第37話 ただいまとトレーナーの彼とお前マジふざけんなよ?
「「「土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ!」」」
コールによる圧力が半端ない。ライブ会場かここは? アンコールじゃねーんだぞ。耳から絶え間なく聞こえる所為で、俺の頭の中に土下座以外の文字が消えていきそうになって、
「うるせぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」
俺は叫んだ。そして飛び上がると空中で土下座の態勢を作り、そのまま地面に叩きつける、ああもうヤケクソだよ畜生ァァァッ!!!
「どうもすみませんでしたァッ! どうか哀れな俺の為に戻ってきてくださいませステータス様ァァァッ!!!」
これぞ絶技、警官をも悪い意味で唸らせた、俺のジャンピング土下座ァァァッ!!!
「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!! これですッ! これなんですッ!!! 情けなくおでこをこすり付けてるこの姿が滑稽なのですよブッハァァァッ!!!」
顔を上げてみると、彼女……ステータスちゃんが腹を抱えて大笑いしていた、このクソアマいつか絶対に殺す。
やがて彼女の姿が見えなくなり、土下座から顔を上げた俺の目の前に、いつものステータス画面が現れる。
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:葉っぱ隊
職業:ロリコン
取得スキル:ステータスちゃん(New!!!)
持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)
備考:ただいまです、相山(New!!!)』
それは、見慣れたものだった。能力値等の数値は見えなくなり、所得スキル欄にはいつものスキルが。そして備考欄には、彼女からの言葉があった。
「……おかえり、ステータスちゃん」
「な、なんだ今のはッ!? 女神は、女神は何処へ行ったのだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
やがて言葉を取り戻したらしいセトケンが叫んでいる。彼以外の周囲もどよめいていた、うん、普通は急に人がいなくなったりすりゃ、驚きもするよな。
「この不敬者がァァァッ!!! オレ様達の女神を何処へやったァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
「ここにいるぜ」
俺はセトケンに向かって、自分の頭をトントンと人差し指で叩いてみせた。そして帰ってきたステータスちゃんはもう一つ、スキル欄に追記をする。
「……おい、マジかよ」
『せっかくなんで、久しぶりにやりましょうよッ!』
ため息混じりに呟いた俺に向かって、ステータスちゃんは楽しそうだった。うん、まあ、久しぶりっちゃ久しぶりなんだけど……約一名が心配だ。
「うん? なんでこっち見てんのよ、変態?」
「なーんも」
ドンショクちゃんが怪訝な顔をしていたが、俺は笑顔で何でもないと返事した。
「オレ様達の女神を返してもらうぞこの不敬者がァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! 信者共ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
セトケンが血管の切れそうなテンションで、信者達に号令をかける。俺はそれを見つつ、静かに手のひらを彼らに向けた。
「……楽したいって思いが、間違いなんてことはねーよ」
今にも迫ってきそうな彼らに向けて、俺は呟く。
「誰もが頑張れたり、出来たりなんかしねーからな。楽して良い思いしたいとか、辛い事があってもうやめたいなんて思ったりもするさ……でもよ、もう少しだけ、頑張ってみようぜ? 少しだけで良いんだ。それだけでよ、何かが変わるかもしれねーからさ……」
『相山…………』
祭壇に置かれている大きな鏡に映ってる俺……いま最高に主人公してるぜ。カッコ良い自分が見えるよう、ちょっと手の位置とかを鏡寄りに微調整する。うん、葉っぱ一枚でカッコ良いぜ、俺ッ!
「……でも遠慮なく人にビーム撃ち込んできたテメーは許さんぞオラァァァッ!!!」
「なんでこのタイミングで主人公補正が品切れになるのさ。もうちょい頑張れよ、お前が」
クソガキのツッコミが入ったが、今はそんなこと知らぬ存ぜぬ意に介さぬッ!
「せっかくだから派手にやろうぜオラァァァッ! スキル発動ッ!!! [ブートキャンプは楽しいゾ]ッ!!!」
直後。軽快な音楽が辺り一帯に響き渡り、セトケンと信者の動きが困惑に変わる。
「な、なんだこの音はッ!? 貴様一体何を……」
「やあ! 今日の受講者は君たちかな?」
びっくりしているセトケンの隣にいつの間にか、身長が二メートル近くある褐色肌の筋肉ダルマがいた。爽やかな笑みを浮かべており、頭部はツルツルのスキンヘッドの男が立っている。
「いぃぃぃやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!! ボブだぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「ボブじゃねーよッ!!! ボクは田中カンベエだっつってんだろッ!!!」
ドンショクちゃんが悲鳴を上げている、うん、おそらくトラウマだろうなとは思ってたけど勢いでやっちゃった、ごめんて。
「貴様ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! ボブの分際でこのオレ様の邪魔をするのかァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
「だからボブじゃねーってッ!!! なんで初対面なのにボブ呼ばわりされなきゃいけねーんだよォォォッ!?」
胸に手を当てて考えてみろボブ。お前はボブ以外にはなれないんだよ。
「どういう意味だよッ!? ああもう、絶対にこの件については話し合ってもらうからね……」
ノーセンキュー。
「とりあえずッ! 今日はこんなにいっぱいの人が来てくれたんだッ! これはボクも張り切っていかなきゃいけないねッ! カモーン、ナンシー、ロバート、ミランダにジョンッ!!!」
「カオリです」
「マサアキです」
「ハナコです」
「タロウです」
「もう君たちも諦めたら?」
半袖にスパッツ姿のトレーニング衣装に身を包んだあの四人が、何処からともなく姿を現す。全員、相変わらず良い笑顔だ、やっぱなんか怖い。
そしてショータロー君の冷めたツッコミが的確である、うん、ボブも覚える気がなさそうだし、もう駄目だろ。
「嫌ぁぁぁ、もうブートキャンプは嫌ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!! あっ! 観たいドラマの再放送があるから、あたしはこの辺で……」
「まあまあ待て待てドンショクちゃん」
一目散に逃げようとするドンショクちゃんの肩を、俺はグッと掴む。
「身体を動かすのは健康にも良いぞ? 大丈夫、すぐ終わるから」
「そうですよ小娘。ちょっとくらい良いじゃないですか」
「また再放送してくれるさ。テレビ局を信じよう」
俺に続いて、実体化したステータスちゃんとショータロー君が道を塞ぐ。逃さんぞ、ボブと言えばドンショクちゃんだ。
「おお、ドンショクちゃんもいたのかッ! あれからトレーニングに励んでいるかい?」
「いぃぃぃやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!! 名前覚えられたぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
ボブにニカっと笑いかけられて、ドンショクちゃんが露骨に嫌な顔をしている、良かったな、トレーナーが覚えてくれたぞ。
「さあッ! みんなで運動を始めようじゃないかッ! ブートキャンプは楽しいゾッ!!!」
「「「「レッツダンシングッ!!!」」」」
ボブの一声と取り巻き四人の掛け声で、古びた教会の中に色とりどりのライトが現れ、軽快な音楽と共にボブ達が動き出した。
それに合わせて、周囲の信者、セトケン、ショータロー君、ドンショクちゃん、ステータスちゃん、そして俺も踊り出す、おいちょっと待て。
「なんで俺まで踊ってんだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
踊り狂うコイツらを見て笑うつもりだったのに、何故俺の身体は踊りだしているのだろうか? 思ってたんと違う。
「……相山。さっきスキルを発動させた時って、もしかして鏡に向けてやりましたか?」
一緒になって踊りながら、ステータスちゃんがもしやといった調子で聞いてくる。そーいや、祭壇に置かれた大きい鏡に映った俺に惚れ惚れしながらスキルを使ったような気が……。
「……鏡写しに自分にもスキルを適用しましたね、この変態ロリコン性犯罪者のバカチンがァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ねえ、これいつ終わるんだい?」
叫ぶステータスちゃんを尻目に、やがては足の運動にと移行したショータロー君が聞いてくる。彼もまた、ボブの被害者であった。
「……本来ならスキルを解除するまでは続くんですけど、スキル発動中の相山がこの調子では解除が……」
「ウッソだろお前」
「ホンマです貴様」
「お前マジふざけんなよ?」
ショータロー君のマジトーンが怖すぎる。いや、その……ごめんて。
「さあさあさあさあッ!!! 盛り上がってきたよ盛り上がってきたよッ!!! みんなで朝まで、レッツブートキャンプッ!!!」
「「「誰か助けてぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」」」
俺とステータスちゃんとドンショクちゃんの叫び声も虚しく、一人テンションの高いボブのブートキャンプは続く。続くったら、続く……。
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