第35話 船の中のハーナ
船内にはほんの時折、カタカタと靴音が響いていた。ハーナは義手義足を木のものに変えていたが、ほとんど映像を含めた資料を検討することに時間を使っていた。
森のスペシャリストたちは自然のスペシャリストでもある。その森にどんな生物がいるか。(最悪死に至るような生物がいるような所では、基本エンランは行われない)
例えば地面に巣を作る生き物がいるならば、その繁殖時期がいつ頃で、もしその時期に当たってしまったならば、走っている間にそれを踏みつぶしてしまわないように、いつも気を配っている。
だから他の場所よりも念入りに散歩をしなければならない。ハーナ出場試合数を減らしてまでそうしているため、今までそのような
「事故」は一度も起こしたことはない。
「でも・・・今回は不安だわ」
確かにチームハーナにも先発隊が行っている。しかし選手としてこの目で見なければいけないもの、確認したいことは山ほどあるのだ。
「それを詳しく書いてくれと言われたけれど、そうすると他の人の仕事が山のように増えるし、ちょっと説明もしにくいから、今まで私がやっていたけれど」
後悔先に立たずだった。
すると、特殊空間航路の飛行を終えたサマーウインドが、しばらくして小さな部屋にいるハーナに船内連絡をした。
「ハーナ、君に資料が届いている、立体映像の物らしいよ」
「わかりました、ありがとうございます。キャプテンサマーウインド、この船に広い所はありますか? 」
「あるよ、普段は荷物を運ぶんだから、今回はそこが空だ」
「ではそこをお借りしてよろしいですか? 」
「ああ、いいよ。そうか、森の映像を映すんだね」
「はい、ちょっと電力を使いますが、よろしいですか? 」
「それは大丈夫」
「うわ・・・本当に何も無いですね」
キャプテンサマーウインドの船は表面の傷が無いことで有名だった。そのことから「キャプテンビューティー」とまで言われているが、この場所は荷物がすれてできた傷が至る所にあった。
「傷だらけで映しにくいかな」
「いえ、大丈夫です」
そう言いながら、ハーナは等間隔で小さな機械を置き始めた。
「え? 一つじゃないのかい? 」
「これ、最新の機械なんです、木や草の感触までわかるんですよ」
「へえ・・・実用化されるんだ」
「今の所実験段階で使っています。ただ情報が何倍にもなるので、前のように中心に置けばいい訳じゃなくなったんです」
「それもそうか」
「ではいいですか? 電源を入れて」
「いいよ」
「うわ!! 」
最新機器をある程度使いこなすサマーウインドでさえ、目の前に現れた森に驚いた。
「ああ、空まで・・・すごいな」
「風も再現できないかという事も言われていますが、やっぱり送風機の方が簡単でいいだろうということに今の所落ち着いています。ああ、この事は内緒にしておいてください、企業秘密なんです」
「わかった、ああ、すごい」
ハーナの声は聞こえるけれど、急に生まれた木のためにその姿がちらちらとしか見えなかった。木は表面のごつごつとした感じのものもあれば、つるりとした小さな木もあった。足元はほとんどが葉っぱでおおわれていて、そのほとんどが赤や、黄色、茶色の枯葉だった。歩くたび、カサリと音までする。感触も所々違うし、小枝も落ちている。試すようにサマーウインドは小枝を踏んだが、パキっという、まさにそうした時の音がした。
自分が面白そうにそんなことに夢中になっているあいだ、ハーナはしゃがんだり立ったりしながら真剣に見ていた。
「このコケか・・・滑りやすいな」
自分で確認するように言葉を発していた。そして突然
「キャプテンサマーウインド、これからの予定はありますか? 」
「今日はここで船を休ませる、明日は特殊空間航路に二回入るけれども」
「では宇宙空間ですね、ここの空域に異常なパルスなどの発生はありませんか? 」
「さっきはなかったね、ああ、義足で確認したいんだ、ハーナ。わかったよ。もう一度詳しく調べて来る。それからここに報告する、それでいいかい? 」
「すいません、お願いします」
サマーウインドはすぐにブリッジに戻った。
「エンランの選手は凄いとは聞いていたけど・・・」
そう言いながら、電波の探知機の精度を最高レベルアまで上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます