第5話 台パンとカールおじさんと土下座コール


「出ねーぞ何だこの台裏でお店が操作してんのかァッ!?」


「お客様ァ! 台パンはおやめくださいィッ!!!」


 一直線に先ほどの席についたステータスちゃんは、言葉を荒げ、怒りの表情でパチンコ台を叩いている。


 良い子のみんなは台パン、駄目、絶対。マナーを守って楽しくパチンコしようね。お兄さんとの約束だ。


 と言うか良い子はそもそもしちゃ駄目だぞ。パチンコは分別のある大人になってからだ。


 目立たないように店内に溶け込んでいたとか抜かしてやがったアイツは、今や店員総出で取り押さえられているという情けない姿を晒しているバカジャネーノ?


「相山ッ! どこ行ったんですか相山ッ!? このわからずや達を早く退かしなさい……ッ!」


 相山って誰ですか知りませんねこちら通りすがりのモッピロ星人だッピー、と華麗に彼女の前をスルーした俺は、先ほどの扉へと向かった。


 幸いステータスちゃんがあーだこーだやっているお陰か、誰にも咎められることなく扉を開けることに成功し、中へと侵入することができる。


「……階段?」


 中に入ってみると、その部屋には周囲に備品と思われる物が収納されている棚の他に、下へと続く階段があった。


 誰が居るか解らないので、俺は音を立てないように静かに下へと降りていくなんか服ってウザいな脱ぐか。


 途中で買ったジャージと靴下、スニーカーを脱ぎ捨てて葉っぱ一枚のクラシカル紳士スタイルに戻ると、素晴らしい解放感と共に落ち着きを取り戻し、笑顔になった俺は更に下っていく。


 下った先にはまた扉があった。扉をそーっと開けて中を見てみたら、そこには、


「海パン一丁、ビフォーアフターッ!」


「ってそれブリーフやーん!」


 お立ち台の上で寒い漫才をやらされている、カイル君のご両親と思われる欧米系の顔をした金髪の中年の男女二名と、数人の黒服の男たち。そして、


「ぎゃーっはっはっはっはっはっ!!!」


 それを見て大笑いしている一人のおじさんがいた。そのおじさんは頭頂部がハゲているカッパ頭に、口の周りを一周している泥棒髭。


 全身金ピカのスーツに金ピカの革靴。首には金のネックレスをして指には大きな宝石のついた指輪をいくつもしているうわぁこんな想像上の成金みたいな格好した人初めて見た……。


 暗闇で手元が見えない貧乏人の目の前で札束燃やして、どうだ、明るくなっただろう? とかやってそう。


 あとおっさん、その顔何? なんでそんな顔しかめてんの? 顔面におはぎでも叩きつけられたの?


 様々な感想を胸に、俺はバレないようにコソコソ物陰に隠れながら、彼らの様子を伺う。


「やっぱりお前らのギャグは良いなッ! さっきの『直角! 気持ち左に』とか最高だったぞッ!」


 あと笑いのツボの在り処がよく解んない。面白いか、それ? ついでにそのギャグ、字面から全く想像できないからすげー気になる。後でやってもらいたい。


「……も、もう勘弁してください……ッ! 子どもが、家で子どもが待っているんです……ッ!」


「何を今更ぁ! 子ども放ってパチンコにのめり込んだ挙げ句、借金して俺様の下で働くことになった癖に!」


 あっ、やっぱカイル君の両親駄目人間だったんだな殴ろうグーでっつーかそんな親からあんな良い子が生まれるとかどうなってんの遺伝子仕事しろ。


「あの子がお腹を空かせてる筈なんです! 家に帰してください!」


「心配すんなお母さんよぉ。ちゃーんと腹を空かせないように、お前らの給料の一部から野菜買って、家の近くに置いてやってるんだから」


 出会った時にカイル君が野菜持ってたのはそういう訳だったのか。


「それに危害を加えそうな危ない輩がいたらシメるように周囲に黒服も待機させてるし、万が一強盗でも入ろうもんならウチの組員でボコボコにするように命令してるからなァ!」


 あれ? 聞いてる限り、このおっさん良い奴では? ちゃんと子どもの面倒どころか、周辺警備まで完璧なんだけど。


「……ま。謎の全裸の男と桃色髪の美人を家に招いてたってさっき連絡を受けたんだが……心配すんな。組の奴らに素性調査させてるから、一日もあれば奴らの個人情報も丸裸にしてやるからよぉ」


 俺らの情報も既に調べ始めてるっぽいが一つ訂正したい事がある。


 葉っぱ一枚があるじゃないか。俺は全裸じゃない。全く失礼な。


「……で、そこに隠れてるお兄さんは、一体誰よ?」


「な……ッ!」


 おじさんのその言葉を皮切りに、黒服の男達が一斉に動き出し、物陰に隠れていた俺を拘束した。


「い、いつから……?」


「そりゃ部屋に入った時からよ。お兄さん、警備魔法にモロ引っかかってたよ?」


 クソがァ! 魔法とかこんな時ばっかり異世界面しやがってよォッ!!!


「あ。ちなみに俺様はカール。カール=スナックだ。よろしくねお兄さん」


 このおっさんカールって言うのか見た目と合わせてなんかデジャヴ感がダブルパンチしてくるゥッ!


 なお現実のカールおじさんとは何の関係もございません、断じて。


「……で、何しに来たの? 同業者って訳でもなさそうだし」


「お、俺は別に、その……」


「モゴモゴして弱っちいねぇ。ってかお兄さん、さっき報告にあったカイル君の家に上がった全裸男じゃん……」


「全裸じゃない! 俺にはカイル君からもらった一枚の葉っぱがある訂正しろッ!!!」


「何でそこだけそんなに強いの?」


 葉っぱ一枚ある限り、俺は何者にも屈しない!


「……カイル君のご両親を返してもらいに来たんだよ。いい加減彼らを解放しろッ!」


「ふーん」


 覚悟を決めた俺の英雄的一喝を、カールのおっさんはあっさりと流す。


「……返してもいいけど、多分カイル君の為にはならんよ? この両親、ロクにカイル君にご飯もあげないで、ウチのパチンコにのめり込んでたんだから。俺様がご飯持って行かなかったら、あの子多分餓死してたよ?」


 ウッソだろお前。俺がご両親の方を見ると、露骨に視線を反らされた。


 これじゃどっちが悪者だよ畜生ッ! もともとほとんど家にはいなかったっつってたけど、まさかのパチンカスだったんかい夫婦揃ってよォッ!!!


「んで、二人してパチンコに金をつぎ込んだ結果、とうとう借金で首が回らなくなったからウチで働いてもらうことになりましたー。しかしギャグセンスはあったから、今じゃ俺様専用のピエロでーす」


 ギャグセンスうんぬんは置いといて、どうしようこれ。


 駄目両親はこのままの方が、カイル君には良い気がしてきた。家に帰って束の間の再会を喜んだとしても、その後に待っているのはまた放置される日々だろう。


 えっ、マジでこれ、どうしたら良いんだよ? 勧善懲悪で悪者を俺が懲らしめて周囲から感謝される感じのスカッと爽快異世界冒険譚はどこ、ここ?


『相山ッ! よくもわたしをスルーしてくれましたねッ!』


 黒服に取り押さえられたまま頭を悩ませていたら、ステータスちゃんの声が頭に響いてきた。


 あっ、そうか。コイツ実体化を解けば俺のとこに戻ってくるのか。


『土下座しなさい土下座ッ! あの後店員らにしこたま怒られて、わたしが一体どれだけ惨めな思いをしたと……』


「いや待ってステータスちゃん。俺の話を聞いてくれ。実はカイル君のご両親がカクカクシカジカで……」


『ふむ……相山。口でカクカクシカジカと言われても何も解りませんよ? ちゃんと説明してください』


「そこは何とかしろよ話のテンポ崩れんだろーがッ!!!」


 結局ステータスちゃんに、スキル[カクカクシカジカ四角いムーチョ]を追加してもらい、状況説明をサッと終えた。


『なるほどなるほど……家に連れ帰っても良いのですが、それだけではカイルきゅんの為にはなりにくい……なら、わたしに一つ、良い案があります』


 やっと内容を理解してくれたステータスちゃんは、良い案があると言ってくれた。やったぜ、流石はステータスちゃん、頼りになるぅ。


『……その前に相山』


「なんだよ。さっさとその良い案ってのを教えて……」


『土下座しなさい』


 話の流れでスルーした筈の内容を、まだ根に持ってやがったぞコイツは。


『わたしを無視して行ったこと、土下座して謝りなさい。そうしたら良い案を授けてあげます』


「い、いや、俺なんかよりもカイル君の為にだな……」


『それはそれ、これはこれです』


 その前になんで俺がコイツに土下座しなきゃいけねーの? さっきのって百パーセントお前が悪いじゃん。俺関係なくね?


「はい! 土下座ッ! 土下座ッ! 皆さんもご一緒にッ!」


「「「土下座ッ! 土下座ッ! 土下座ッ! 土下座ッ!」」」


 やがて実体化したステータスちゃんが周囲を煽って、土下座コールをしてくるいやちょっと待てカールのおっさんや黒服は百歩譲って解るけどカイル君のご両親テメーらどの面下げてコールしてやがるぶん殴るぞ。


 最初こそ渋っていた俺だったが、結局は周りからの圧力に屈し、葉っぱ一枚のままで俺はきれいな土下座をかました。


「……無視してすみませんでしたステータス様。どうかこの哀れな俺に貴方様の妙案を授けてくださいませ」


「あーっはっはっはっはッ! これです、これッ! 無様に額を床にこすり付ける様が最高ですッ!」


 このアマ、いつか殺す。


 そうして気が済んだステータスちゃんによって俺にとあるスキルがつけられ、それでもって事態を解決することになった。

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