第12話 背負えるものとくたびれ儲けとあっ……


「……そーいや、あそこで捕まって働いてた人達って、どうなるんだ?」


 すっかり外も暗くなった帰り道。俺は不意に気になったことがあったので、ステータスちゃんに聞いてみた。


「さあ? そのまんまじゃないんですか?」


 マジかよ。


「だってわたし達が働かなくても良くなっただけですし、何もしてないじゃないですか。なら、そのまんまなんじゃないんですか?」


「……助けなくて、良かったのか?」


「別に良いのでは?」


 俺の心配を、ステータスちゃんがあっさりと流す。


「貴方は勇者ではありませんし。そもそも誰かを助ける事には責任が伴います。助けた相手を、その後どうするのかという責任が。実際問題、助けた、ありがとう、じゃ後は頑張ってね……では終われません。

 それに、あそこで働いている人達だって、色んな人がいるでしょう。当然、わたし達みたいに騙されて無理やり連れてこられた人も……」


「……なら、やっぱ戻った方が……」


「でも、それだけではありません。あそこに順応して生活している人もいるでしょうし、何なら望んで働いている人もいるでしょう。そういうのを全部無視して、全員を助けに行きますか? 何十人という人達の今後の生活を、貴方は背負いきれますか?」


「……………………」


「それとも、助けて欲しい人だけを助けますか? 人手が足りなくなった工場で、残された人達が辛い思いをすることになるかもしれませんが……」


「……いや、やめとこう」


 そう言われてしまうと、俺としては無理の一択だ。ただでさえ、自分の借金もままならんと言うのに、他の誰かの面倒を見る余裕なんかありはしない。


「……出来ないのなら、手を出さない。手を出すつもりがないなら、そもそも口も出さない……それくらいで、良いと思いますよ?」


「……そーだな。俺は、誰も彼も救える勇者なんかじゃないもんな」


 悲しいかな、俺は救世主じゃない。地に足つけて必死に生きる、ただの一般庶民だ。できること、そして誰かに向かって伸ばせる手は、あまりにも短い。


「ええ。貴方は借金を背負ったただの相山です。うだうだ言う前に、まずは自分が背負ってるものを何とかしてからにしてください」


「誰のせいだこの原因」


 そう言うステータスちゃんの目も、何処か遠いものとなっている。なんだろうか、彼女にも何か、思うことでもあるんだろうか。


 思えば、俺はステータスちゃんについては何も知らない。俺のステータスちゃんである、という事以外はさっぱり解らんのだ。


 気になるっちゃ気になるが……まあ、また余裕がある時にでも聞いてみっか。


 やがてボロアパートにたどり着き、鍵を開けてステータスちゃんと二人で中に入った。手洗いうがいをし、二人してふーっと一息をつく。


 今日は色々大変だったな。まあ、とりあえずは変なとこで働かされることにならなくて良かった良かった。


 冒険者になったとは言え、ああ言う詐欺とか新人を食い物にしようとする輩もいるってことだな。これからは気をつけよう。


 とりあえず、無事で何より。めでたしめでたし……。














 グギュルルルゥゥゥ……。


「……って全然めでたくねーよ、金が一銭も入らなかったじゃねーかッ!!!」


 腹の虫が鳴ったことでふと我に帰り、結局今日一日で何も得られなかったことに気がついた。


 結局役所行って冒険者ライセンス(レベルゼロ)をもらっただけでお金は全くもらえていないし、お腹もペコペコのままだ。


「クッソこんなことならぶっ飛ばす前にラッチの野郎から金巻き上げておくんだったァッ!」


「そうですよ、これじゃ骨折り損のくたびれ儲けじゃないですかッ! どうしてくれるんですか相山ァッ!!!」


「人の所為にしてんじゃねーよ元はと言えばテメーがパチンコで金スッてきたのが原因だろうがァァァッ!!!」


「テメーッ!? またわたしのことテメーって言いましたねこのロリコン野郎ォッ! 土下座です土下座ァッ!!!」


 そのままステータスちゃんとやり合っていたら、不意に扉をノックする音が聞こえた。


 こんな時間に誰だと思っていると、扉が開いてそこからカールのおっさんが顔を出す。


「ようお前ら。やっと帰ってきたのか」


「あん? どしたのカールのおっさん、こんな時間に?」


「いや、どうしたのはないだろお兄さんよぉ……」


 すると部屋の中に黒服のお兄さん達がたくさん入ってくる、なんだなんだ物々しいな。


 と思っていたら、次のカールのおっさんの言葉で俺は凍りつくことになる。







「お兄さん。今日の午後は手伝いに来てくれって、俺様ちゃんと頼んでたよなぁ? すっぽかして何処ほっつき歩いてたんだ? んんん?」


「……………………」







 今日の午後、カールのおっさん、手伝い…………。


「……ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 しまったすっかり忘れてた今日は午後からカールのおっさんに呼ばれてたんじゃん俺ェッ!?


「俺様の頼みを無視たぁ良いご身分だよなァ……?」


「申し訳ありませんでしたァァァッ!!!」


 本日何度目になるのか、俺は綺麗な土下座をかました。


「つーかステータスちゃんテメーッ! 今日の午後には予定あるっつってたじゃねーかまさかテメーも忘れてたんじゃねぇだろうなああああッ!?」


 その時のステータスちゃんの顔はとても印象的で、今でもよく覚えている。絶句したまま目を見開き、口も開けたまま右手でそれを隠すように当てている。つまり、


「        」


 完ッ全に「しまった、忘れてた」って表情だクソァッ!!!


「……連れてけ。俺様達に歯向かったらどうなるか身体に教え込んでやる。ついでに、来週出す予定だった給料も無しだ」


「「ド畜生ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」


 こうして俺は黒服のお兄さん達に連れていかれ、しこたまボコボコにされてしまった。しかも次の給料はなしということで、しばらくの間、俺とステータスちゃんは水だけで生きることになりましたとさ。


 めでたくないめでたくない……。


『氏名:相山ハヤト

 性別:男性

 年齢:二十八歳

 状態:葉っぱ隊

 職業:ロリコン

 取得スキル:ステータスちゃん

 持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)

 備考:今月の給料、なし(New!!!)』

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