第20話 お昼ご飯とベーコン大戦とおんぶ


「……って何処にいんだよ魔物さんはよォッ!?」


「知らないわよそんな事ッ!」


「あー、疲れたー……」


 それからしばらくして。俺達は海辺をブラブラと歩いていたが、一向に魔物と出会う事はなかった。


 おかしい。ここは流れ的にサッと魔物に出会わないと話が進まない筈なのに……何で二時間もただ歩き回ってただけなんだ?


「……休憩すっか。俺もくたびれたし……」


「……そうね。お腹空いてきたし、お弁当にしない?」


「そーすっかぁ」


「あっ。ぼくは自分のあるんでお構いなく」


 そうして、俺達は砂浜の上で飯にすることにした。


 俺とドンショクちゃんは、ラップに包んで持ってきたもやしの醤油かけ一口。ショータロー君はアメリカンクラブハウスサンドだった何この格差。


「「「いただきまーす」」」


「「ごちそうさまでしたー」」


 一瞬で終わった俺達を尻目に、ショータロー君は一人、モグモグとアメリカンクラブハウスサンドをかじっている。


「……じーっとこっち見ないでくれる? 気が散るんだけど?」


「「お構いなく」」


 トーストしたパンにベーコン、ターキー、レタス、トマト、マヨネーズを挟んである美味しそうなサンドイッチを、二人でただ見てるだけなんで。


 気にしなくても良いよ、俺らは背景と一緒だから。


「……ほーら、取ってこーい」


「「うおらぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」」


 やがてショータロー君が挟まれていたベーコンの一枚を取り出して、向こうに放って見せたよっしゃ来たぜ俺のベーコンんんんッ!!!


「退けよこのクソアマあのベーコンは俺んだァァァッ!!!」


「ハァァァ!? あたしのに決まってるでしょッ!? アンタこそ邪魔しないでよこの変態ッ!!!」


「ベッ! ベッ! へへ〜ん、ツバつけちゃうもんね〜ッ!!!」


「ぎゃぁぁぁッ!!! あたしのベーコンが汚されたァァァッ!!! このッ! このォッ!!!」


「ああああッ! テメー砂撒きやがったなテメーゴルァァァッ! 俺のベーコンが砂まみれじゃねーかァァァッ!!!」


 いや待て。海水で洗えばまだ……ッ!


 そう思っていた時に一羽のカラスが現れ、俺の唾液と砂まみれになったベーコンを咥えて飛び去って行ったちょっと待てやこのクソカラスがァァァッ!!!


「"悪食(イートワールド)ォォォッ!」


 ドンショクちゃんが触手を展開したが、それはギリギリ届かなかった。


「俺のベーコンんんんッ!!!」


「あたしのベーコンんんんッ!!!」


「「返せゴルァァァァッ!!!」」


「なんて惨めで哀れな生物……」


 第一次ベーコン大戦の結果は、カラスに奪われてドローとなった、ガッデム。


 それを軽蔑の眼で見ているショータロー君だが、細けぇこたぁ良いんだよ、おい早く次のベーコンプリーズ。


「もう食べちゃったから残ってないよ」


「「ド畜生ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」


 クソガキの無慈悲な一言に、俺達は膝をついて本気で涙した。拳を握りしめ、何度も何度も地面を叩く。


 酷い、酷すぎる。こんな事が許されて良いのか……? だから戦争が無くならないんじゃないのか……?


「とりあえず話を大きくしようとすんな」


 無慈悲なハリセンが今日も俺のケツに叩き込まれる。なんて冷たくて痛い世界だ。そろそろ痔になっちゃう。


「冷たい世界でち●こも凍ってカッチンコ……なんちてヘブアァァァァッ!?」


「土下座」


「すみませんでしたァッ!」


「ブッハァッ!!!」


 氷点下の視線を向けてくるショータロー君に土下座をかます俺。ドンショクちゃんが大笑いしているのが、せめてもの救いだ。


「……じゃ。もう帰る?」


「んな訳に行くかァッ!」


 疲れてきたのかあくび混じりに帰宅を提案するクソガキだが、魔物も出てきてないのに帰れるか。


 海辺にいないなら、次は山だ。移動するぞ。


「えー。もー疲れたー、変態、おんぶー」


 ドンショクちゃんが座ったまま両手を前に出して立ち上がってこない。何でだよ。


「つーかオメー、触手があんだろ? 適当にそれで歩いてこいよ」


「やだ。あれ、手足動かすのと同じくらい疲れるもん」


 言われてみれば、結局は自分の身体の一部を使ってんだから、そりゃ疲れるわな。


「だから変態ー、おんぶー」


「やなこった。何で俺が幼女でもないクソアマを背負わなきゃならんのだ」


「おんぶー」


「うるせぇ、自分で歩け」


「おんぶー」


「解ったから頭から齧るなゴルァァァァッ!?」


 遂には面倒とか言ってた筈の件の触手を使って人の首から上を齧りやがったぞこのクソアマァァァッ!


 つーか唾液でベトベトなんだけど俺の顔!?


 顔を拭った俺は、断腸の思いでドンショクちゃんを背負った。


「はーっ、楽チン楽チン。んじゃ、さっさと歩きなさい、この変態」


「十歳の子が自分で歩いてるっつーのに、このデブは……」


「誰がデブよッ! つーかアンタの所為でロクにご飯食べられなくて、太りもできないんだからねッ!?」


「もうドンショクさんはこのままの方が良いんじゃないかな?」


 そんなこんなで山にやってきた俺達。適当に獣道とかを歩いているんだが、


「痛ァッ! いったァッ! 俺の玉のお肌に草木が容赦なく刺さるゥゥゥッ!?」


「いや服着ろよ」


 葉っぱ一枚の俺は、生い茂る草木によって身体中を甘く痛めつけられていた。


 クソガキが冷酷なツッコミを入れてくるがヒィんッ! その間も容赦なく草木が襲いかかってきているふぁッ!?


 あっ、あッ! い、痛い……ま、またチクッとした…………でも、この感じ……嫌じゃ、ない…………かも…………ふ、フヒ……フヒヒヒヒ……も、もっと……もっとぉ俺をいぢめてタバハァッ!?!?


「これ以上気色悪い性癖に目覚めんな」


 どうしてこのクソガキのハリセンはこんなに痛いんだろうか。謎だ。


 ちなみにドンショクちゃんはと言うと。


「くー、スピー……」


 人の背中でいびきかいて寝てやがる、許さねぇ。


「ガァァァデムッ!!!」


「ぎゃぁぁぁああああああああッ!?」


 なので地面に叩き落としてやった。


「ちょっとッ! 人が寝てる時に地面に落とすとか信じらんないッ! 土下座しなさいよッ!」


「人があくせく歩いてやってんのに呑気に寝てんじゃねーぞこの将来性デブゥゥゥッ!!!」


「何よ将来性デブってッ!? 意味わかんないのに失礼とか、どういう神経してんのよッ!? ……あっ。どう言う神経かしんけーに考えてみた……なーんちてプッハァッ!!!」


「何一人で笑ってんだ土下座すんのはテメーだゴルァァァァッ!!!」


「……こんな大人にはなるまい」


 取っ組み合いの喧嘩になった俺達を、ショータロー君が何かを学んだ目で見ている。


 そうだぞ。こんなドンショクちゃんみたいな大人になってはいかん。俺みたいな紳士になるべきだ。


「絶対やだ」


 なんてワガママなクソガキだ。


 ガサガサッ!


 しかし、そんな俺達の元に、何やら迫る影があった。

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