第26話 シャーデンフロイデとトランプと白目
「暇だー…………」
「暇ですねー……」
監視員のクエストが始まってそろそろ一時間が経つ。俺とステータスちゃんは用意されたパラソル付きの高い椅子の上で、グテーっとしていた。
「あなたも女神の愛を思い出しましょう」
「おい。そういう勧誘は禁止だぞ」
最初こそ、水着の幼女はいないかと目を血走らせてくまなく探したんだが、残念ながら居なかった。
たまーに宗教の勧誘みたいなおばさんとかがいるくらいで、さっさと注意して帰ってもらっている。
っておい、勧誘のビラくらい持ってけよ、ポイ捨て駄目、絶対。そこには、女神の寵愛による世界を取り戻そうとか、如何にも怪しい宗教の臭いがする謳い文句があった。
ハァ、と息をついてそれを拾ってから椅子に戻ると、隣でショタを探していたであろうステータスちゃんもガックリとうなだれていた。
こいつも多分、成果はなかったのだろう、つーかオメーも注意に行けよ、行ってんの俺ばっかじゃねーか、なにサボってんだよ。
「変態、おばさん。交代よ」
「ちゃんと見てたかい?」
「やってたっつーの」
やがて、ドンショクちゃんとショータロー君がやってきた。よーし、休憩時間だな。
「あー、喉乾いたー……水飲み場何処だっけ?」
「海の家の隣ですね。わたしが先ですッ!」
「あっ、テメーゴルァァァッ!!!」
言うや否や、ステータスちゃんが走り出した、待たんかい、喉乾いたっつってんだろうがァァァッ!
俺も慌てて走り出すが、全力疾走してるのに何故か前へ進まない。まるで前にやった体力検査の時みてーだ、つーかやりやがったなあのクソアマァァァッ!!!
「また速さの数値弄りやがったなァァァッ!!!」
「あーっはっはっはっはッ! 遅い、遅すぎるッ! そんだけしか進んでないとか遅っそォォォッ!」
さっさと行って自分の分の水を飲み終えたステータスちゃんが、こちらを見て高笑いしている絶対に許さんぞ。
水を飲んだら覚えてろよ貴様という視線をやり、ようやく水飲み場についた俺は急いで蛇口を回そうとしたが、
「ふんぬぬぬぬぬぬ……ッ!」
一向に蛇口が回らない。何だこの硬さは? 回転部分に瞬間接着剤を塗り付けた馬鹿でもいたのか?
しかしそんな俺の疑問は、吹き出しそうになっているステータスちゃんを見て氷解した。
「筋力の数値まで弄りやがったなテメーゴルァァァッ!!!」
「あーっはっはっはっはッ! 弱ッ! 弱ァァァッ! 蛇口もひねれないとか、ダッサァァァッ!」
「喰らえロリコン奥義ッ! 飴あげるからお嬢ちゃんこっちへおいで時のヨダレ乱舞ッ!」
「いぃぃぃやァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 純粋に汚いィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」
逃がさんぞステータスちゃん。貴様は我がヨダレでベトベトになって、なんかそんなアダルチックビデオにでも出演したの的な顔を晒すのだァァァ……。
「わたしが出演するなら、『はじめての勃起 ~おねえちゃん、ぼくのおちん食べちゃやだ!~』的なおねショタ系じゃないと承諾しませんよッ!?」
「安心しろステータスちゃん。そう言う系のAVでもガチのショタは使えん。それなりに歳がいった男優が子どもって設定にして演技をだな……」
「きゃぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!!」
俺がアダルチックビデオについてご高説しようとしていたら、何やら悲鳴が上がった。なんだよ、タイミングの悪い。
ステータスちゃんと二人して声のする方を見ると、そこには上の水着を奪われて手ブラをしている女性の姿があった、年増かよ、チッ。
それと一緒に、白い水上バイクに乗って引ったくったと思われる水着を持っている男女二人と、あっかんべーをしている一匹のウサギみたいな生き物の姿も。
「…………とりあえず、休憩行くか」
「そうですね。急だったので日焼け止めしてないんですよ、わたし。肌が焼けて赤くなっちゃうの嫌なので、早く日陰に……」
そうして二人して見て見ぬふりをし、海の家に入ろうとしたが、
「問題が発生したんだから休んでんじゃねーよ、働け」
「「アッヒャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」
ショータロー君にハリセンでしばかれて、泣く泣く対応にあたる事に。
クソァァァッ! 俺の休憩時間潰したアホは何処のどいつだァァァッ!?
「……何処のどいつと聞かれたら」
「……答えてあげよう、高らかにッ!」
すると水上バイクが止まった。波に揺られている中、彼らは何やら口上を始める。
「世界は過ちに満ちている」
「これを笑わず、何を笑えと?」
「愛と希望を一つ残らず」
「鼻先一つで笑い飛ばすッ!」
「シャララッ!」
「ゼンザブロウッ!」
「この世をまたぐシャーデンフロイデの二人からッ!」
「ザマア見ろ。明日を笑う声がするッ!」
「なーんちゃってッ! ウッサァッ!」
「……あっ、終わった? ちょっと待って、今良いとこだから」
ビシッとしたキメ顔をしている彼らに、俺は気の抜けた声をかけた。
「ショータローきゅんショータローきゅん。こっちとか取りたくなーい?」
「取りたくないね。はい、上がり」
「ああああッ! またわたしの負けじゃないですかァァァッ!」
「おばさん、ババ抜き弱すぎない? ……あっ、ババアだから抜かれないと駄目じゃないのプッハァァァッ!」
「誰がババアですかこの貧乳小娘がァァァッ! 貴女にはわからないでしょうねッ!? 年齢と共にジワジワ寄ってくる、シミ、小皺、ファンデーションの乗りの悪さという恐ろしさが……」
「「「いやトランプしてんじゃねーよッ!!!」」」
何か長くなりそうだったので、海の家にあったトランプを拝借してきていた。海でやるトランプも、また一興だな。
「一興だなじゃねーよッ! アタシらの事構えよ畜生ァァァッ!」
「せっかくのおれ達の初登場シーンなのに、トランプに持っていかれてるじゃねーかッ!」
「こちとらこの前口上どんだけ練習したと思ってんだウッサァァァッ!」
三人揃ってツッコミの腕はなかなかだな。これはショータロー君の負担が減る事だろう。良かったな少年。
「ホントにね」
「……んで、結局アンタらは何なのよ? なんで水着強奪とか変態じみたことしてる訳?」
「よくぞ聞いてくれたわね!」
頷いているショータロー君の隣でドンショクちゃんが問いかける。すると女性の方が、待ってましたと言わんばかりに声を上げた。
ちなみに女性の方は、赤色のショートカットの髪の毛を持ち、同じ赤いどんぐり眼を持った、そこそこスタイルの良い女の人。着ている水着は赤色の競泳水着。
男性の方は、茶色の髪の毛を肩くらいまで伸ばしたロン毛で、目ぇ開いてんのかと思うくらいの細目。色白で優男に見える顔に似合わず、筋肉が盛り上がっていてガタイが良いというアンバランスさ。着ている水着は真っ黒なブーメランパンツ。
そして小学校低学年くらいの大きさしかない、白い毛並みと赤い瞳を持ち、でも青い海パンという人間の水着を着ているウサギっぽいあいつは……?
「あれはビットラ族ですね。ウサギの顔と人間のような身体を持つ、亜人族の一つです」
首を傾げていたが、ステータスちゃんが解説してくれた。おおおっ、亜人とか異世界っぽいじゃんッ! ……うん、ここ異世界だったわ。
「アタシらは秘密結社『シャーデンフロイデ』の一員ッ! だが最近、任務にしくじり給料が止められてしまったのよ」
「そこでおれ達は考えた。金を得る方法はないものか、と……」
「悩みに悩んだ末に、一つの結論が出たんだウッサァ!」
「「「女子高生の脱ぎたてパンツが売れるなら、脱がせたての水着も売れるんじゃないかってなァッ!!!」」」
「ああ、今回も駄目だったよ……」
ショータロー君がガックリとうなだれている。つーか彼、遂には白目剥いてるんだけど。
どうやら彼は当分の間、自分の仕事から解放されないらしい。頑張れ、少年。応援してるぞ。
「オメーが服着てくれりゃ仕事が減るんだよッ!」
「ヒィィィンンンッ!!!」
でもハリセンは止めて。痛いから。お願い。駄目……?
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