第19話 ドンショクちゃんとモン●ンと親父ギャグ
「……と言う訳で、俺に手っ取り早くお金を作る方法を教えてください」
「何であたしに土下座してんのよ変態」
俺は座っているドンショクちゃんに土下座をしていた。
小切手が紙切れになったと解ったあの後。外にいた店員達に速攻で通報され、サイレンの音が鳴り響いた。
やってきた警察官のお兄さん達に事情を説明し、俺はその流れでカールのおっさんを召喚。借金に上乗せする形で立て替えてもらうことにした。
しかしその格好もあるし一応話を聞かせてくれと言われ、俺はそのまま取り調べを受けた。
そして俺の誠心誠意を込めたおニューの土下座と、初犯という事もあり、何とかお叱りだけで済むことになった。
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:葉っぱ隊
職業:ロリコン
取得スキル:ステータスちゃん、ブートキャンプは楽しいゾ!
持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)
備考:今月の給料、なし 食い逃げによる前科一犯(確定せず、チッ……)(New!!!)』
良かった、前回ステータスの備考欄に明記された前科一犯の予約だけは確定せずに済んだ。
ただ、ステータスちゃんが露骨に残念がっており、画面上ですら舌打ちしてやがるんだけど、このアマを、どうしてくれよう、ホトトギス。
あと、ショータロー君からこんな話もあった。
「役所の方からも通達があると思うけど、今回の件でハヤトさん、一時的に冒険者ライセンスの凍結だからね。こっちとしても、何か処分をしないと示しがつかないからさ」
後日、本当にライセンス凍結のお知らせが届いてしまい、俺は少しの間クエストの受注ができなくなってしまった。
オメーも散々食い散らかしてただろーがと言いたかったが、でも金は自分で出すって言っちゃってたから強く出られない、畜生、俺のお馬鹿さん。
「頼む。クエストも受けられなくて金を得る手段が解らんのだ、何か知恵プリーズ」
「……まあ、確かに……もやしも切れそうだし……」
そう言う訳で、何とかして金を得る方法を捻りださなきゃならんのだ。
ちなみにウチの家計の全てことガマちゃんは、ステータスちゃんが持っていった。
曰く「相山なんかに管理させられません!」との事だった。うん、やらかしを含めるとぐうの音も出ない。
でもアイツ、ガマちゃん持って行き先も告げずに何処出かけたんだ? 万が一、パチンコだったら殺す。滅殺じゃ滅殺。
現在はもやしの醤油かけ生活五日目なのだが、そろそろ食費ももやしのストックも限界が来そうでやばい。
「と言っても。そんなすぐには思いつかないわよ。あたしだってそんな簡単にお金が手に入る方法があるなら、とっくに……」
と途中まで喋った時に、ドンショクちゃんが不意に言葉を切った。
「……そうよ。あれがあるじゃない」
「あれ?」
一人で納得しているが、こっちとしては何か言ってくれないと何も解らん。
「魔物狩りよ魔物狩り! つまり、モンスターハン……」
「言わせねーよッ!?!?」
やらせはせんぞ。こんな底辺小説でヘリが落ちることで有名な天下のカ●コン様に喧嘩を売る気はサラサラない。
決して最新作を買うと絶対ハマって執筆しなくなるから断腸の思いで買ってなくて、仕方なく小説上で擬似体験してウサを晴らそうとか、そんな思惑は一切ない。
「お願いだからそういうウサ晴らしは他所でやってくれない?」
隣の部屋からクソガキの声がした気がするが無視だ無視。
「……んで、具体的にどーすんだよ?」
「簡単よ。街から出て山とか海に言って、適当な魔物を狩る。その部位を持ち帰ってきて、換金所で換金すんのよ」
なるほど、わかりやすい。そーいやこの街に初めて来た時に、ステータスちゃんが俺が倒したイグアナサメの素材売って金作ってたな。何だよ、結構拾えるじゃん、伏線。
「……つーか魔物ってお前ら魔族の仲間じゃねーの? いいのかよ、狩っちまって?」
「別に。あれってあたし達の仲間なんかじゃないし、何ならアイツら、油断するとあたし達すら襲ってくるし……」
とりあえず魔物というカテゴリーが魔族の味方でも人間の味方でもない第三勢力であることは解った。
「なるへそ。んじゃ、さっさと行くか」
「ん。行ってらっしゃい」
立ち上がった俺に対して、畳の上にゴロンと寝転がるドンショクちゃん。
待てや。
「何サボろうとしてんだよ? お前も行くぞ」
「やだ、めんどい」
「ステータスちゃんもいない俺一人で魔物なんか狩れる訳ないだろ? ウダウダ言ってんじゃねーよ」
「えー。元はと言えばアンタが小切手換えて来なかったのが悪いんじゃない。なんであたしまで行かなきゃいけない訳?」
グッ……そう言われるとこちらとしては強く出られんが、ステータスちゃんなしの俺ソロとか論外だ。
彼女の言うことも間違ってはないが……そうはさせないぞ、ドンショクちゃん。
「スキル発動。[ブートキャンプは……」
「わかったッ! 行く、行くからァッ!!!」
俺が手を向けると、ドンショクちゃんは慌てた様子で立ち上がった。よし、効果は抜群だ。
こんな事もあろうかと、事前にステータスちゃんに土下座してスキルを残してもらってて良かった。
あとは、警察に誠意を伝える為に体得したジャンピング土下座も一役を買っただろう。空中で土下座の態勢を作り、そのまま地面に叩きつけるこの絶技。
警察の皆さんはドン引きしてたし、ステータスちゃんも腹抱えて笑って……。
「……何一人でさめざめと泣いてんのよ……?」
「気に、しないでくれ……」
‥…あれ、俺の人間としての尊厳はどこ? ここ? 涙がとめどなく溢れてきたが……なんか、もう、良いや。
気を取り直して外に出た俺達は、せっかく魔物を狩りに行くんだから、いっちょ気合いでも入れるか、と言う話になった。
頷きあった俺達は、二人して声を上げる。
「「よっしゃ! 一狩り行こケツがァァァッ!?!?」」
「喧嘩売る気はないっつってただろ、せめて舌の根が乾くまでは粘れよ」
いつの間にか子どもながらにスーツに身を包んでいる、クソガキことショータロー君がいた。
一瞬でスパーンスパーンっと良い音を立て、二人のケツにハリセンを叩き込んだ彼のワザマエには、最早感服しかない。
「余所様に迷惑かけそうな話が聞こえてきたから、ぼくもついていくよ」
「マジかよ。私生活には口出ししないんじゃなかったのか?」
「この前の事がなかったら、ぼくも別に放っておいたんだけどさ」
「ホントすんませんでした」
どうやら俺のやらかしで失った信用は、結構大きいらしい。
「信用を失ってどうしんよう……なーんつってしゃばだばァッ!?!?」
「反省してんの?」
してますしてます山よりも深く海よりも高く、この土下座を見てくださいショータロー様、なのでこれ以上のハリセンは勘弁してください、既にケツがお猿さんみたいに赤くなってっから。
「……ブッフォァッ!」
すると、俺の土下座の隣で、ドンショクちゃんが横で吹き出していた。
「信用を失ってどうしんよう……プッ、ププププププ……」
「……なあ少年。俺は今、もの凄くくだらない笑いのツボを発掘してしまった気がするんだが?」
口元を抑えてプルプルと震えているドンショクちゃんを見て、また俺何かやっちゃいましたか、と言いたい。
「知らないよそんな事。でも責任は取ってね」
ヤベェ、未だ嘗てここまでどう責任を取ったら良いのか解らない事態に出くわした事無いんだけど。
「つべこべ言わずにさっさと行くよ。ギャグモノはテンポが命なんだから、いつまでもグダグダしてないの」
「少年。そういうセンシティブな配慮は大人に任せなさい」
ショータロー君が心強過ぎて安心感が半端ないけど、十歳の少年が一番人間が出来てるってどういうことなの?
「ププププププ…………ハッ!? さ、さっさと行くわよッ!」
やがて何かに気づいたドンショクちゃんが、ズンズンと一人で歩き始めた。
寒い親父ギャグが自分のツボで恥ずかしいのだろうか、少し顔も赤い気がする。
もう笑ってやらないんだからね、的な勢いが見えるが……ほほう? ならば試してやろうではないか。
「……アルミ缶の上にあるミカン」
「ブホォッ!?」
「おならに別れを、さよおなら」
「ブハァッ!?!?」
「チョコレート食べる? うん、チョコっとなら……」
「あーっはっはっはっはッ! ひゃーっはっはっはっはっはッ!!!」
一人で大笑いしているドンショクちゃんだが、どうしよう、ここまで笑ってくれるとギャグの言い甲斐が凄い。
「よぉーし、次はあふひばァッ!?!?」
「テンポ、大事、話、進める。ギャグ、寒い、我、君、殺」
テンションの上がってきた俺のケツに容赦なくハリセンを見舞ってくる、絶対零度の目をしたショータロー君。
片言っぽく言ってるけど内容が後半に向かうにつれてクソ物騒になってて殺意が凄いマジごめんなさい。
そんなこんなで、大笑いして盛り上がっているドンショクちゃんと、冷めた顔で徹底的に盛り下がっているショータロー君と共に、俺は街を出ていった。
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