第25話 海と水着とHA・PPA
「……で。なんで公衆トイレなんかに三人揃って居座ってたのさ?」
「「「こいつの所為だッ!(ですッ!)(よッ!)」」」
俺達は三人揃って両手で互いを指差し合った。
現在、俺とステータスちゃんとドンショクちゃんは、近くの空き地でハリセンを持ったショータロー君の前で正座させられている。
つーか屋外での正座って痛い。ズボンも履いてないから直に石とかが足に当たって、マジ痛い。
「そこの自業自得は置いておいて。いつものボロアパートはどうしたのさ?」
「……怒ったカールさんに、一時的に追い出されたんですよ」
ステータスちゃんが順繰りに話していく。
「事の始まりは相山です。朝の仕事帰りにたまたま寄ったコンビニで、彼が賞味期限切れになった廃棄ロスのお弁当をタダでもらってきてくれたのですが……それを山分けする時に、小娘がケチをつけてきまして……」
「ケチって何よおばさんッ! あたしカツ丼弁当が良いって言ったのに、勝手に食べ始めた癖にッ!」
「……んで。その間に俺は自分用のざるそばをすすってたんだが……」
「そのざるそばはわたしの後のお楽しみだったんですよ、やっぱ今からでも土下座しなさい相山ァッ!」
「……ってな感じで、パチンコに行けないストレス込みでステータスちゃんが俺に突っかかってきて、それに対応してたらドンショクちゃんがまた俺のお稲荷さんを掴んできて……」
「いいやァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! せっかく忘れてたのにあのキモい感触がァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「……しっちゃかめっちゃかになっちまって、俺込みの三人でどったんばったん大騒ぎしてたら……」
「……三人で倒れ込んだ際に、壁に大穴が空きまして……ちょうど見回りに来たカールさんがそれを見て怒鳴り込んできて……」
「……結果。廃棄ロスお弁当の一部だけ持って、あたし達は住処を追われたのよ……で、行くアテなんて無かったから、とりあえず雨風凌げて座れる場所って三人で考えたら……」
「「「公衆トイレしかなかったんです」」」
「三人寄れば文殊の知恵って言うだろ、なんで三人もいてそんな選択肢しか思いつかねーんだよ」
今日も今日とて、ショータロー君のハリセンが痛い。
「……って言うか少年。お前、隣の部屋にいてあの騒ぎに気づかなかったの?」
「今日の午前は有給休暇だったからね。実家に帰ってたのさ」
有給休暇なんて都市伝説だと思ってた。流石はイセカイっつーか異世界だな。まさかそんな制度が確立されているとは……。
ちなみに俺が元の世界で働いていた会社は、金曜日は72時間ある、という謎ルールがあった。金曜日は3回太陽が登るもんなんだと、俺はあの会社で学んだ。
金曜日の次は月曜日だ。何もおかしいことはない……土日? 何それ食えんの? 何味?
「……じゃ。さっさとクエストに行くよ。今回はぼくが受注してきたから」
「マジかよ少年、貴方が神か?」
「当たり前ですッ! ショータローきゅんは神なのですッ! ああ神様ァッ! 卑しいわたしをもっと叱ってくださいヘブアァァァアアアアアッ!?」
「寄るな変態」
「ねー、この辺の雑草って食えない訳? 全然美味しくないんだけどぎゃふらばァァァアアアアアッ!?」
「食えねーよっつーか人様の土地のもん勝手に食ってんじゃねーよ」
「つーか寒……ッ。風が冷たいなぁ、もうちっと大きい葉っぱがありゃあたばァァァアアアアアッ!?」
「葉っぱより大事なもんがある事をさっさと思い出せ」
そんなこんなで、俺達はクソガキにケツをしばかれながら、彼が受けたクエストに向かう事になった。
ようやくライセンス凍結が終わって、久々のクエストだな。葉っぱが疼くぜ……。
「いつの間に身体の一部にまで昇華したんだよ?」
「知らないのか少年。俺と葉っぱは一心同体だ」
「ホント葉っぱが可哀想だよ」
ちょっと何言ってんのかわかんない。
やがて俺達がやって来たのは、青い海と白い砂浜が広がる、海水浴場だった。
「今日は三人にここで監視員のクエストを受けてもらうよ」
ショータロー君が俺達三人に説明してくれる。ちなみに今の季節は、ちょうど海開きが始まりそうな初夏。
最初に俺がこの世界に来た時に、幸い気候はあったかいし、と言ってただろう? 何でも拾えば伏線になる。これ豆知識な。
「仕事内容は簡単。周りを監視して、溺れてる人がいないか、困ってる人がいないか……そして変態がいないかを見回る。そしてもし居たら、助けるなり捕らえるなり通報するなりで対処すること」
「「変態ならここに居ます」」
速攻で俺の方を指差してきたステータスちゃんとドンショクちゃんだが、何故そんな事を言われなければならないのかがピンとこない。全く、失礼千万な。
「……自覚のない変態とか、最早公害なのでは? こんな奴のステータスちゃんなんて、なんて可哀想なわたし……」
「その格好で紳士とか平然と抜かしてる変態に、一般常識なんて期待したら駄目なのよ」
「この変態は、ぼくが責任を持って始末するから安心していいよ」
「「良かったーァ」」
待って少年、始末って何? 何でそんなにハリセンをパンパン手で叩きながらこっち来てんの? やめてそれマヂ痛いから……。
「……んじゃ。とりあえず海に入ることになるかもしれないから、みんな水着に着替えて来てね。水着のレンタルショップの人には、もう話を通してあるから」
「「はーい」」
「……いたーい……」
とっくに俺のケツのライフはゼロよッ! 優しくしてッ! 出来れば撫でてッ!
「お断りだよ」
「あたばァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
こうして俺以外の三人は着替えに行った。俺? 俺の葉っぱは水陸両用だから、着替えの必要皆無。
ビジネス等のフォーマルな場から、一夏のアバンチュールにさえ対応できる、これぞ男の紳士服。
HA・PPA。
さあ皆さんも ご一緒に! 葉っぱ一枚あれば良い~。生きているから……。
「アン、ラッキーだ」
「また貴様か少年ンンンッ!?」
いつの間にか。白い生地に小さいスイカがたくさんプリントされた、トランクスタイプの海パン姿のショータロー君が戻ってきていた。ついでにハリセンも。
「JASRA●に引っかかると色々と面倒だから、適当に検閲しとくね」
既にここに至るまでのやり取りで色々とアウトな事やってた気がするんだが、気のせいだろうか。
「大丈夫。いざとなったら土下座してくれれば良いから」
土下座で済めばいいなぁ。
「お待たせしましたッ!」
「待たせたわねッ!」
やがて、女性二名の声がした。俺が振り返ると、そこには水着姿となったステータスちゃんとドンショクちゃんがいる。
「フフンッ! 水着回はわたしの独壇場ですッ! 見なさい、この完璧なプロポーションをッ! たわわなおっぱいに加えて腰のくびれ。ハリのあるお尻にムチムチな太ももッ! ビーチの男どもの視線の全ては、わたしがいただきですッ! それにこんな刺激的な姿じゃ、ショータローきゅんが性に目覚めちゃいますよキャー!!!」
「ねーよ」
鼻高々のステータスちゃんに冷めた一言を送るショータロー君。
彼女はピンク色の髪と白い肌に映える、濃い青色のビキニ姿だった。胸の谷間まで良く解る、まさに非の打ち所が性格しかないこの姿。
もちろん。俺から君に送る言葉はこれだ。
「チェンジで」
「テメーにゃ元から期待してねーんだよこのクソロリコン野郎がァァァッ!!!」
うん。綺麗だとは思うが、びっくりするくらい我が息子が反応しない。ねー、これじゃないもんねー。
「ハッ! おばさんの水着姿なんかじゃ視聴率は取れないわッ! きめ細かいプルプルのお肌ッ! 現役JKのあたしの水着こそ、このビーチで輝くのよッ!」
一方。こちらも自信満々なドンショクちゃん。彼女は真っ白なマイクロビキニ姿だった。三角形の胸元のそれは、最早ティクビしか隠していない。お尻も布面積が少なめで、半分くらい見えてんじゃねーか?
貧乳マイクロビキニというやつか。俺もエロサイトのロリコン動画でお世話になった事がある。
つーかおいおい、ビキニとビキニでビキニが被ってしまったな。
「どーよ変態ッ? あたしの魅力にメロメロなんじゃないのッ!?」
「あーうん、似合ってるよー」
「めっちゃ興味ない時の返事してんじゃねーよこの変態野郎ォォォッ!!!」
あと五年なー、ドンショクちゃんがあと五年早かったらなー、理性と倫理観と全年齢版の看板をかなぐり捨てて飛びかかるんだけどなぁ。
「うわぁ、身体に自信がないからって露出で点数稼ぎとかないですわー。胸の貧しい小娘はこれだから……」
「ハァ? 文句なら小皺をちゃんと隠してからにしてくれない、おばさん?」
「何ですかこの貧乳小娘ッ!」
「何よこの年季ババアッ!」
「つーか少年。お前、スイカ好きなの?」
ステータスちゃんとドンショクちゃんによるいつものキャットファイトが始まったので、俺は華麗にスルーしてショータロー君に話を振った。
何せ、この前見た彼の寝間着もスイカ柄だった気がする。またスイカだよ。
「まあ、特別好きって訳じゃないけど……」
「けど?」
「……命は、賭けてるかな」
「それって特別好きと何が違うん?」
酷く神妙な顔して命賭けてるとか言われたのが初めてだった。俺の初めてが……奪われ、ちゃった……きゃ!
「素直にキモい」
「あたばァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「あと女性方、いい加減にして? 仕事するから。さっさと持ち場につけ」
「「ヘブアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」」
何はともあれ。監視員の仕事をしよう。一応、遊びに来たんじゃないんだからな…………一応……。
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