第36話 彼のピンチと降臨した彼女と土下座コール


「ちょこまかとするな貴様ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


「いやこんなん当たったらヤバいじゃ済まな……」


「[オレ様最強ビィィィィィィィムッ!!!]」


「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 相も変わらず、俺はセトケンが放ってくる目からビームから逃げ続けている。何とか状況を打開したいものだが、ほぼ一方的に攻撃され続けていて、


「隙ありッ! [オレ様最強ビィィィィィィィムッ!!!]」


「地の文中くらい大人しくしてられんのかぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 ホントにこのセトケン、酷すぎる。未だかつて、この状況下で攻撃してくる輩なんざ見たことない。絶対に変身ヒーローの変身中にもビーム撃ってるよコイツなら。


「"悪食(イートワールド)"ォォォッ!!! オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ……」


「いい大人が誰かのヒモになりたいとか、恥ずかしいと思わないのかいッ!?」


 周囲では、ドンショクちゃんとショータロー君が信者達を退けてくれている為、彼らの援護は望めない。つーかコイツら呼んだら、もれなく信者もついてくる。


 となると、俺一人で何とかするしかない訳だが……。


(……全く手段が思いつかんッ!!!)


 主人公補正で何か妙案でも思いつくかと思ったが、マジで何も思いつかない。目からビームを撃ってくるセトケンに近づいて、一発ぶん殴れば良いとは思うのだが、そもそもビームがヤバくて近づけん。


「……かと言って、諦めたらそこで試合終りょ……」


「[オレ様最強ビィィィィィィィムッ!!!]」


「ホントにテメーって奴はぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 叫び声を上げながら、俺は飛び退いた。こんな奴に負けるのも癪なので諦める訳にはいかんが、手段が思いつかんのも事実。


 とりあえずは、なんか思いつくまで逃げ回るしかない。ステータスちゃんがいない今、俺にできるのは、頑張れるのはこれだけだ。頭をひねりつつ、少しでも時間を……。


「あ、ヤベ……ッ」


 考え事をしていたら、足を引っ掛けてしまった。その場に転がった俺は急いで立ち上がろうとするも、


「好機到来ィィィッ!!! [オレ様最強ビィィィィィィィムッ!!!]」


 地の文中ですら隙を見つけてくるセトケンがこの機を逃すはずもなく、倒れた俺に向かってビームが放たれた。


「変態ッ!!!」


「ハヤトさんッ!!!」


 ドンショクちゃんとショータロー君の声も聞こえてくる。しかし、あの二人では間に合わないだろう。


 ビームは今にも俺に直撃しようと、真っ直ぐに飛んできていて……あっ、俺、死んだかも……。






「…………相山ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」





 しかし、俺とビームの間に一人の女性が割って入ってきた。ピンク色の髪の毛を揺らし、白いローブに身を包んだ、パッと見で神々しい雰囲気をまとっている、この女性。


「スキル発動ッ! [お断りします]ッ!!!」


 そして、セトケンの目からビームをお断りした。ビームか一瞬で立ち消えとなり、まるで何もなかったかのように静まり返る。


「ムゥッ!!! 今度は何だ貴様ァァァッ!?!?!?」


「わたし、は…………」


「いやッ!!! その神々しい雰囲気……そうか、貴様が女神アルテミシアだなァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


 降りてきた彼女を見て、一層興奮しているセトケン。そりゃ女神の降臨を望んでいたところで、こんな神々しい女性が降り立ってきたら、そう思うだろうよ。しかも実際、こいつは女神らしいからな。


「やったぞッ!!! オレ様は遂にやったのだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「お、お前……」


「…………わたし、は……」


 高笑いしているセトケンを放っておいて、俺は目の前の彼女に声をかける。


 屋根の上で散々戻ってこいとは言ったものの、結局は彼女の一存で何もかもが決まってしまう。全てを愛して、みんなを救いたいと思ったコイツの思いは、まあ本物だろうよ。


 女神として生きていくんなら……まあ、仕方ない。そうしたいなら、そうしろよ。お前の生き方は、お前の生き方だ。誰が決めるもんでもねーしな……。


「わたし、は……」


「言わなくても解っているぞ女神アルテミシアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! オレ様達を救いに、再びこの世界に降臨したのだろうゥゥゥッ!?!?!? さあッ!!! 救うべきオレ様はここだッ!!! 早く名作映画とポップコーンとコーラをプリーズッ!!! ジャストナウッ!!!」


 セトケンの望みが完全に映画見る時のそれなんだが、ひょっとしてコイツ映画オタクだったりするんだろうか。


 そんな疑問は適当に放っておいて、俺は彼女の言葉を待つ。果たして、彼女の選択とは……。










「……相山、土下座しなさい」


「        」











 長い沈黙の後。彼女の口から出てきたのは土下座を要求する言葉だった、ウッソだろお前。


「ホンマです貴様。貴方がわたしを求めるなら、それなりの態度ってものが必要ではありませんか?」


「何を言っている女神アルテミシアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! そんな男よりオレ様達を……」


「ちょっとうるさいので黙っててください。スキル発動、[静かにしない子はしまっちゃいます]」


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」


 彼女がスキルを使うと、セトケンは大口を開けたまま何の言葉の発せなくなっていた。必死になって口を開けているので、何かを言おうとはしているのだろうが、すげぇ、コイツ、喋らなくても勢いが衰えてない、顔がうるさい。


「……さて、気を取り直して。どうですか、相山?」


「ど、どうですかって言われても……」


 一体全体、何がどうですか、なんだろうか。


「貴方はわたしに戻ってこいと言いました。しかし、それは貴方の都合。決めるのはわたしです。本当に戻ってきて欲しいのなら、誠意ってもんがあると思うんですけど?」


 確かに。結局決めるのは彼女だ。戻ってきて欲しいってのは俺の願望でもあり、彼女にそれを履行する義務はない。そうして欲しいとお願いするのはこちらなのだから、それ相応の態度も必要かもしれない。


 だが、戻ってきて欲しい理由の十割は借金だ。しかも、半分はお前の所為のやつ。戻ってきて当然じゃねーの? 何だよ誠意って、お前俺に土下座させたいだけじゃねーの?


「はい土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 皆さんもご一緒にィッ!!!」


「「「土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ! 土、下、座ッ!」」」


 彼女の扇動によって、周囲のドンショクちゃん、ショータロー君、そして信者達が一斉に俺に向かって土下座コールを浴びせてくる、おいちょっと待て、なんだこれ、なんで俺はこんな多人数から土下座しろってせがまれてんだ?


「~、~、~ッ! ~、~、~ッ!」


 セトケンに至っては声出せないのに加わってる気がしている、おい、お前、俺が土下座したら女神いなくなるんだぞ、解ってんのか?

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