

「なるべく細かく描かなくていいようにしたいな」

と子供ながらに考えて、先生が来る前に構図を決めた。小さな子はクレヨンや色鉛筆で。俺たちは水彩絵の具だった。


「絨毯は汚したら駄目!! 」

その注意があっている中、クリーム先生が現れた。


「みんな呼んでくれてありがとう。この絨毯の上? それは豪華だな」

「先生! 早く絨毯の真ん中に! 」

「ここらへんかな」

「わーキレイ!! 」「カッコいい!! 」

クリーム先生は体がヴェルガとしても体が大きい方だから、赤いその絨毯の上に立つと、まるで真っ白の狼のように見えた。


「立っていた方が良いかな」

「先生座って、立ったままは疲れるでしょ? 」

「優しいなあ、みんな」と言って丸まって座った。


「良かった・・・足の隙間の絨毯も描くのかと思った・・・」

俺と同じことを思った子はきっとたくさんいただろうと思う。

でも絵を描き始めると、みんな案外夢中になっていた。




「ロロ・・・せっかくクリーム先生と赤い絨毯なのに・・・」


先生から言われる下絵を描いてしまった。つまり絵が苦手な俺はなるべくすべてを小さく書こうと、病院の部屋の壁を大きく書いて、絨毯を小さく、更にクリーム先生は小さく、というようになってしまった。

ちょっとだけ他の子の絵を見たが、先生を中心に描いて、周りに絨毯の花を描いている子がほとんどで、凄く上手な年上のこの前には人だかりができていた。


「さあ、あんまり時間が無いぞ、クリーム先生はお忙しい」

「いいよ、今日はこれから非番だよ、でも・・・このまま寝てしまいそうだな」

「先生、眠って、それも可愛い!! 」

「そうかな、じゃあ・・・ちょっとだけ」

クリーム先生はすぐに眠りに入った。

それと同時に、早々と色を塗り始めた俺は、気が付いた。


「あ! 壁をクリーム色にしたら、絵の具が足りなくなった! 」




この後のことで、永遠にクリーム先生の逆鱗に触れることになってしまった。


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