第9話 ツルッパゲと初クエストと採用試験
「相山ッ! これはどういう事ですかッ!?」
「十割方テメーの所為だろうがァァァッ!」
俺は役所の外の入り口前で、ステータスちゃんと取っ組み合いの喧嘩をしていた。
午後の体力検査を終え、仮から正式な冒険者ライセンスを受け取ったのは良いのだが、問題はその内容だ。
冒険者は登録を済ませた後、普通なら冒険者レベル1からスタートする。このレベルは仕事をこなす事で上がっていき、レベルが高くなれば受けられるクエストも増えてくる。
要は信頼度を数値化したもんだ。実績を上げれば、レベルも上がる。レベルが高けりゃ、経験を積んだベテランって事だ。
そんな俺の冒険者レベルは、まさかのゼロスタート。更には他の人とは違い、もう一枚紙をもらっていた。
「体力検査の数値が平均になるように努力し、後日改めて体力検査を受けてください。それまでは役所でのクエストは受けられませんし、トラブルの素になりますので一般の方からのクエストも受けないでください」
書かれていたのはやり直しを求めるもの。つまり、君は体力がなさすぎるからトレーニングして出直してきてねー、合格しないとクエスト受けちゃダメだよー、という事だ。うん、分かり易い。
「テメーがふざけて数値弄らなきゃ普通に検査通ってただろーがッ! 余計なことしやがってェェェッ!!!」
「うるさいですよ! 普通の体力検査やるとか、ストーリー的に何が面白いんですかッ! だからわたしがわざわざ骨を折ったというのに、なんですかこの体たらくはッ!?」
「骨の折り方を間違えてんじゃねーよせめて当初の目的は果たせるようにしとけやッ! どーすんだこの後ッ!? クエスト受けて話進める予定が全部パーじゃねーかッ! もう一回体力検査やるとかグダグダも良いところだぞッ!?」
互いに言いたいことをぶつけ合い、ついでに拳もぶつけ合っていたが、やがて互いの腹の虫が鳴り響き、俺達は渋々拳と言葉の矛を収めた。
素直に腹減った。今日の昼だってステータスちゃんと喋ってただけで、何にも食べてない。
しかし、マジでどうしよう? 依頼を受けて小銭を稼ぎ、飯にありつくという当初の目的は遠のいてしまった。
コイツに文句を言うカロリーすらもったいない。こうなりゃカールのおっさんに頭下げて給料前借りするくらいしか……。
「あのー……」
そんな俺達に声がかけられた。振り向いて見ると、そこにはツルッ禿げで中年の冴えないおっさんが立っているクソァ新キャラの癖にまたおっさんかよいい加減にしろロリを出せロリをよォォォッ!
「え、えーっと……」
「気にしないでください。このロリコンは社会不適合者のハイエンドですので」
ヤベ、途中から口に出てた。
「それで。わたし達に何か御用ですか?」
「は、はい、その……あなた方は冒険者ライセンス、お持ちなんですか?」
「ああ、はい。俺は持ってますけど……」
前代未聞のレベルゼロのなッ!
「よ、良かったッ! レベル1でも冒険者ライセンスをお持ちなら役所の検査を通った方なんですよねッ!?」
「いえ実は通ってまングゥッ!?」
「はい! この相山は先ほど検査を通って冒険者になったばかりですッ!」
素直に喋ろうとしたら、ステータスちゃんに口を塞がれた何すんだオラァッ!?
「……良いですか? この人の口振り的に、冒険者ライセンスを持った人を探しています。つまり、クエストを依頼したい人なんです。ここで余計な事は言わなければこの人からクエストを、ひいては報酬をせしめるチャンスです」
おっさんに聞こえないようにヒソヒソ話をしてくるステータスちゃんいや腹ん中黒過ぎませんかね。
つまり、嘘ついて向こうを信じさせ、役所にするなと言われていた一般人からのクエストを受けようという事だ。
おいおいマジかよ。冒険者一日目から規則破りの嘘つき野郎になろうって魂胆だ。そんな、人としては絶対にやってはいけない事なんか当然、
「……なるほど、やるしかねーな」
「……でしょう?」
二つ返事でオッケーするに決まってんだろ。規則だか何だか知らねーが、こちとら即金が欲しいんだよ即金が。
文句なら後で聞く。反省はしない。人類そんなもんだ。
「……はい! 俺は冒険者レベル1ですよおじさん!」
「そ、そうだよね? なんか通ってないとか聞こえた気がするけど……」
「気のせいだ」
「気のせいですね」
ツルピカおじさんの懸念を、俺とステータスちゃんが一刀両断する。んなこたぁない、ないったらないッ!
「ま、まあ良いか。私はラッチと言うんだ。こう見えて冒険者なんだが、実は困ったことがあってね……」
そう言ってツルッ禿げのおっさん、ラッチさんが話したのはこんな感じだった。
何でも、他の人と一緒にクエストを受けたは良いものの、当日になってバックレられたと言うのだ。
クエストはとある場所の見回りらしいのだが、単純に人手が足りなくて困っているとのことだった。
「だ、だから誰かに手伝ってもらいたくてね。もちろん、報酬には私の分も上乗せさせてもらうよ。急にお願いする訳だからね。どうかな?」
「「もちろんやりますッ!」」
話を聞いた俺達は、二つ返事でオッケーを出した。見回りくらいなら、適当に突っ立っているだけで終わるだろうし、何より報酬に色がつくと言うのだ。
これでやらない理由があろうか? いや、そんな理由などない。地獄に仏。捨てる神あれば拾う神あり。窮地に垂らされた一本の蜘蛛の糸とは、まさにこの事よ。
「あ、ありがとう君達ッ! じゃあ早速行こうか。ちょっと歩くけど、すぐ着くからさ」
そうして俺とステータスちゃんは、ラッチさんに導かれるままに歩いて行った。
やってきたのは町外れの砂浜にある、海に面した洞窟だった。人影は微塵も見られない。
「こ、この中を見てきてくれないかな? 今度ここで、小学校の課外活動があるんだけど、その前に安全確認をしたいんだってさ。私はちょっと連絡することがあるから……」
「はいよー。中見てくれば良いんだな?」
「なんだ、ラクショーじゃないですか。さっさと終わらせますよ相山」
「あ、これ懐中電灯。中は暗いから気をつけてね……」
「おー、サンキュー」
最早異世界で懐中電灯が出てこようが俺は嘆かんぞ。そんな感じでラッチさんと別れることになる。
「……本当に、気をつけてね……クククッ」
去り際にラッチさんがなんか言っていたが、気のせいだろうか。まあ細かい事はどうでも良いか。
この中を見回って戻ってくりゃ、クエスト達成。俺達に報酬が舞い込んでくるってもんよ。
「さあッ! さっさと終わらせますよ相山ッ!」
「うるせぇなぁ、こちとら空きっ腹なんだぞ。ゆっくり歩かせろよ……」
無駄に元気なステータスちゃんと共に、俺は暗がりへと足を踏み入れた。
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「クックックッ! アイツら馬鹿だなぁ、まんまとかかりやがったッ!」
洞窟に入っていった二人を見送ったラッチは、入り口の所で一人愉快そうに笑っている。
「馬鹿めがッ! こんな辺鄙なとこに学校行事が来る訳ねーだろッ! 中にいるのは魔王軍人事部人事課係長、アークデーモン様さッ! お前らは大人しく捕まって強制労働させられるんだッ! そしてようやく人員を獲得すると言うノルマが終わった……」
彼は紙を取り出すと、食い入るようにそれを見ている。
「魔王軍採用試験もいよいよ大詰め……これに合格すれば、僕は晴れて今一番勢いのある株式会社魔王軍の正社員ッ! 冒険者なんて言う日雇い労働からはオサラバだッ!
冒険者には夢があるなんて嘘っぱちだッ! 程よく使われてポイされるのがほとんどだった生活から解放されるぞヒャッホー! 苦節四十六年……遂に、遂に夢にまで見たボーナスが手に入るぞォォォッ!」
飛び上がって喜んでいるラッチは、そのままウキウキ気分で洞窟に入っていった。ノルマを達成した事を、アークデーモン係長に伝える為に。
ルンルンとスキップしている彼の顔が驚愕に変わるのは、もう少し後である……。
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