第13話 腹ペコと危険度大と十三歳以下
「「腹が減ったァァァッ!!!」」
ボロアパートの中で、俺とステータスちゃんは叫んだ。理由は明確だ。
「カールのおっさんの事務所で茶菓子パチって凌ぐのももう限界だァァァッ! 米が、肉が、野菜が食いてーェェェッ!!!」
「もう水だけの生活は飽き飽きですッ! あのもやしの醤油かけが恋しくなるなんて思いませんでしたよォォォッ!?」
カールのおっさんに今月の給料を没収されてしまった俺達は、ついにもやしすら食えなくなってしまった。
水と、カールのおっさんの事務所に手伝いに言った際にこっそりくすねたお菓子で何とかしていたが、流石にそろそろ限界だ。
「って言うかわたししばらくパチンコもできてないんですよッ!? ジャラジャラ鳴るパチンコ玉が、あのうるさい喧騒が、わたしには足りていないんですッ!!!」
「うるせぇッ! 飯も食えてねえ状況でパチンコなんざ行けるかァッ!!!」
神々しい雰囲気を持ちながらパチンコで堕落したこのステータスちゃんは、相変わらず懲りていない。
最近ではパチンコができない禁断症状が出てきたのか、パチンコ屋の床に這いつくばってパチンコ玉が落ちてないか地道に探している始末だ。
見ていて滑稽なので止めてないが、いずれ店から出禁を喰らってもおかしくないだろう。出禁喰らったら腹抱えて笑ってやる。
「という訳で相山ッ! 行きますよクエストを受けにッ!」
「おうよッ!」
そう言ったステータスちゃんに、俺は勢いよく答えて冒険者ライセンスを取り出す。そこには、冒険者レベル1という輝かしい始まりの数字が印字されていた。
俺はあれから必死に努力し、ようやく冒険者レベル1となったのだ。これを語るには原稿用紙が一枚も要らないが、とにかく大変だったと伝えておこう。
久しぶりに一日休みをもらった俺は、ステータスちゃんと共に役所へとやってきた。
平日の昼間で人がごった返していたが、どけどけぇ、こちとら冒険者レベル1だぞ? 合法的にクエストを受けられる冒険者様だぞ? 控えィ! 道を開けよッ!
「すみません、番号札をお取りになって、順番待ちをしていただけないでしょうか? 横入りは他のお客様のご迷惑となりますので」
「「アッハイ、すみません……」」
またしても役所の職員に怒られた俺達は、大人しく番号札を取って待つことになった。
今日は椅子が全て座られているので、立って待つしかない。空きっ腹に立ちっぱなしは地味にキツイな。
「……次の方どうぞー」
ようやく俺達の番号が呼ばれた。二人して意気揚々とカウンターへと向かう。
「はい、冒険者ギッ……ルドでようこそ。本日はどういったご用件で?」
髪の毛を後ろで一纏めにした厚化粧の受付のおばさんが、またしても俺の方を見て言葉を詰まらせた。
前と同じでこちらに顔を向けないままに案内してくるがおいこっち見ろこのクラシカル紳士スタイルが目に入らぬか? 入らんのなら俺が直々に入れてやろう。
「クエストを受けたいんだけど……」
「わかりました。それでは冒険者ライセンスをご提出ください」
「はい」
俺は股間の葉っぱの裏にしまっておいた冒険者ライセンスを取り出すと、おばさんが悲鳴を上げた。
「ヒ……ッ! こ、ここには置かないでくださいねッ!?」
カウンターに置こうとしたら食い気味にそう言われた。解せぬ。
「……今更ですが、よくそんな所にしまえましたね」
「そうか? 結構便利だぞ、これ?」
「ウッソだろお前」
「ホンマです貴様」
軽蔑の目でこちらを見てくるステータスちゃんだが、何かおかしいことでもあったんだろうか? 股間の葉っぱの可能性はインフィニティであるというのに。
「……はい、確認しました。相山ハヤト様、冒険者レベル1ですね。現在受けられるクエストは、こちらになります」
やがておばさんがパソコンの画面をこちらに向けて、今受けられるクエストの一覧を見せてくれた。どれどれ。
『冒険者レベル1 該当クエスト
①「薬草採取依頼」 危険度:小 報酬:小
②「町内のドブ掃除のお願い」 危険度:無 報酬:極小
③「助けて今すぐ誰でも良いから」 危険度:大 報酬:大』
「「③で」」
「ウッソだろお前ら」
ステータスちゃんと声を揃えてクエストを選んだら、おばさんから信じられないと言った言葉が飛んできた。解せぬ。
「③のクエストはレベル制限なしで依頼がかかっていますが、熟練の冒険者でも受けないような内容です。初めてのクエストである貴方がこれを受けようとするなんて狂気の沙汰です。規定上仕方なく提示しておりますが、貴方たちのような新人は①か②ならともかく、③の依頼は絶対にやめてください。解りましたか? それを踏まえたうえで……念の為にもう一度聞きますが、どちらのクエストを受けられますか?」
「「③で」」
「人の話を聞けっつってんだろお前ら」
なんだよいちいちうっせーな。
「大人しく①か②受けとけって何で駄目だっつってる③一択なんだよ頭イッてんのかそうだなお前その格好だもんな元から頭イッてたわごめんごめん」
「おいこのクソババア表出ろ」
この厚化粧ぶっ飛ばす、俺のクラシカル紳士スタイルを馬鹿にするヤツは右ストレートでお星さまにしてくれるわブヘラァァァッ!?
「すみませんウチの相山が粗相をしまして。でも③を受けますんで大丈夫ですよ?」
勢いよく拳を振りかぶった俺は次の瞬間、ステータスちゃんによってカウンターに顔を叩きつけられることになった鼻の頭を強打ァッ!!!
「なんで人の顔を叩きつけたテメーッ!!?」
「話が進みませんのでそこで大人しくしててください」
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:悟りの境地(New!!!)
職業:ロリコン
取得スキル:ステータスちゃん
持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)
備考:今月の給料、なし』
気がつくと。俺はカウンターの上で座禅を組んで世界を感じていた……流れる空気が、俺に何かを語りかけてくる……そうか……これが、悟り……とても、穏やかな気分だ……。
「……相山様が急に静かになったと思ったら、表情筋の全ての力を抜いたような、こう、正直、気持ち悪い顔をされているのですが……大丈夫なんですか?」
「相山の顔はいつも気持ち悪いじゃないですか。多少変化したところで誤差です、誤差」
「それもそうですね。それで話の続きなんですが……」
受付のクソババアとステータスちゃんが何やら人を馬鹿にしているが、俺にはそんな言葉は響かない。このとても緩やかで落ち着いた気分……そうか、そうだったんだな……。
何やら受付カウンターを挟んであーだこーだと言い合っているみたいだが、俺が得た答えと比べたら、言い争いなどなんと些細なことか。
大丈夫、答えは得た。俺はこれからこの答えを胸に、頑張っていくから……。
「……それでは。再三確認しましたが、本当に③のクエストを受けられるのですね?」
「貴女もしつこいですね。受けるって言ってるじゃないですか。報酬が小とか極小なんてやってられません。わたし達はさっさとお金が欲しいんです」
「……それではこちらにサインを。命の危険を全て了承したうえで、当役所はしっかりと内容を説明したことを証明し、何があってもこちらには責任が一切ない、という内容をまとめた同意書です」
「はいはい適当に相山の名前でも書いておきましょう。ほいほいほ~いっと……じゃ、早くクエストの概要をください」
「……確かに。こちらになります。それでは」
「はい。さっさと行きますよ相山。いつまで気持ち悪い顔してるんですか? って言うか何を悟ったんですか、貴方は?」
「女の子は、十三歳以下に限る……」
「悟りを得て見つけた答えがそれかよっつーか前より対象年齢下がってんじゃねーかこじらせてんじゃねーよこのクソロリコン野郎」
やがて元に戻った俺は、クエストの概要が書かれた紙を頼りに、現場へと向かうことになった。
みんな、女の子は十三歳以下に限るんだぞ。お兄さんとの約束だ。
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