第14話 ショタとデブとセロリスリザリン


「……で。君は誰よ?」


 現在現場に向かっている訳だが、歩いているのは俺とステータスちゃんの二人だけではない。


 役所を出て少しした時に、不意に声をかけられたのだ。


「ぼくはショータローさ」


 銀色の髪の毛と銀色の大きな瞳を持った、あどけなさが拭えていない少年、ショータロー君。


 幼いながらに紺色のスーツと白いワイシャツ、赤いネクタイをビシッと決めて茶色い革靴を履いている。


 そして手にはハリセンを抱えた彼が急に現れて、しかも俺達についていくとか言ってきたので、こちらの困惑が止まらない。


 ちなみに、それを見たステータスちゃんはと言うと、


「ひゃっほーいッ! 活きの良いショタだベブアッ!?!?」


「人を水揚げされたての魚みたく言わないでくれる?」


 速攻でこのショータローに飛びかかろうとして、手に持ったハリセンでしばかれてたよ。今はそこらの地面で、潰れたカエルみたいな格好で倒れてる。


「こほん……自己紹介が途中だったね。ぼくはショータロー。今年で十歳。役所における最年少職員で、問題冒険者等観察指導員なんだ。今日から冒険者である相山ハヤトさんに同行して、色々と指導させてもらうよ」


「問題冒険者等観察指導員?」


 なんだその物々しい肩書は。つーか十歳の子どもが肩書とか持つもんじゃねーだろ。


「問題冒険者等観察指導員と言うのは、冒険者の中でも特に問題のありそうな方々を観察、指導、そして役所へ報告するのがお仕事さ」


「小学校はどうした、少年?」


「飛び級で卒業したよ。ぼくの最終学歴は大学院」


 その歳で大学院出てるとか、色々と生き急いでない? 大丈夫? 長い人生、もっとゆっくり楽しめよ。


「ってか何で俺にそんな指導員がつくんだよ? こちとら何にも……」


「冒険者ライセンスレベルゼロの段階で、禁止されてたのにクエストを受けてたよね?」


 なんでバレてんだァァァッ!?


「職業は前代未聞のロリコン。こんなもんで登録されてるのはハヤトさんくらいだし、初日の体力検査は歴代最低値。あまつさえ、初日から規則違反までしてる。何より……」


 すると、言葉の途中でショータローがハリセンを振りかぶった。なんだなんだ。


「いい大人が服も着ずに葉っぱ一枚とか恥ずかしくないの、かいッ!?」


「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 スパーンという良い音がして痛ったァッ!!! 思いっきりハリセンでケツをしばかれたぞ何しやがるこのクソガキャァァァッ!!!


「冷静に考えてね、ハヤトさん? 側面から見るとたまにおチンがはみ出してるその格好。公序良俗の観点において許されると思う?」


「思う」


「思うな」


 俺のリターンエースをスマッシュで否定してきやがった。クソが、どうしてどいつもこいつもこのクラシカル紳士スタイルを認めないんだ、さっぱり解らん。


「なんでそこだけ常識が足りてないの?」


「いいか少年。常識は従うもんじゃない、自ら生み出すものさ」


「従えよ、先人が積み上げてきた偉大な常識に」


 何故俺は自分の歳の半分にも満たない少年にダメ出しされているんだろうか。世間って冷たい。


「良いですか、これは天命なのですッ!!!」


 と思ったら、倒れていたステータスちゃんが復活した。


「世の中はショタを求めていたのですッ! のじゃ系ロリとか真面目系委員長娘とか、あまつさえジジイなんか論外ですッ! 幼い男の子ッ! つまりはショタ! これこそが民意ッ! 民意なのですッ!」


「たまたま自分の性癖に合致したからって、それを一般市民の意向にまで広げないでくれる?」


 ちなみに顔色一つ変えないまま、またもやステータスちゃんにハリセンを振るっているショータロー君だが、ちょっと前に作者のツイッターで『ツッコミ役なら誰?』というアンケートを取った結果、生まれたのが彼だ。


 真面目系委員長娘とかジジイ、そしてのじゃ系ロリを破って一位になった彼が採用された訳だがド畜生何でロリが勝てなかったんだよクソが投票したテメーらの血は何色だコラァァァッ!!!


「ああもう、頭痛くなってきた……ヤバい奴らとは聞いてたけどここまで酷かったなんて……とにかく。ぼくはハヤトさんの観察指導員だから、今回もついて行かせてもらうよ。仮にもライセンスを持った人間が、役所経由の仕事で問題起こすとか冗談じゃないし……」


「大丈夫か少年? 眉間にシワなんか寄せてると、幸せが逃げていくぞ? そういう時は脱ぐんだ。暑苦しいスーツなんか脱いで、俺と一緒に葉っぱ一枚で清々しい気分に浸ろうぜ?」


「ショータローきゅん、困ったらおねーちゃんの所にいつでも来るんでちゅよー。おねーちゃんのお股の用意はいつでもできてるからねー」


「黙れ頭痛の原因ども」


 とりあえず、ショータロー君が同行することになった。監視付きになったのは甚だ遺憾ではあるが、まあ普通にしてりゃ文句もないだろう。


「良いからさっさと服着なよッ!」


「痛ったァッ!!!」


 時々思い出したかのようにお尻をしばかれるんだけど、これってなんて笑ってはいけないシリーズ? こちとら丸出しだから、痛みが脳天に響くんだけど。


 そんなこんなで新しい仲間となったショータロー君を連れて、俺達は役所で受け取ったクエスト概要を元に、問題が起きている村へと向かった。


 道中、我慢できないステータスちゃんが数回彼に飛びかかってはハリセンで返り討ちに遭うという光景が広がっていたが、もう、なんか、慣れてきた。人間って凄い。


 やがて俺達の目に飛び込んで来たのは、いつもの街から少し離れた所にあった隣の村。家々が立ち並ぶ区域から少し離れた所にある、畑が広がるそこでは、


「なによそのヘッピリ腰はッ! さっさとあたしの為に、食べて痩せる野菜を育てなさいッ! ウダウダしてると丸呑みにするわよッ!」


「ちゃんとやりますから、どうかそれだけはーッ!!!」


 何やら働かされている村人達と、それを強制してるっぽい魔族みたいな女の子がいた。村人の方はラッチみたいなただの冴えないハゲのおっさんなのだが、女の子の方が見た目が凄い。


 茶色い髪の毛を二つに縛ったツインテールで緑の瞳を持つツリ目。白い肌にゴスロリ調のフリフリが多くついた真っ黒なドレスを着ており、如何にもツンデレ感がありそうな見た目と喋り方をしているが、問題はそこじゃない。


 一言で言うと、デカい。いや、ステータスちゃんも高身長なのだが、彼女は縦だけではなく横にもデカい。要はブクブクに太っているのだ。


 しかも彼女、タダのデブじゃない。太りすぎた脂肪で顔は中央にパーツが寄っているという有様だし、フリフリのドレスと手足はその垂れ下がった脂肪でほとんど隠れており、あれは積み上がった土のうなんじゃないかと思えてくる。


 溢れんばかりの脂肪は彼女の体積を底上げしており、おそらくあの大きさなら屋内だと天井に頭が当たるだろう。最早そういう神話生物なんじゃないかという雰囲気を出している。


「……食べて痩せる野菜って、なんだ?」


「さあ?」


「セロリスリザリンですよ」


 俺とステータスちゃんの疑問に、ショータロー君が答えてくれる。


「この村はセロリスリザリンの栽培が盛んなんです。真偽は定かではありませんが、セロリスリザリンは食物繊維等が豊富で、食べて得られるカロリーよりも消化にかかるカロリーの方が高い……つまり、食べたのにカロリーを消費するというマイナスカロリー食材なんです」


「要は、それだけ食ってると痩せてくって事か」


「まあ、実際に消費カロリーを測った研究結果はないので、本当にそうなのかは不明なんですけどね」


 そうショータロー君は言っていたが、少なくともあのデブの女の子がそれを信じてセロリスリザリン(これ怒られない? 大丈夫?)を育てさせ、ダイエットしようとしている事は解った。


「たのもーッ!」


 すると、遠くから様子見している俺達の横を通り抜けて、一人の男が彼女へと向かって行った。

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