第31話 走る彼らと駆けつけたみんなと古びた教会
「"悪食(イートワールド)"ォォォッ!!!」
「邪魔、しないでよッ!!!」
「……キリがねーなぁ……」
触手とハリセンを振るう彼らによって暴徒達を無力化しながら、俺達は進んでいく。なるべく見つからずに行きたいのだが、街中のほとんどの人が既に洗脳されているのか、行く先々で誰かに見つかってしまう。
とりあえず、俺達が目指すのは暴徒達が向かっている先だ。彼らは一定の方向に向かって、信者を増やしながら進んでいっている。
なので彼らの向かう先に行けば、何か解るかもしれないと考えたからだ、ショータロー君が。ホントにこのショタ有能過ぎない?
「お、オエエエエエエエエエエエエェェェ…………」
ちなみにドンショクちゃんは、迫りくる暴徒達を丸呑みにした後に、消化される前に吐き出すという形で彼らを無力化している、他に方法ないんか。
ベタベタで気絶している元暴徒達。そして、
「ゼエ、ゼエ、の、喉がしんどい……オェ……」
食っては吐いてを繰り返しているドンショクちゃんが、若干可哀想だ、他人事だけど。
「さあッ! あなたも女神の愛を望むのでふぎゃはァァァッ!?」
「お断りだよ。ぼくはぼくの力で生きる」
そして毎度毎度人のケツを真っ赤に染め上げるハリセンを、容赦なく一般人にも振るっているショータロー君。
彼に向かっていった暴徒は、身体の何処かに赤い長方形の痣ができていたが、まあそれ以外に怪我はなさそうだ。
あのハリセンでの痛みは、鎮圧の為の必要最小限の実力。後遺症も残らないので、一時だけ痛い思いをすれば済む話だ。なんて便利なアイテムなんだろうか。
「アイツらだッ! アイツらがヤベーぞッ!!!」
やべ。遂に向こう側にも俺達の存在が知られてしまったのか、掛け声と共に一気に暴徒が集まってきた。
虚ろな目で一斉にこちらを見てくるその様子は、正直かなり怖い。ホラーだよ、こんなん。
「……ちょーっと、ヤバそうね……アンタは行けるの、ショータロー?」
「……まだまだこれからさ」
戦闘を任せていた二人は、既に汗をかくところまで来ている。すぐにぶっ倒れることはなさそうだが、かと言ってこれを全部捌き切ってからまだ行けるか、と言われたら厳しいかもしれない。
「あの不届き者達に思い知らせるのだッ! 女神への愛をッ!」
「「「女神への愛をォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
「ま、不味いぞこれ……ッ!?」
襲いかかってくる無数の暴徒達、クソが、こんなとこでやられて溜まるかよッ! こうなりゃ俺だってやれる所までやるしか……。
「…………おー、ピンチだね、お兄さん達。やれ、お前ら」
「「「ハッ!!!」」」
しかしその時。襲いかかってくる暴徒達を押し止める人達が現れた。全員黒服で、サングラスをかけている。それに、さっきの声は、まさか……ッ!
「か、カールのおっさんッ!」
「よっ、お兄さん。無事だったか」
なんと現れたのは、想像上の成金のような格好をして、いつも顔をめっちゃしかめている俺の雇い主、カールのおっさんだった。
彼の指示で黒服のお兄さん達が出動し、暴徒達の動きを食い止めている。
「ど、どうしてここに……?」
「いんや、偶然よ。ウチの組員も一部おかしくなっちまってな。やらかした奴に落とし前をつけようと探してた時に、丁度お兄さん達を見つけただけ。末席とはいえ、一応お兄さんもウチの組員だしなぁ」
カールのおっさんの言葉に、涙が出てくる。この人、見かけによらず、本当に見かけによらず良い人だよなぁ。マジで頭が下がるわ。
「あっちに女神への愛が足りないぞッ! 集まれェェェッ!」
しかしこちらに加勢が入った事で、向こうも援軍を呼んだ。何処かへ向かっていた信者達が、続々と集まってくる。
「うわ、増えやがった……ウチの組員だけじゃ足りねーぞ、これ……」
「…………ならば私が加勢しようッ! とうッ!」
カールのおっさんがボヤいた時に、また新たな声がした。
「やあやあ我こそは冒険者レベル83、カマセ=イヌスケッ! この街の操られた住人らを助けようと、立ち上がった者であるッ!」
「わ、私も、頑張られせてもらうよ」
あのドンショクちゃんに一呑みにされていた、俺より主人公っぽい冒険者のカマセと共に現れたのは、つるっ禿げの冴えない中年男性。
「ラッチッ!」
「や、やあハヤト君。助太刀するよ。一応私も、冒険者の端くれだからね。クエストもあるし、騙した君たちに対する罪滅ぼしになるかは解らないけど……ここは任せて」
「「「我々もいるぞッ!!!」」」
「だ、誰だいッ!?」
ラッチと話していたら、いきなりの叫び声が。驚いたラッチが、声を上げながら辺りを見回している。
「……だ、誰だいッ!? と聞かれたら」
「……答えてあげよう、高らかにッ!」
やがて聞こえてきたのは、どっかで聞いた事ある前口上。トランプしなきゃ。
「世界は過ちに満ちている」
「これを笑わず、何を笑えと?」
「愛と希望を一つ残らず」
「鼻先一つで笑い飛ばすッ!」
「シャララッ!」
「ゼンザブロウッ!」
「この世をまたぐシャーデンフロイデの二人からッ!」
「ザマア見ろ。明日を笑う声がするッ!」
「なーんちゃってッ! ウッサァッ!」
「……おっ、ラッチ。お前ショットガンシャッフル結構上手いじゃん」
「カジノディーラーのお手伝いしてた事があってね。その時に少し……」
「「「だからトランプしてんじゃねーよォォォッ!!!」」」
ようやく終わったかと顔を上げてみれば、そこにはガチレズとガチホモとおっぱいウサギの変態三銃士。シャーデンフロイデがいた。
「……何だよこんな時に。悪いけど、オメーらに構ってるヒマは……」
「何を言ってるんだい、おれの君?」
「だからおれの君って呼ぶなっつーのッ!」
俺の言葉に、やれやれと言った様子のゼンザブロウ。じゃあ何だってんだよ。
周囲でカールのおっさんやカマセ、ラッチ達が暴徒を抑えてる現状、お前らと遊んでる余裕なんてない。
「加勢しに来たのよッ! いずれはアタシ達、シャーデンフロイデが世界を支配するッ!」
「だがそれまでに、おれら以外の他勢力に支配されては困るんだッ! 勝手に戦って隙を見せてくれるのなら、指差して笑いながら横槍を入れてやるところだが、今回のはガチそうじゃないかッ!」
「ガチなのはオイラ達も困るんだッ! だから徹底的に邪魔してやるでウッサァッ!」
「なんでも良いけど助けてくれんなら、もうそれで……」
コイツらの思惑は割とどうでも良いが、とりあえず手伝ってくれるらしい。
「ワシもいるゾッ!」
ふと見ると。向こう側には体長三メートルはある白い毛並みを持つクマ、シロアシラの姿があった。
その巨体でもって、暴徒達の進行を阻止している。
「今までの全員で協力して道を切り開くシーンなら、ワシも出て良いよなッ!? 願わくはこのままワシのレギュラー入りも……」
「……んじゃ、行こうか」
「おっしゃ」
「そうね」
「おぉぉぉぉいッ!!!」
ショータロー君の言葉に、俺とドンショクちゃんも賛同する。クマが何か叫んでいるが、無視だ無視。
何はともあれ。たくさんの方々の協力で余裕ができた俺達は、押し寄せてくる暴徒達を彼らに任せて、先へ進む事になった。
「「「あの素晴らしい寵愛をもう一度ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
しかし、まだ暴徒達の勢いは止まらない。進めば進むほど、新しい暴徒が現れる。
街中の人がそうなっているからかはわからんが、そこかしこから湧いてきていた。
「……娘のピンチだ。やれ、アークデーモン係長」
「了解ですッ!」
だがそれを阻んだのは、紺色のスーツに身を包み、紫の肌に口から飛び出した牙、彫りの深い顔つき。
その他には角、翼、蹄、尻尾を持った典型的なデーモン、アークデーモン係長だった、よっしゃお義父さんがいるって事は娘さんも……いねーじゃん畜生ァッ!
「次お義父さんと呼んだら殺す」
「すみませんでした」
俺は綺麗な土下座を決めた。だってお義父さ……アークデーモン係長の殺気が尋常じゃないんだもん。
そしてそれを命じたのは、真っ白なゴスロリ調のフリフリドレス服に身を包み、茶髪で生え際が後退しているハゲの中年のおっさん……。
「ぱ、パパァッ!?」
「やあドンショクちゃん。元気にしてた?」
魔王軍七大幹部が一人、暴食さんだった。ドンショクちゃんがびっくりしている。
「初めまして。ぼくはショータロー。人間の役所で働いている、問題冒険者等観察指導員をしている者です」
「これはこれはご丁寧に。頂戴いたします。私、株式会社魔王軍七大幹部が一人、暴食と申します。よろしくお願いします」
「頂戴いたします。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ショータロー君と暴食さんが名刺交換をしてるんだけど、何だこれ。
「……ところでわざわざ七大幹部様がおられると言うことは。株式会社魔王軍も、この事態の収拾に動いているんですか?」
「はい。経済の為にならないただのテロ行為は、我が社の社長の意志に反しますので。微力ではありますが、お力になれればと」
色々とツッコミ所が群れを為してやってきてる感じがするんだが、緊急事態なので今は放置する。話は後だ。
「……と言う訳でドンショクちゃん。ここはパパに任せて先に行きなさい」
「……………………」
自身の父親からの「ここは俺に任せて先に行けッ!」を聞いたドンショクちゃんは、何も言わずに彼を見ていた。
やがてプイッとそっぽを向くと、一言だけ言い残して走り出す。
「…………ありがと……」
「……どういたしまして。ハヤトく……いや、ショータロー君。娘を頼むよ」
「わかりました。お任せください」
ねぇ何で今俺スルーされたの?
溢れ出る疑問を断腸の思いごと切り裂いて、俺達は更に進んで行った。
やがて暴徒と化した一般市民らが向かう先に、一つの建物がある。それは街外れにある、古びているが巨大な教会だった。
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