第11話 メイスとガッツポーズとお星さま


「何でわたしが相山のステータスを上げなければいけないんですか?」


「いやお前話聞いてなかったの?」


 心底不思議そうな顔をしているステータスちゃんに、俺はやれやれといった調子で再度説明してやる。


「いいか? 俺は今からあのアークデーモン係長もといお義父さんを超えて、あの小悪魔幼女と無知ックスして童貞処女を捧げ合い、あのぷに腹をポテ腹に変えて愛のある温かい家庭を築いていかなければならないんだ。解るか?」


「解りません。解りたくもありません」


 なんてワガママなステータスちゃんだ。


「話を聞いている限り、わたしが相山に手を貸すメリットがゼロなのですが?」


「メリットならあるさ。俺の脱童貞」


「びっくりするくらいのデメリットですね」


 ちょっと何言ってるか解んない。


「と言うか。これわたしが手を貸したら、強姦罪の共犯では? わたし、犯罪者にはなりたくないんですけど」


「強姦とは失礼な。キチンとお兄さんと気持ち良いことしようね~と、知らないなりにも了承を得てからだな……」


「よぉぉぉし、これなら行けるなッ!」


 分からず屋のステータスちゃんに力説していたら、やがてドンっという大きな音と共に、お義父さんが声を上げた。


 何事かと視線を向けてみると、そこには球型頭部が歪な形をした打撃用の武器、俗に言うメイスを担いだお義父さんが、良い笑顔で俺を見ている。


「娘の前で血を見せる訳にはいかんからなッ! これなら内出血で済むッ!」


「おとーさーんッ! がんばえーッ!」


「よーしパパ頑張っちゃうぞ~ッ!」


 めっちゃ良い笑顔で娘に手を振っているお義父さんだが、それを見ている俺は冷や汗が止まらない。


「……なにあれ?」


「メイスですね。あれに殴られたら、まず骨は助からないでしょう」


 棍棒どころか細い柱くらいありそうなメイスを軽々と振り回しているお義父さん。


 俺の素晴らしさを骨の髄まで叩き込んでやろうと思ってたら、逆にヤベェ鈍器を骨の髄まで叩き込まれそうなんだけど。


 つーかあれ、喰らったら骨どころか内蔵までただじゃ済まなさそうなんだけど。


「では……行くぞ貴様ァァァッ!!!」


「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 ムキムキなお義父さんに死ぬほどメイスされて眠れない俺、開幕。


「いえ、これは……むしろ永遠の眠りにつけるのでは?」


「何上手い事言ったみてーな顔してんだコラァァァッ!!!」


 してやったりみたいな顔しているステータスちゃんに文句を言いつつ、床を破壊するくらいの勢いでこちらに殴りかかってくるお義父さんマジ怖ェェェッ!!!


「どうしたんですか? 早く超えてくださいよ、お義父さん(笑)を」


「嫌ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! 死ぬゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!」


「先ほどまでの謎勢いも気品もない、藁にもすがるような情けない叫びでわたしは大満足ですブッハァァァッ! ダセェェェッ!!!」


 本当に容赦なくメイスを振り回してくるお義父さんあっぶなッ!? その攻撃で自分の工場の一部までも破壊していることに気がついていないのでひぃぃぃッ! チョット待ってこのお義父さんカルシウム足りてないよ、


「オラァァァッ!!!」


「ブヘラァァァッ!?」


「ナーイスアタックッ!!!」


 め、メイスが顔面の横っ面に思いっきりぶつかって……あっ……綺麗なお星さまが……つーか人の顔面に鈍器が直撃したのにステータスちゃんガッツポーズしてるんだけど許さねぇ絶対にいつか殺す。


『氏名:相山ハヤト

 性別:男性

 年齢:二十八歳

 状態:死にかけの葉っぱ隊(New!!!)

 職業:ロリコン

 取得スキル:ステータスちゃん

 持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)』


「うわ、まだ生きてる。なんですかこのしぶとさは、しつこい油汚れか何かですか貴方は?」


 人が瀕死に陥っているというのにこのステータスちゃんは容赦がない。今にも死にそうな人間に対して、普通まだ生きてるとか言う?


「きゃー! おとーさーんかっこいー!」


「パパやったよ~ッ!」


 向こうではお義父さんが娘ちゃんと抱き合っているおいそこ代われと言いたいけど無理なんか脳みそも揺れたのか身体が動かない助けて。


「……こうして、ロリコンの一匹は滅んだ。しかし、彼らはまだウジ虫のごとく世界に蔓延っている。わたし達の戦いは、終わらない……全てのロリコンを始末する、その日までッ!」


 こちらのヘルプに耳を貸すこともなく、何やら勝手にエピローグを始めているがそうはさせんぞステータスちゃん。


「ロリコンは滅びぬッ! 何度でも蘇るさァッ! 幼女の処女膜を破るその日までなァッ!!!」


「アークデーモン係長さん、とりあえずこのロリコンだけでもトドメとか刺しておきませんか?」


「そうだな」


「ごめんなさい許してくださいもうしません」


 無理です調子に乗ってすみませんでした娘さんは諦めますなのでどうか許してくださいこれ以上は死んでしまいます。


 瀕死の重症を負いながらも、俺は再び土下座をかました。


「むしろなんでメイスの直撃を頭部に受けて生きておるのだコイツは?」


「わたしがステータスの一部を弄って、殴られてもギリ生き残れる値に設定しましたので」


 喜んで良いのか悲しんで良いのか解らないステータスちゃんの配慮だが、とりあえず死にそうだけど死んではいない命があって良かった生きてるって素晴らしい。


「アークデーモン係長様ッ! 僕の成果は見ていただけましたでしょうか!?」


 やがてさっき俺達が入ってきた扉が開いて、ツルッパゲの冴えないおっさん、ラッチが入ってきた。


「僕は二人も連れてきましたよッ! これで僕も株式会社魔王軍の正社員に……」


「お前かこの変態ロリコンを連れてきたのはァァァッ!!!」


「うわぁぁぁああああああああああああああああッ!?!?」


 入ってきた瞬間にお義父さ……アークデーモン係長のメイスがうねりを上げる。おお、避けた。やるじゃんラッチ。


 あとお義父さん呼びしようとしたらアークデーモン係長がギロリとこちらを向いたのですみませんでしたもう普通に呼ばせていただきますはい。


「お前の所為で可愛い娘に悪い虫がつくところだったわッ! 貴様なんか不合格だ不合格ッ!」


「えっ? えええっ!? な、なんでッ!? 僕はちゃんと連れてきたのに……」


「「ラ~ッチ~く~ん……」」


 不合格の宣告に唖然としているラッチさん……いや、ラッチの両肩に俺とステータスちゃんの手が置かれる。


 いつの間にか動けるようになっていた俺だったが、多分ステータスちゃんが気を回してくれたのだろう。でも今はそんな事どうでも良いんだ、重要なことじゃない。


「き、き、君たちッ!? ど、どうして無事で……って言うか変態ロリコンって何……?」


「よ~くも俺達の事騙してくれたな~、ラッチさんよぉ……」


「まずは土下座なさい。って言うか土下座以外の態勢を取ったら殺します、ほらさっさと額を床にこすり付けるんだよこのツルッパゲがァァァッッ!!!」


 ステータスちゃんがラッチの足を払ってうつ伏せに倒し、頭をグリグリとかかとで踏みつけている。うんうん。まずは土下座だよなぁ。


「すみませんすみません出来心だったんです僕もいい加減冒険者とか言う日雇いをやめて安定した職に就きたかっただけなんですゥゥゥッ!!!」


「そうですかそうですかでも許しませんよ土下座はどうしたオラァァァッ!!!」


 やがて俺の身体が光り始めた。気がつくと筋肉ムキムキマッチョマンのロリコンになった俺は、躍動する自身の筋肉達にやあ今日もキレてるねと声をかけながら、ラッチの元へと歩み寄っていく。


 それを見たステータスちゃんが、うん、と一度頷いて身を引いた。何事かと顔を上げたラッチの目の前には、葉っぱ一枚を携えたムキムキの俺が仁王立ちしている。


「ようハゲ。気の利いた命乞いは思い浮かんだか、んん?」


「あ、あああ……ッ」


「俺は優しいからな~。そう長く苦しめたりはしねーでやるよ。ただし……一発は入れるがなァァァッ!!!」


「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 こうして、ラッチはお星さまになったとさ。

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