第34話 チームの怒りとクリームの怒り
「どうして私たちが一緒に行けないんですか? ハーナ一人だけってどういうことです? まがりなりにもハーナは年ごろの女の子です! キャプテンサマーウインドと二人きりに出来るわけがないでしょう? 」
その言葉の中の一言に、ハーナと数人が苦笑したが、総司令部と航路安全局は全く意見を変えなかった。
「何度も申し上げているように、許可証を持つ人間しか入れない特殊空間航路を通るのです。そこを通れる人間も明確な理由が無ければいけないのです」
「総司令部主体の全宇宙大会なのでしょう? ただでさえ散歩が出来ないのに一緒に行くこともできない。我々がさらに後に着いたらハーナはどうなるんですか? 我々は試合に行くんですよ! 遊びに行くんじゃないんだ! 優勝候補のサポートなんだ! 」
普段冷静な人間まで怒り始めたが、行くと決めたハーナはそれを制するように
「わかりました。キャプテンサマーウインドの船には私だけが試合に必要な機材を持って乗ります、体調管理に必要な食料も載せます。それはよろしいですね」
「ええ、そのようにお願いします」
怒りが収まらないチームメンバーを何とかなだめて、ハーナは一刻も早く出発したかった、とにかく一秒でも早く着きたいのだ。
そうしてサマーウインドの船に荷物を積み終わったのは、「出場辞退」と言い切った三時間後だった。
「キャプテンサマーウインド、お待たせしました」
「決断も早かったね、ハーナ。一人は大変だろうけれど」
「キャプテンサマーウインド、ハーナをお願いしますね」
「はい、マネージャー、壊れやすい荷物と思って運びますよ。さあ、出発しよう、ハーナ」
船はステーションを出た。チームも別の船で行くことになったが、騒動はほかの所でも起こっていた。
医療星の総合病院の院長室の前で、数人の医師が右往左往していた。本来なら報告とちょっとした会議のためにここに来たのだが、明らかに怒号が部屋の中から響いているのだ。しかも「ボルト」と言っている声が聞こえる。
「機械ヴェルガのボルトと犬猿の仲だという話は本当なんだな」
と思うのは自然なことのようだが、話を聞いていないのだから、本当はそう考えるのは身勝手な事、それが噂の元なのだ。そしてそれは数年、数十年にもわたり一人歩きすることになってしまった。
クリームに非があるとすれば、それは声が大きすぎたということだけなのだけれど。
「どういうつもりだボルト!! 総司令部から聞いたら「サマーウインドにハーナを運んでもらったらいい」と言ったそうじゃないか! サマーウインドは休暇明けだぞ!! どうしてそんなことをさせた! 」
「最初の予定は危険だったが、今、行っている所は穏やかだから」
「穏やかでも十日間で毎日のように特殊空間航路だ! あいつは疲れている! だから休ませたのに!! お前はエンランとサマーウインドの体調とどっちが大事なんだ? 心配していたのはお前も同じだったろう? それとも何か? お前の爺さんの糞を運んだ山の王が出る試合に、女の子の一人でも出したいとでも思ったのか? 」
「女の子・・・そう・・・いい子だから、ハーナは」
「は? 」
「その、いい子だからハーナは。とても優しい、思いやりもある子だ」
「ハーナのファンなのか? それは個人的な理由だろう」
「それは違う」
「何が違うんだ」
「幸せになって欲しい・・・その・・・丁度いいかなと思って。サマーウインドには伴侶がいた方が良い。そうすればもっとゆっくりと精神的にも落ち着くだろう。その・・・二人が・・・いいかなと思って」
「お前キューピットになるつもりか? それとも機械ヴェルガの予知か? 」
「航行の安定のため、二人の幸せのためだ。ハーナは本当に優しいから、今度の航行でサマーウインドの体に無理が来るようならば、辞めるように言うだろう。そうすれば」
「ハーナの優勝を願っているわけではないのか? 」
「全宇宙大会は誰が勝ってもおかしくない、予想など無意味だ」
クリームの怒りを鎮めることができるのは、宇宙でも限られた人とヴェルガしかいない。
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