第17話 暴食さんと小切手と預かり娘
「こんにちは」
「あん? 誰だよ」
あれから少し経った頃。丁度昼飯にしようとちゃぶ台にドラゴン肉のステーキを置いた時に、俺の部屋の扉を叩く音がした。
あの後。無事クエストをクリアした俺達は報酬をせしめて久しぶりの飯にありつき、そのままステータスちゃんは金を握りしめてパチンコ屋に走っていった。相変わらずだよあのアマ。
ショータロー君はと言うと、なんと俺達のボロアパートの隣の部屋に引っ越してきて、
「冒険者レベル1であの難関クエストをクリアできる君とステータスちゃんは危険だから、安全が確認できるまでのしばらくの間、近くに住んで観察させてもらうよ。まあ、流石に私生活までは口出ししないけどさ」
と言って、隣の部屋に荷物を運んでいた。こんなボロアパートにショタが一人で住んでて危なくないのかと思ったら、部屋を自費で丸々リフォームして、トイレ風呂オートロック完備のめちゃくちゃ綺麗な部屋になっていた。
一回見せてもらったが、とても同じアパートの部屋とは思えない有様だった。つーかカールのおっさん、よく許したなこんなん。
それはそれとして、だ。
扉を開けてみると、そこには真っ白なゴスロリ調のフリフリドレス服に身を包み、茶髪で生え際が後退しているハゲの中年のおっさん……視覚的にキツイ生き物が立っていた畜生またハゲかよ。
「えーっと、あんたは一体……ん? 後ろにいるのは……」
「久しぶりね。確か、ハヤト……そう、変態よ変態」
そしてその後ろにいたのは、俺よりも少し小さいくらいの身長で黒いゴスロリ調のフリフリドレスを着ている女の子だった。
茶髪でツインテール、緑色のツリ目をした貧乳でスレンダーな彼女だが、誰が変態だ失礼なっつーか俺の名前出てたよね、わざわざ言い直すな。
「……誰?」
「あたしよあたし! ドンショクちゃんよッ!」
ウッソだー。俺の記憶の中のドンショクちゃんと全然噛み合わないんだけど。
「アンタがあの後放置して帰った所為で、あたしは何日もぶっ通しで踊らされる続けることになったのよッ!?
……まあ、お陰で、ガッツリ痩せたんだけど……」
そう言えば、あのスキル発動させっぱなしだったのに気づいたの最近だったな。
もしかして、俺が解除するまでボブと踊り続けてたんだろうか。
「久しぶりに娘に会いに来たら、考えられないくらい痩せて綺麗になってたからびっくりしてね。協力してくれた君に是非お礼を言いたくて、足を運んだって訳だ」
おっさんがそう続ける。娘っつってたってことは、このおっさん……。
「えーっと、じゃあ、あんたは……」
「私は魔王軍七大幹部が一人、暴食だよ。よろしくね、相山ハヤト君」
……は? 魔王軍七大幹部の一人? 嘘やん。気がついたら視覚的にも立場的にもヤベー奴に名前と住所知られてんだけど。
俺の背中に冷や汗が流れている。ステータスちゃんがパチンコに行ってていない今。何かされても俺が彼に対抗できる術はない。
「……って言うか君、ホントに葉っぱ一枚なんだね。この目で見るまで信じられなかったけど……」
俺も魔王軍の七大幹部さんが真っ白なゴスロリ衣装に身を包んだ中年のハゲたおっさんだったとは、にわかに信じられないよ。
「……んで。わざわざその幹部さんが、お礼を言う為に来てくれたと」
「まあ、それもあるんだけどね……実は折り入って、お願いがあって来たんだ」
精一杯の虚勢を張って喋ってみたら、何やらお願いごとがあるらしい。なんでせうか。
「ドンショクちゃんを預かって欲しいんだ」
「ホワイ、何故?」
俺の混乱が止まらない。つーかドンショクちゃんはドンショクちゃんで、えー、って顔してんじゃん。
「いやね。この子、放っておくとすぐあれくらい太っちゃうんだ。太り過ぎは身体に良くないし、食べるなら節度を持って食えっていつも言ってるんだけど、全然聞かなくて……血筋的に面倒と思ったら絶対にやらないから運動もしなくて、ほとほと困ってたんだよ……そんな時に君が現れた」
この葉っぱ一枚の紳士か。
「君、何か彼女に運動させるようなスキルを持ってるんだろう? それで持って彼女に、運動が楽しいものだって覚えさせて欲しいんだ」
「娘の教育くらい自分でやれや」
内心ビビってたけど、話が素っ頓狂過ぎていつものテンションに戻ってきた。なんで俺がそんなことやらなきゃならねーんだよ。
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、こっちにも色々と都合があってね……それに君、借金してるんだって?」
う……ッ! な、何故それを……ッ!?
「娘を預かってくれるなら、それ相応に養育費を用意させてもらおうと思ってるんだけどなぁ。彼女の食費もかさむから、それなりの金額……とりあえず急だったし、期限がギリギリのしかなかったんだけど、前金はこれで……」
そう言って彼が見せてきたのは小切手だった。そこにはイチの隣にゼロがいくつも並んでいて、一、十、百、千、万、十万、百ま……。
「どうか俺にやらせてくださいッ!」
「君ならそう言ってくれると思ったよ」
綺麗な土下座をキメた俺に、笑顔で小切手を渡してくれる暴食さん。やったぜ。
事情はよく解らんが、困っている人を助けるのは正しい事だ。見たことないけど、多分古事記にもそう書いてある。
そして幼女は素晴らしい。枕草子にも書いてある。
「という訳でドンショクちゃん。しばらくはここでお世話になってね……」
「もぐもぐもぐもぐ……ん。解った」
「何勝手に食ってんだテメーコラァァァッ!!!」
暴食さんと話している間に何処行ったのかと思ったら、勝手に部屋に上がりこんで俺の昼飯のステーキを食ってやがったやっと買えたステーキ肉がァァァッ!!!
「……ごめんねドンショクちゃん。いつかちゃんと生きられるようにするから」
「……勝手にすれば?」
暴食さんの言葉に、ドンショクちゃんはプイっと顔を背けてしまった。なんだなんだ。
とりあえず食う手と口を止めろ。それ俺の。
「……じゃあ、よろしくね。荷物はまた届けさせるからさ。あっ、あと小切手の有効期限が今日までだから、早めに現金に換えておいてね」
「お、おう……」
そう言って、暴食さんは帰ってしまった。部屋には俺とドンショクちゃんだけが残される。とりあえず扉を閉めた俺。
「……つーか、よく知りもしない男の部屋によく娘を預ける気になったな、あのおっさん」
「大丈夫よ。いつもの事だし、あたしにえっちぃ事しようとした男は"悪食(イートワールド)"でみーんな食べちゃったし。自衛くらいはできるわ。何人か居なくなったところで、パパがどうにかしてくれるし……」
既に犠牲者は出てんのか。そしてもみ消しの態勢も万全と……あれ? 俺、下手なことしたら消されるのでは?
「ま。あたしに変なことしないなら、大人しくしててあげるわよ。って言うかアンタ、ロリコンでしょ? しかも十三歳以下にしか興味がない」
まあ、そうだけど。だが仮にドンショクちゃんがこの見た目で、あと五、六年早く出会っていたら、理性をかなぐり捨てて襲いかかっていた自信がある。
写真は見た事ないが、絶対に素敵な幼女だった筈だ。俺の童貞を捧げるにふさわしかった。
「相変わらず思考回路が気持ち悪いね」
と思ったら、クソガキことショータロー君が顔を出した。
「なんだよ少年。聞いてたのか?」
「そりゃ部屋の前であんだけ喋ってたら、嫌でも聞こえてくるさ」
それもそうか。
「……って言うか、魔王軍七大幹部の子が、役所の人間が住んでるアパートに居るとか大丈夫なのかよ?」
「別に良いよ。何にもしてないなら」
ホントにこの世界の魔王軍と人間の対立構造どうなってんの? 反目し合ってんじゃないの?
「あら、あの時いた可愛い男の子じゃない。良かった、葉っぱ一枚の変態以外にもまともそうなのが居て」
「んだとコラ。誰が変態だ失礼な。こちとら紳士だぞ紳士?」
「君の辞書ってもしかして変態って言葉が抜け落ちてたりする?」
我が辞書に変態の文字はない。紳士という文字なら至る所にあるが。
「クソァッ! なんであそこで確変が終わるんですかッ!!!」
するとステータスちゃんがぷりぷり怒りながら帰ってきた。
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