第15話 イケメンとドンショクちゃんと変態
「やあやあ我こそは冒険者レベル83、カマセ=イヌスケッ! この村の惨状を憂い、クエストを受けた者であるッ! いざ尋常に勝負しろォッ!」
腰に剣を携え、青色の長髪を風になびかせる。キラキラというエフェクトがかかっているのではないかと思うくらいに白い歯に白い肌、高い鼻に整った形の細い目元。
とりあえずイケメンという事は解った俺の怨敵だ殺すしかねえ、世の中のイケメンに死を。
「ただの嫉妬じゃん。ブサメンの嫉妬は醜いね」
おそらくは将来イケメンが保証されているであろう、顔立ちの整ったショータロー君の一言で久々にキレちまったよ。そうだ、屋上へ行こう。我、君、殺。
「……冒険者レベル83ですか……相山の83倍ですね」
彼のハリセンで叩きのめされた俺を尻目に、ステータスちゃんが冷静に分析している。
そりゃ俺はレベル1だからな。イケメンは殺したい程に憎いが、力量差が天と地程の差があるので今日は見逃してやろう。フッ、命拾いしたな。
「地面に倒れてケツだけ上げてるそんな姿で言われてもカッコ悪いよ、ハヤトさん?」
いちいち一言多いなこのクソガキ。
「何よアンタッ!? 魔王軍七大幹部、暴食の隠し子ことこのあたし、ドンショクちゃんの邪魔する訳ッ!?」
ドンショクちゃんって言うのか、あのデブの女の子。自分でちゃん付けするとか、この世界で流行ってんの? ステータスちゃんもそうだったし。
つーか隠し子って何? そこ高らかに謳い上げるとこじゃなくね? 割りと家庭環境が心配なんだけど。
「当然そうに決まっているッ! 私欲の為に民を虐げる悪い魔族、例え世間や世界が許そうとも、この私が許さないぞッ!」
なんだあのイケメン。主人公である俺を差し置いて主人公っぽいことしてんだけど。これ裁判案件じゃね? 罪状は主人公補正の無断使用とかで。
「イケメン無罪。閉廷」
ステータスちゃんの無慈悲な一言で裁判は終わった、畜生世界って不平等だ。
「と言うか、ハヤトさんを守る法律なんてないと思うよ? 葉っぱ一枚の猥褻物陳列罪。法を守らない人は、最早法に守られない」
ショータロー君の十歳とは思えない発言が俺の心に突き刺さる。と言うか、このクラシカル紳士スタイルを認めない法律なんてそんなの酷いよ、あんまりだよ。
「行くぞブクブクに太ったデブ魔族ゥッ!!!」
「ハァッ!? アンタ今なんつった、十六歳の乙女に向かってェッ!!!」
マジかよ、ドンショクちゃんあんな見た目で高校生くらいなのか。つーか今更だが、声も結構可愛いな。
顔のパーツも脂肪以外は悪くないし、個人的には通常の人間サイズまで激ヤセしたうえであと五、六年早く出会っていれば、俺達は温かい家庭を築くことができただろう。
「ちょっと何言ってるかわかんない」
冷たく吐き捨てるショータロー君。フッ、飛び級したとは言え、やはりまだまだお子様なんだな。これが大人の考え方ってヤツよ。
「まともに生きてる大人に土下座して、今すぐ」
土下座なら毎回ノルマみたいにやる羽目になってるから。つーか正直、最近抵抗感が薄くなってきた気がしている。良いのか悪いのか。
そんなやり取りをしている内に、あのカマセとか言うイケメンがドンショクちゃんに斬りかかった。
「な……ッ!?」
しかし、その斬撃は分厚い脂肪を切り裂くことが出来なかった。剣は脂肪に飲み込まれて、ピクリとも動かない。
「あたしのダイエットの糧にしてやるわッ! "悪食(イートワールド)"ッ!」
すると、ドンショクちゃんの背中から人の腕くらいの太さがある真っ黒の触手が複数生えてきた。
その触手の先っぽには無数の牙がついた口がついていて、よだれを垂れ流している。鼻息も荒いので、鼻もついてるみたいだな。
「いただきます」
「う、うわぁぁぁあああああああああああああああッ!!!」
そして触手の一本の口が肥大化したかと思うと、カマセが丸呑みにされてしまった。
触手の内部に取り込まれた彼はジタバタしているが、ドンドンと彼女の体内へと飲み込まれていく。
「……うっぷ」
やがてカマセの姿が完全に内部へと消えてしまい、ドンショクちゃんは息をついている。
えっ、マジ? あのイケメン食われたの? 物理的に。
「……いっけなーい。野菜食べてダイエットする筈が、まーた人間食べちゃった! てへ!」
すると、何やら一人でテヘペロを始めたドンショクちゃんが触手を出し、うねうねとそれを動かしながら何かを吐き出す。
出てきたのは、粘液でドロドロになったカマセだった。
「う~ん……臭ィ……」
地面で呻きながら気を失っているが、おそらく死んではいないのだろう。死んでないだけかもしれんが。
「さ! 邪魔が入ったけどキビキビ働きなさい愚民ども! あたしはここのダイエット効果のあるセロリスリザリンをたらふく食べて、細身のモテカワスイーツ系女子に生まれ変わらなきゃいけないのッ! サボってんならコイツみたく丸呑みにするわよッ!?」
「「「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
そう言って再度、村人達のお尻を触手で叩いて働かせ始めるドンショクちゃんである。
うん、お前の野望は解ったんだけど、多分その身体、野菜食っただけじゃどうにもならんと思うぞ?
「……じゃ、帰るよ二人とも」
「「えっ?」」
事が一段落した時に、ショータロー君がそんな事を言い出した。思わず、ステータスちゃんと声を揃えてしまう。
「見たでしょ? 冒険者レベル83の人でも、あっさりやられちゃったんだ。それなのに冒険者レベル1で、しかも葉っぱ一枚の変態が向かって行ってどうするのさ? 勝てる訳ないよ」
それくらい解るでしょ、と言わんばかりのショータロー君の声色である。
まー、確かに。普通に考えたらそうだろうな。自分の何倍も強い人をあっさり倒す相手に向かっていって、勝てる見込みはない。
幾重にも作戦を張り巡らせたりするならともかく、今回は何の準備もなしやってきたんだ。無謀以外の何物でもないだろう。
「……チッチッチッ。甘いなぁ、少年」
「何その態度ウザ……」
右の人差し指でチッチッチッとやったら、ショータロー君に軽蔑の眼を向けられた。解せぬ。
「俺達にはステータスちゃんがいるじゃないか。ドSでショタコンでパチンカスの」
「聞いてると不安しか覚えないんだけど?」
確かーに。俺も自分で言ってて不安しかないわ。
「ふふん! ショータロー君にお姉ちゃんの凄さ、見せてあげますッ!」
そして何故か胸を張っているステータスちゃんである。おお、今日は珍しくやる気だ、ショータロー君がいるからだろうか。
この子がもう少し早く来てくれてたら、俺も色々と面倒な事にならんで済んだのかな……?
「さあ行きなさい相山ッ!」
「よっしゃぁッ!」
まあ良いか。ステータスちゃんの太鼓判を得た俺は、勢いよく飛び出して行った。
「えっ? ホントに行っちゃったんだけど?」
「おいそこのデブッ!」
「今度は何よッ!? って言うかまたあたしの事デブって言ったな嫌ぁぁぁあああああああああああああああああああ変態だぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!!」
俺の姿を見たドンショクちゃんが悲鳴を上げた。何故だ。
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