第34話 戻りたい彼女と逃さない彼と滑った足


 ゴチーンッ!!!


 そんな音が耳と頭に響いてくる。俺は屋根の上にいたステータスちゃんと、思いっきりごっつんこした。


 柔らかい表現だとこうなるが、実際には額が額と強打して、骨と骨がぶつかる嫌な音が響き渡り、頭蓋骨が割れそうな勢いだった。


「「~~~~~~~~~~ッ!?!?!?!?」」


 当然、当事者の俺達が無事である筈もなく、二人して屋根の上で頭を押さえてのたうち回っている、頭が死ぬほど痛いィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!


「あ、あのクソアマとクソガキ……なんつー勢いで、つーかホントに人をなんだと思って……」


 ついでにぶっ飛ばされた時に打たれたケツもめっちゃ痛い、最悪痔になってない、これ?


「いたたたたた……もうッ! 何するんですか相山ァッ! いきなり飛びかかってきて頭突きをかましてくるとか、土下座案件です、土下座ァァァッ!!!」


 少しして痛みも治まってきたのか、ステータスちゃんが涙目のまま俺に向かって怒鳴ってきた。


「うっせぇッ! だいたいテメーが勝手に出て行ったから、俺もこんな痛い思いすることになったんだろうがッ! 後ぶっ飛ばされた俺はどっちかっつーと被害者だッ!」


「被害者はどう見てもわたしですよッ! 人がせっかくシリアスに決めてたのに一瞬でぶっ壊してくれやがって、この変態ロリコン性犯罪者ァァァッ!!!」


「誰が性犯罪者だゴルァァァッ! まだ実刑は受けてないっつってんだろうがァァァッ!!!」


 うん、いつも通りだ。彼女の様子に変なとこはない……なら、とりあえず、聞いてみるか。


「ハァ……何だよ、いつも通りじゃねーか。とりあえず、さっさとこの騒ぎ終わらせて帰るぞ、ステータスちゃん」


「…………」


 しかし、ステータスちゃんは俺の言葉に返事をしない。


「……帰りません」


「……ハア?」


 やがて出てきたのは、帰宅を拒否する言葉だった。


「……だいたい、ステータスちゃんって誰ですか? 人違いです。他をあたってください」


 いやお前さっき相山っつってたよね? 完全に俺の事知ってたよね?


「何言ってんだよ? お前は俺のステータスちゃんなんだろ?」


「いいえ、違います。わたしの名前はアルテミシア。この世界の全てを創造した、始まりの女神です」


「ウッソだろお前」


「ホンマです貴様……な、何でもありませんッ!」


 うん、やっぱりステータスちゃんだ。始まりの女神とか言ってるけど、俺にはステータスちゃんにしか見えん。


 しかし何度そう呼んでも、彼女は頑なに違うと言い続けている。一体なんなのか?


「……何だよ。じゃあ女神様。お偉い女神様ともあろうものが、こんなとこで何してんだよ?」


「…………そ、その内呼ばれるので、あの、スタンバってて……」


 女神が出番待ちしてるとかシュール過ぎるんだけど。なに、よく神様が降臨される際も、呼ばれる前からどっかでスタンバってんの?


 その光景を想像するだけで、色々と有り難みが薄れてくんだけど。


「……あー、もう! 解りましたよ、全部話しますッ! 良いですかッ!? わたしは正真正銘の始まりの女神なんですッ!」


 半ばヤケクソになったステータスちゃんは、自分の事を話し始めた。それは少し前に、ショータロー君から聞いた神話そのものだった。


 なるほど、な。最初にカイル君の為に祈ってる姿がどっかの女神様に見えたが、まさかモノホンの女神様だったとは。びっくり仰天だ。


 そして彼女が、何を思っていなくなったのかも。


「……と言う訳でッ! わたしはわたしを必要としている皆さんを愛さなければいけないんですッ! 暇つぶしももう終わりですッ! わたしと相山は、赤の他人に戻ったんですッ!」


 なんか恋人達の別れ話にも聞こえるやり取りだが、俺がこいつと恋人同士など冗談じゃない。十三歳以下になってから出直してこい。


 つーかこの世界の始まりからいるんなら、コイツって一体何歳なん? ババアって言葉じゃ済まないくらい年季が入ってるんだけど。


「人の話聞いてんのかっつーかこっちだって貴方なんか願い下げですよこのロリコン野郎ォォォッ!!!」


 人じゃなくてあんた女神じゃないの? まあいいや。


「……んで。もう帰ってこないつもりだ、と」


「ハァ、ハァ……そ、そうですッ! やっと解ってくれましたか?」


 肩で息をしているステータスちゃんに向けて、俺は言葉を続けた。






「…………んなこと許すかテメーこのクソアマがゴルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


「ッ!?」






 俺の言葉に、ステータスちゃんが目を丸くしている。


「な、何を言っているんですかッ!? わた、わたしは女神で……」


「うるせぇ、お前は俺のステータスちゃんだろうが。だいたいテメーの所為で数百万の借金背負ったってのに、それをほっぽり出して逃げるとか絶対に許さんぞ」


 俺の借金の原因の半分はお前だ、完済するまでは意地でも逃さん。


「それに、お前が以前言ってただろうが。うだうだ言う前に、まずは自分が背負ってるものを何とかしてからにしろって。まさか忘れたとか言わないよなぁ?」


「そ、それは、その……言い、ました、けど……」


 自分で言ったことは、自分で守らなきゃなぁ……ステータスちゃんよぉ……。


「……つー訳で、さっさと帰るぞステータスちゃん。女神だか何だか知らんが、金の切れ目が縁の切れ目。逆に言えば、金の切れ目がない今、テメーとの縁は意地でも切らんぞ……お前は借金を返し終わるまで、この葉っぱ一枚の紳士と共に生きていくのだぁぁぁ……」


「ひ、ひ、暇つぶしとはいえ……こんな変態ロリコン性犯罪者のステータスちゃんなんかやったわたしが馬鹿だったぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 さあ帰ろうか。お前は俺と一緒にあのボロアパートでもやしの醤油かけを食べながら、借金返済の為にあくせくと働き続けるんだよ。それが終わったんなら、女神なりなんなり好きにしろ。


 だが、それが終わるまではまとわりついてやる。俺一人で借金背負って生きていくなんざ真っ平御免だ。キッチンにこびりついた油汚れの如く、貴様に粘着してくれるわぁぁぁ……。


「逃さんぞステータスちゃんんんん……」


「ひぃぃぃッ! こ、こっちに来ましたァッ!?」


 ジリジリと距離を詰める俺に、後ずさっているステータスちゃん。フハハ、馬鹿めッ! ここは屋根の上だぞ? 逃げ場なんざねーんだよ、あれちょっと待って、俺ここからどうやって降りたらいいの?


「フハハハハハー、待ちやがれステータスちゃんんんッ!!!」


「嫌ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ誰かぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ男の人呼んでぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」


 とりあえず、今はステータスちゃんだ。追いかけっこをしている俺達の下では、「女神アルテミシアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」と言う大声が聞こえてきているが、なにあれうるせえ。


 ちょこまかと逃げる彼女を次こそとっ捕まえてやろうと、一歩を大きく踏み出した時に、


「あ……ッ」


 足が滑った。


「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?!?!?」


「あ、相山ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ズッコケた俺は部分的に高くなっていた所にあったステンドグラスを突き破り、大広間へと落下していった、ねえ何でこうなるの……?

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