第4話 パチンコと紳士服と黒服のお兄さん


 街に着いた瞬間に、ステータスちゃんは用事があると言って実体化して少し離れたが、程なくして戻ってきた。何だったんだ? まあ良いか。


 そうして二人してスキルを頼りにやってきたのが、


「あれか」


「……なんですか、あの建物は?」


「何ってパチンコ屋だろ?」


 海沿いにある小さな街の繁華街にあったやかましい音を店外まで鳴り響かせているパチンコ屋……。


「……つーかチックショォォォッ!!!」


 俺は我慢の限界だった。


「何だよソファーとかケトルとか緑茶とかパチンコとかァァァッ! 異世界なんだろここォッ!? もっとこう異世界感出せやァッ! この街も思いっきり日本の地方都市感溢れてるしよォッ!!!」


 周囲の町並みも思いっきり見慣れたもので、お店の看板とか人々の服装とかが思いっきり現代社会過ぎてもう涙が出てくる。


 なんで異世界にマク●ナルドとかスター●ックスがあるの? こんなとこまで出店してんじゃねーよ。


 辛うじて髪の色や顔立ち、そして名前なんかが日本人と少し違うくらいで後はほとんど一緒でなんなのこの世界? 最初に襲われたイグアナサメが一番異世界っぽかったとかある?


 ってか魔王が来てるんじゃないの? 街の人たち普通に生活してんだけど危機感足りてなくない?


「心中お察ししますブッハッァッ!」


「吹き出してんじゃねーぞゴルァッ!」


 俺の嘆く姿を見てお腹を抱えて笑っているステータスちゃんに殺意を抱きつつ、二人でパチンコ店の中へと入った。


 中では現代社会と全く同じ光景があった。うるさい音にジャラジャラ鳴るパチンコ玉の音。箱を持って景品交換所に向かう人や、必死になってパチンコ台を睨みつけている人がそこかしこにいる。


「……これ、やってみても良いでしょうか?」


 すると、ステータスちゃんがそんなことを言い出した。


「なんだお前。この世界の住人なのにパチンコ知らないのか?」


「はい……ちょっと、面白そうですね」


「……つーか金あんの?」


 素朴な疑問だった。いきなりやってきた俺はこの世界の通貨なんか持ってないし、何なら衣服すら持っていない。


 まあ、葉っぱ一枚あれば良いっつーか今さらだがよく入店できたもんだ。


「ありますよ。貴方が倒したイグアナサメの素材をさっき換金所でお金にしてきましたから」


 さっき用事があるとか言ってたのはこの事だったんかい。ちなみにこの世界の通貨は「円」というらしいそーかよお前はそういうことする奴なんだなもうどうにでもなーれっ!


 そんな俺を放って一人で適当な台に座り、ぎこちない様子でお金を入れてレバーを回し始めるステータスちゃんっておいこら。


「当初の目的忘れてんじゃねーぞ」


「覚えてますよ! これが終わったら……」


 ホントかよ?


 そう言ってしばらく回していたが、一向に当たる気配はない。当然だ。そんな簡単に当たって堪るか。


「あ、あれ? なくなっちゃいましたよッ!? も、もう一回……」


 懲りずに追加でお金を投入するステータスちゃん。


 いやもう諦めろよと思っていたら突然、彼女が凝視していた目の前の画面に七が三つ揃い、パチンコ台から快活の良い音が聞こえてきた。


 それと同時に、機械から一気にパチンコ玉が溢れてくる。


「お、おおおおッ!? 相山、箱ッ! 箱持ってきてください箱ッ!」


「お、おう……」


 とりあえず店員さんに聞いて空き箱を持ってくると、彼女が興奮した様子でそれにパチンコ玉を詰めていく。


「凄い……何ですかこれ……ッ? さっきまでの不安から一気に解放されて、まるで空を飛んでいるようなこの開放感……頭が、頭がカーッって熱くなってきます……ッ!」


「……おーい?」


「何ですかッ!? 今良いとこなんですッ!!!」


 駄目だコイツ。最早目の前のパチンコ台にしか興味が向いていない。


 もうコイツ放っておいて、さっさと一人でカイル君のご両親を探そう。


 つーかカイル君のお父さんとお母さん、黒服の人に連れていかれたんじゃないの? 彼女みたく自発的にここに通ってるだけとかだったらぶん殴るよ? グーで。


 フラフラと店内を散策していたら、突如として奥の部屋の扉が開き、金髪の女性が現れた。


「た、助け……ッ!」


 しかしその声が出る前に、後から出てきた黒服の男達に羽交い締めにされ、そのまま部屋へと戻っていく。


 バタン、っと扉が閉められると、店内はまるで何事もなかったかのように元の雰囲気に戻っていった。


「今のって……黒服の男に……金髪の女性?」


 カイル君に似た金髪の女性。何かありそうだと俺の勘が告げている。


「……スキル発動、[例え便所の中に居ても息の根を止めてやる]」


 物騒な名前の探知スキルを発動させてみると、この部屋の向こうから反応がある。やっぱりここにいるのか。


 俺がその扉を開けようとしたその時、ガシッとその手を男性店員に掴まれた。


「すみませんお客様。こちらは従業員専用の部屋ですので……」


「あ、ああ、はい……すみません……」


「……あとその格好は、どういうおつもりで?」


 ヤベェ遂に俺のクラシカル紳士スタイルにケチがつけられた。


「…………紳士服、です」


「葉っぱは服ではありません」


 至極ごもっともで。


「……一度こちらへ来ていただけませんか?」


「……はい」


 にこやかな店員の後ろに黒服のガタイの良いお兄さんが二人追加されて、俺は渋々従業員室へと連れて行かれた。


 そこで良い歳して恥ずかしくないのかと年下っぽい店員しこたま怒られた後に、次その格好で来たら出禁にすると言い渡されてパチンコ屋を追い出されたクソがこのクラシカル紳士スタイルの何が悪いってんだ……ッ!?


「相山ッ! 見てくださいこれッ!」


 少しするとステータスちゃんが興奮した様子で出てきた。その手には少量だが札束が握られていてウッソだろお前どんだけ勝ったんだよ。


「あの後玉が止まらなくて店内も大盛りあがりでした! ジャラジャラ鳴るパチンコ玉の音が耳から離れません! まさかこれだけの大金をあんな短時間で……」


 頬を蒸気させ早口で大勝ちしたことを喋ってくる駄目ステータスちゃんに、俺は冷水の如き言葉をかけてやる。


「……カイルきゅん」


「…………ハッ!?」


 その瞬間、彼女はびっくりした様子で口に手を当て、慌てた様子で勝ったお金をしまいこむと、「こほん」と咳をする。


「……目立たないようにわたしが店内に溶け込んでいる間、ちゃんと情報収集はできましたか、相山?」


 そしてこの言い草である。如何にも自分も頑張ってましたよアピールをしてくるが、一人でレバーを回してパチンコ玉をジャラジャラさせていたコイツの姿は忘れていない。


「……ああ。スキルで確認したが、奥の部屋に反応があった」


「重畳。よくやりましたね相山、褒めてあげましょうゲファッ!?」


 自分はサボってパチンコしてた癖に上から目線のコイツを殴った俺を誰が咎められようか。今日も俺のグーパンが火を吹くぜ。


「もう一回行くぞ……と言いたいが、俺のこの紳士スタイルじゃ入店禁止らしくてな。服買うぞ」


「どうしてですかッ!? これはわたしがまたパチンコするための軍資金で……」


「元々俺が倒したサメの素材チョッパって作った金だろーが。せめてサメの素材分は寄越せ」


 ぶーぶー言うステータスちゃんから金をぶん取ると、俺は近くの店でしゃーなしに服を買ってきた。


 上下紺色のジャージ、靴下、そしてスニーカーを履いた俺はもういいや異世界っぽさは諦めますクソがよこれいつもの休日の格好じゃねーか。


 もちろんパンツは履いていない。何故なら俺には葉っぱがあるからだ。葉っぱ一枚あれば良い。


 そうして久しぶりの衣服に身を包んだ俺は、「また打つのですね!」とテンションの上がっているステータスちゃんと共に、改めて先ほどのパチンコ屋に向かった。

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