第18話 女の戦いと宴会とやっちゃったZEッ!
ステータスちゃんのその様子を見て、事情はだいたい察した。ああ、また負けたんだな。
「……あれ? 相山、この女の子は誰ですか?」
「あたしよあたしッ! ドンショクちゃんよッ!」
「ウッソだー」
帰ってきたステータスちゃんがドンショクちゃんを見て、俺と同じ反応をする。ま、普通はそう思うよな。
「ああ、ステータスちゃんか。実はカクカクシカジカでな……」
「ふむ……相山。前も言いましたが、口でカクカクシカジカと言われても解りませんよ? ちゃんと説明してください」
「さっさとスキル寄越せやこのやり取り二回目だぞクソァッ!」
スキル、[カクカクシカジカ四角いムーチョ]でサッと説明を終える。ついでに自己紹介も適当に済ませた。
「……なるほど。と言うことは、この小娘も一緒に住むんですね」
事情を理解したステータスちゃんが顔をしかめている。いや小娘て。
「……なによ? 文句でもあんの?」
「文句と言いますか……良いですか? 女性キャラとして鳴り物入りでレギュラー入りとか、ぶっちゃけわたしが許しません。
だいたい、ツリ目ツインテールツンデレ口調で大喰らいとか甘いんですよ、そんなやり尽くされた属性は。若いからって調子に乗らないこと。そもそもこの物語のヒロインはわたしです。タイトルにも入っているんですから」
お前は何を言ってるんだ? ドンショクちゃんもジト目で見てんぞ?
「……あっそ。ただの年寄りの僻みじゃない。ステータスお・ば・さ・ん」
ビキッ、っとステータスちゃんの額に青筋が走る。
「……よろしくね、貧乳小娘」
ビキッ、っとドンショクちゃんの額に青筋が走る。
「……小じわができそうなおばさんの嫉妬って醜いわねー。ちょーっと自分の立場が脅かされそうになると、すーぐそうやってマウント取ってくるんだから。良い歳して世界で一番お姫様とか、恥ずかしくない訳?」
「……ポッと出の小娘が生意気ですね。若さ以外に何の取り柄もないうえに、年上に対する敬意まで持っていないんですから……ああ、胸が貧しいから敬意を入れておく場所がなかったんですね。これは失礼」
二人のバチバチのやり取りを見て、思い出したことがある。ここに来る前の元の世界の会社でも、似たようなことがあったな。
俺がいた部署に新卒の女の子が入ったら、女の先輩達がランチにその子を絶対に誘わなかったやつだ。その癖、聞こえるような声でランチ楽しかったねー、とか喋ってた。
それを聞いた新卒の子もまた……うん、これ以上は思い出したくない。女の戦いマジ怖い。戸締まりしとこ。
「良いですかッ! こんな貧乳小娘がレギュラーなんてわたしは認めませんよッ! 世論はわたしのような、長身巨乳美人のママみを求めている筈ですッ!」
「うわー。独り身の癖にママとかないわー。自分の都合の良いようにしか考えられないおばさんは、これだから。こんな老害よりも、若くてピッチピチなあたしこそ、この物語のメインヒロインにふさわしいわッ!」
「誰がおばさんですかこの貧乳ッ!!!」
「誰が貧乳よこのクソババアッ!!!」
「ハヤトさん。いつからこの部屋はメインヒロイン争奪戦の会場になったんだい?」
「そんな事、俺が知るか」
互いにキーキー言いながら髪の毛を引っ張り合っての喧嘩になったステータスちゃんとドンショクちゃんだが、でも今はそんな事はどうでも良いんだ。重要なことじゃない。
グゥゥゥ……っと俺の腹が鳴った。それを聞いた三人が、一斉にこちらを向く。
「……俺は腹が減ってんだよ。どっかの馬鹿が、人の昼飯食った所為でな」
「へー、酷いことする奴もいたもんね」
「オメーだよ何他人事みてーな面してんだゴルアァァァッ!!!」
すっとぼけているドンショクちゃんだが、まあ良いだろう。昼飯は無くなったが、代わりにすげーものを手に入れられたんだからな。
俺は高らかにもらった小切手を掲げた。
「あ、相山……そ、それは……ッ!!!」
それを見たステータスちゃんが歓喜の声を上げる。フッフッフ、これが何か解ったみたいだな。
「ドンショクちゃんを引き取る前金で、こんなに金が入った。今後も養育費が入ってくる事になったし……だから今日くらいは良いよなァッ! パーッとやるぞオメーらァァァッ!!!」
「「「イヤッホーッ!!!」」」
何故かショータロー君も来る気満々だが、まあ良いだろう。こんだけ金があれば、一人くらい増えても誤差だ誤差。
出かけるのも面倒だし、ここは出前とか配達サービスで色々用意しようじゃないか。俺は早速アパートの共用固定電話に向かった。
通話料は家賃に上乗せされる、三十秒百円の固定電話。ボッタクリも良いとこだ。
「ピザ頼みましょう相山ッ!」
「あたし中華料理のプレートが欲しいわッ!」
「ぼくはお蕎麦とか天ぷらが良いね」
全員違うもん希望しやがって。周りに合わせようという気はないんかお前ら。まあ良いか、金ならある。
テイクアウトをやっている店に順番に電話し、待つこと少々。
俺達の目の前には、ピザと中華料理のプレートと天ぷらそばやいなり寿司。そして各種の飲み物がずらりと並んでいた。壮観壮観。
未成年が居るのでお酒は飲めないが、ノンアルコール飲料で我慢しよう。そう言う所は大事だ。
「えー、では。今日からお世話になることになったドンショクちゃんの歓迎会を兼ねて……やりたい放題やるぞォォォッ!!! かんぱーいッ!!!」
「「「かんぱーいッ!!!」」」
そうして俺達の宴会が始まった。
「ちょっと小娘ッ! わたしのシーフードピザ取りましたねッ! しかも大きいエビが乗ってる一番美味しそうな所をッ!」
「先にあたしの餃子取ったのはアンタでしょおばさんッ! やられたのはあたしが先ですー、だからこれは正当な仕返しですー!」
「海老天とか久しぶりだなー。さて、では早速……」
「あっ、ハヤトさん。肩に虫がついてるよ?」
「えっ、マジで? どこどこ……」
「隙あり。いただきます」
「ああっ! 俺の海老天をこのクソガキャァァァッ!!!」
「ショータローきゅーん! おねーちゃんがあーんしてあげヘブファッ!?」
「遠慮するよ、自分で食べられるからってか何であーんなのに服脱ぎ始めてんの、おかしくない?」
「ちょっとこのいなり寿司取れないじゃないッ! あたしがせっかく食べてやろうと……」
「それは俺のお稲荷さんだ」
「嫌ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ汚されたぁぁぁああああああああああああああああああああああッ!!!」
そんな感じで、俺達の宴会は進んでいった。ステータスちゃんとドンショクちゃんは相変わらずやいのやいのやっているし、ショータロー君はそれに巻き込まれない位置を取りつつ、順繰りに料理を楽しんでいる。
「相山ッ! ピザ追加ですッ! あとコーラもッ! まだまだ食べられますよッ!」
「変態ッ! 中華も追加よッ! もう面倒だから十人前くらい頼みなさいッ! こんだけとか暴食の娘のあたしを舐めてんのッ!?」
「ハヤトさん、ぼくは甘いものが欲しいな。ホールケーキとか頼めないかな」
「オメーら自分で頼もうって気はない訳?」
どんちゃん騒ぎをした俺達。金に余裕があるからとそのまま昼から夜にかけて食い散らかし、そして全員で雑魚寝をして翌朝を迎えた。
満腹感から気分良く寝ていた俺達の元に、ノックの音が響き渡る。
「すみませーん相山様ァ! ピザ屋ですがー!」
うるせーな。朝っぱらからピザ屋が何の用だよ。寝ぼけ眼で扉を開けると、そこにはピザ屋以外にも手にレシートみたいな紙切れ持った、たくさんの人達がいる。なんだなんだ騒々しいな。
「相山様、お支払いの方は……」
「……あっ、忘れてた」
届けてもらっては追加注文ばっかしてたから、まだ支払いしてなかったな。他の人達を見てみても、中華料理屋とか和食とかを運んでくれた兄ちゃん達だった。
「さってと。んじゃこの小切手を現金化して、さっさと……」
なくさないように股間の葉っぱの裏にしまっておいた小切手を取り出す。これ全部払っても、まだ余裕があるだろう。しばらくは、ガマちゃんがブクブクに太ってるだろうな、フフフ。
そんな笑みを浮かべた俺の目に、小切手に記載されたとある一文が飛び込んできた。
『有効期限』
……………………。
……俺の目に狂いがなければ、そこに記載された日付は昨日のものとなっている。
『……あっ、あと小切手の有効期限が今日までだから、早めに換えておいてね』
昨日の暴食さんの言葉が思い起こされる。小切手の有効期限は今日までと言っていた…………昨日に。
「 」
血の気が引くのを肌で感じている朝。小切手を持っている手が震えてきているっつーか全身が震えている。
有効期限が切れた小切手ってどうなんの? 確か紙切れになるの。これ銀行に持ってっても、もうお金に換えてくれなくなるの。そーなのかー……。
「……………………」
俺はピザ屋さんらその他大勢の皆さんに見守られる中、そっと部屋の扉を閉めた。
「「「おいコラ金払えこの野郎ォォォッ!!!」」」
外から皆さんの合唱が聞こえてくるが、俺は部屋の扉に鍵をかける。そして、その場で頭を抱えてうずくまった……。
…………うん! やっちゃったZEッ!
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:葉っぱ隊
職業:ロリコン
取得スキル:ステータスちゃん、ブートキャンプは楽しいゾ!
持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)
備考:今月の給料、なし 食い逃げによる前科一犯(予約済み)(New!!!)』
※ちなみに現実世界ですと、小切手の有効期限が過ぎても銀行が何とかしてくれることもあります。諦めないでください。でもハヤトの居る世界は異世界なので、紙切れになります。諦めてください。
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