第8話 意味のある悪戯


「く!!!」


一人の医療スタッフは俺たちの部屋の入り口付近で、うずくまって頭を押さえていた。一分以上そうしているので、他の子は不安げに俺を見つめた。うずくまった人のすぐそばには小さめの図鑑があった。その図鑑の持ち主は俺じゃなくて、別の子だ。投げるのはあまり上手じゃないからと、俺たちの遊びの得点係をさせられていた。けれど、それがだんだんその子に「向いている」のにみんな気が付き始め、詳しく付けられた得点表から、誰が何を得意にして不得意にしているかということまで、その子から教えてもらうようになった。

とても動物が好きな子なので


「ねえ、ロロの家ではタオル羊を飼っているんだろう? 」ととてもうれしそうに言われた。地球時代にはこの「タオル羊」はいなかったそうだ。羊の毛は大体洋服になるけれども、このタオル羊だけは別で、本当に肌触りも良くて、水気も良く取る。この不思議な進化は俺の星だけに起こったことなので、タオル羊からできたものは「高級品」として俺たちの重要な収入源となっている。


「他の動物の話も聞きたい、聴かせてロロ」

その子は俺の話にノートを取るような熱心さだった。でも一つ困ったことがあった。それは寝るときに「シクシク泣く」ことだった。寂しいのと大きな理由がもう一つ。それは夜この子のベッドの周りだけ背の高い柵がされていたことだ。一度だけベッドから落ちて、ケガをしたので、そのためだそうだ。


 毎晩それが嫌だと泣くので

「外してやろうか」と俺が言うと嬉しそうな顔をした。内側からは取れにくいロックがかかっていたからだ。外側からは簡単で、小さな子供の力でもすぐに外れた。そうしてその夜、別にその子はベッドから落ちるわけではなかったから、朝になって二人で喜んでいたら、人間の医療スタッフが

「勝手な事をして!! 」

と頭ごなしだった。

「大丈夫だよ、落ちなかったし、嫌だっていってる」

「ロロは口出ししないの! 」

 俺もその人が好きじゃなかった。その子はまた檻の中で眠るようになり、それが可哀そうでまた同じように俺は外した。


「今度やったら! 承知しないからね!! 」


と言って、この部屋を出て行こうとしたから、俺はその子の大事にしているだろうけれど、図鑑を投げた。


「角が命中したみたいだけど・・・ロロ・・・」


その子の小さな声も、他の子がやったねという表情をしているのも見えたから、俺としては大満足だった。凄い口調で怒られるのかと思いきや、頭を押さえて立ち上がり、すぐさま部屋を出て行ってしまった。


「どうしたんだろうね、叫びまわって怒ると思ったのに」


「うん」


俺は怒られるのは当然だと思っていたけれど、とにかく気持ちはとてもすっきりしていた。そしてしばらくして入ってきたのは


「クリーム先生!! 」

「久しぶりだな、ロロ。別の所で話そうか」


「うん!! 」


喜んでいる俺に、みんなは少し不思議そうな顔をした。




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