第29話 気になる彼女と戻ってきた奴らと今の願い
「……葉っぱのとこ以外、綺麗に焼けたなぁ……」
「わ、わたしのお肌が真っ赤っかに……ヒィ、痛いッ!?」
「しぃ、触手まで日焼けするなんて……」
クエストを終えた俺達は報酬をもらい、補修を終えたいつものボロアパートに戻ってこれた。
カールのおっさんには土下座連発でなんとか勘弁してもらったが、そろそろホントに頭が上がらない気がしている。
ちなみに壁の修理費は俺の借金に上乗せである。今回の報酬でいくらかは補えたが、そびえ立つ借金はまだまだ減っている気配がない。ホントいつ返せるの……?
そして海でのクエストで三人揃って綺麗に日焼けしてしまい、畳の上でぐてーっとしていた。なお肌が焼けていて熱を持っているのに、この部屋にはエアコンすらない。
窓を全開にして何とか耐えている現在である。しかし暑い……溶けそう……。
「……そー言えば。結局アンタってなんなのよ、おばさん?」
「何ですか小娘。藪からスティックに」
不意に、ドンショクちゃんが声をかけた。ステータスちゃんがなんだなんだと頭を上げて返事をしている。
「言いたくないんなら別にいいんだけどさ……アンタ、人間でも魔族でもないんじゃないの?」
「人間でも、魔族でもない?」
「当たり前じゃないのよ変態。誰かの頭の中に宿ったり、実体化したりを自由にできるなんて、人間じゃまず不可能。魔族だって、それこそ魔王様だって、そんなことできないわよ? あまつさえ、変態のステータスを自由自在に操れるなんて……聞いたこともないわ」
ドンショクちゃんの言葉に、俺は納得した。
言われてみればそうである。勢いに流されるままにここまで来てしまって深く考えてもなかったが、ステータスちゃんについて、俺は何も知らない。
ドSでショタコンでパチンカスであるという、割とどうでも良い情報は山程揃っているというのに、肝心の彼女自身については、何一つ知らないでいるのだ。
「……………………」
それに対して、ステータスちゃんは何も言ってこない。沈んでいるのか、迷っているのか。その時の彼女は、少し目を伏せるような表情をしていた。
「……わたしは、相山のステータスちゃんです」
やがてゆっくりと、彼女が口を開く。
「……それ以上でも、それ以下でもありませんよ」
「……あっそ」
ステータスちゃんの返事を聞いたドンショクちゃんが、素っ気なく返事をした。
「……それならそれで良いけど……もやし、自分の分ばっか多く取らないでよね」
「……わたしの方が大きいんですから、仕方ないじゃないですか。それこそ、この胸とかッ!」
「ハァァァッ!? アンタまた喧嘩売ってきたわね、その喧嘩買ったァァァッ!!!」
いつものように、ステータスちゃんとドンショクちゃんのキャットファイトが始まる。互いにキーキー言いながら取っ組み合いをしているが、その様子は何処か、いつもとは違う感じもした。
(……そういや、気になる事なんざいっぱいあったな……)
それを見ながら、俺は物思いに耽る。色々と無視してやってきたが、ふと立ち止まってみれば、解らない事はいくらでもあったな。
(……たくさん来た転生者……本気でやり合ってるのかも解らない、魔族と人間の対立……ドンショクちゃんの事情……そして、ステータスちゃんの正体)
ちょっと思い返すだけでも、こんなに出てきた。あれ、俺の周囲、解んないことだらけじゃね?
一人、能天気に生きている俺であるが、その周りはそうでもないのだろうか。
(……一体、何がどうなってるんだ……?)
「「「ここかぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!?」」」
そんな空気をぶち壊すが如く、俺達の部屋の扉が乱暴に開かれた。ギョッとした俺達が視線を向けると、そこには真っ赤に充血させた目をしたシャララ、ゼンザブロウ、ウサタロウの三名、シャーデンフロイデがいる。
「よくもやってくれたわねアンタ達ッ! おかげでアタシ達の目がドライアイだけじゃ済まない結果になりそうだったのよッ!?」
「おれの君……酷いじゃあないか……この目の痛みは君の菊で補ってもらおうか……」
「お姉さんのおっぱいを吸い付くさんとワリに合わないんじゃウッサァッ!!!」
生きてたのかコイツら。スキル解除したの割りと遅かったんだけど、一体どうやって帰ってきたんだろうか。どうやら純度の高い変態は、生命力も高いらしい。
「アタシとベタベタネットリするのよかわい子ちゃんッ!!!」
「挿れさせろよおれの君ッ!!!」
「お姉さんちゅーちゅーさせろでウッサァッ!!!」
「「「やなこったぁぁぁッ!!!」」」
襲いかかってくる三名を必死にやり過ごそうとする俺達。待って危ない俺の菊が狙われてる、分厚い肉棒で……。
「うるさいっつってんだろうがァッ!!!」
「「「「「「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」」」」」」
やがて隣の部屋からやってきたショータロー君のハリセンによって、俺達全員は叩きのめされた。
このショタしゅごいのぉ。複数人相手でもほぼ同時にケツにハリセン叩き込めるとか、何処で習ったのその技術?
「ぼくのハリセン術は通信教育の賜物さ」
この世界の通信教育って、すげー。十歳のショタでも、ここまでの腕を発揮できるようになるんかい。
「……ハァ、全く。こんなアホばっかりだったら良かったのになぁ……」
ショータロー君がため息をついている。しかしこの子についても、解らんことばっかだな。
何故こんな歳で働いているのか。たまには帰っているみたいだが、どうして親元を離れて一人暮らしをしているのか。
彼についても、ハリセンで冷めたツッコミを入れてくるスイカに命をかけた公務員のショタ、という事しか解っていない。
(……まあ、俺自身も別に自分の事話してる訳じゃねーしな……)
気になる事は気になるが、かと言って俺自身も、元の世界での生活を事細かに彼らに喋ったかと言われれば、別にそうでもない。
大した過去がある訳じゃないが、それでも話したくない事はあるもんだ。
「……深く突っ込まないまま、今が楽しくてもいーじゃねーかよ……」
「? 相山、何か言いましたか?」
「いんや、なんも」
思わず口に出してしまった俺。ステータスちゃんが首を傾げているが、何でもない、と俺は返事した。
とりあえず。勝手に部屋に入ってきたシャーデンフロイデ達を追っ払おう。ガチホモとガチレズとおっぱいウサギがいる部屋なんざ、精神衛生的に良くない。
ショータロー君にハリセンでしばかれて、バタンキューしている彼らを外に運び出しながら、俺は笑っていた。
まあ、当分は、このままって事で。気兼ねなくいれるコイツらと一緒に、ワイワイしながら借金返済させてくれよ。少しくらい、いいだろ?
しかし。状況は待ってはくれなかった。俺がその事を知る事になったのは、本当にちょっと後の事である。
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