第2話 イセカイとロリコンと暇つぶし


「……で。ここは一体何処なんだよ?」


『この世界ですか? ここはイセカイと呼ばれる世界です』


 割れた海も盛り上がった俺の筋肉も元に戻った頃。とりあえず砂浜の上に座り、ステータスちゃんから話を聞くことにした。


 そうか、ここはイセカイという名の異世界なのか……深く考えたら負けな気がする。


『この世界は魔王と呼ばれる軍勢に襲われています。民衆は逃げ惑い、国は勇者を求めて冒険者ギルドと呼ばれる組織を立ち上げ、魔王を討伐できる人員を一般民衆にすら求めている世界です』


「……なら、俺がこの世界に呼ばれたのって……」


 そういう事情なら、俺に課せられた使命は一つだろう。いきなりエライ目に遭ったが、まあ開幕ホットスタートはお約束だ。


 どうせ魔王を倒す為に呼ばれたんだ、いや、そうに決まっている。俺は選ばれた勇者って奴だ。


 いいぜ、やってやろうじゃないか。何せ……元の世界で社畜やってるよりも断然楽しそうだしなッ!


『はい。貴方はわたしの暇つぶしの為に、この世界に来ました』


「待てや」


 俺の想定の斜め下の返答が返ってきて困惑不可避。


「は? えっ? 魔王は?」


『それは勇者の仕事です。貴方は勇者ではありません』


 衝撃的過ぎる事実に動揺が止まらない。


「じ、じゃあ、勇者じゃなかったら俺ってなんなの?」


『そんなもんステータスを見れば良いじゃないですか』


「お前が出してくれないと見るものも見れないんだけどッ!?」


 ハァ、と俺はステータスちゃんにため息をつかれ、渋々といった感じに見せてくれる。えっ、これ、俺が悪いの?


『氏名:相山ハヤト

 性別:男性

 年齢:二十八歳

 状態:フルチン

 職業:ロリコン (New!!!)

 取得スキル:ステータスちゃん』


「待てや」


 目の前に現れたステータス画面を見て、俺は再度声を上げちょっと待ってロリコンって何?


 何でバレて……ゲフンゲフン! 何でそんな称号が職業欄に書いてあるの? 「New!!!」じゃねーよ「New!!!」じゃッ!


「何で俺の職業がロリコンなんだよ! 職業って言葉を辞書で引いて来いやッ!」


『職業。日常的に従事する業務や労働など、技能、知識、能力などをまとめた一群の職務のこと。職(しょく)、生業(すぎわい、せいぎょう、なりわい)、仕事(しごと)とも呼ばれ……』


「ホントに引いてくんなッ!」


『一人で楽しそうですね』


 どうしよう。俺このやり場のない思いの所為で、仮にステータスちゃんが目の前で実体化でもしたら殴らない自信がない。


『そう言えば、わたしの姿はまだお見せしていませんでしたね。勃起の用意をしてください』


「は? ぼ、勃起の用意……?」


 そんな俺の戸惑いを無視して、俺の目の前に眩い光が現れた。それは徐々に薄くなっていくと同時に、人の姿が明らかになっていく。


 ピンク色のストレートの髪の毛は長く、背も俺より高くてモデルさんかと思うくらいだ。身体にフィットするタイプの白いローブを着たその身体は、引き締まりかつ均整が取れていて美しい。


 胸も女性らしさを象徴し、しかも大きすぎない絶妙な大きさ。少し垂れ気味の目は碧く、パッと見で優しげな母親をイメージさせるような、そんな母性も感じられた。


 美人だ。凄い美人だ。神々しさすら感じられるこんな美人を前にした俺の心には、一つの単語しか思い浮かばない。


「これがわたし、ステータスちゃんです。フフフ、びっくりしていますね。わたしの美しさに見とれてしまったのでしょうか? 良いんですよ、見抜きしても? 滾る男性の性衝動を抑えられなくなるのも、致し方なきこと……さあ、どうぞ?」


「チェェェェェェェェェェェンジッ!!!」


「テメー今なんつったゴルァァァッ!!!」


 チェンジ、交代、やり直せ。えーっと、他には……。


「変われの類義語探してんじゃねーよッ! お前この絶世の美女が現れて勃起の一つもできねーのかこの※※※※※ッ!!!」


 おおよそ神々しい女性から放たれたとは思えない放送禁止用語が出たんだけど、これ大丈夫なんだろうか。


 まあ一般的観点から言って、このステータスちゃんは美しいんだろう。綺麗な顔立ちに白い肌、バランスの良いスタイル。文句のつけようは性格以外にはあるまいて。


 しかし、やれやれ。世の中、全てがそれで上手くいく訳もないもんだ。俺は落ち着いた状態で、こういう世界もあるんだという事実をキメ顔で突きつけてやる。


「良いか? 女の子は十四歳以下に限る」


「くたばれこのロリコン野郎」


 俺の渾身のキメ顔は嫌悪感をあらわにしたジト目で返された。解せぬ。


「……それは良いとしてだ。何で俺の職業がロリコンになってんだよッ? こういう状況って勇者とか英雄とか、そういう俺だけの職業がつくもんなんじゃねーのッ!?」


「……そんなもん、貴方が勇者なんて器じゃないからに決まってるじゃないですか」


 乱れた口調を戻したステータスちゃんが冷たく言い放つ……う、う、器じゃない、とか……うなだれる俺。


「……元の世界での貴方って、どこにでもいる普通のくたびれたサラリーマンでしたよね? 世の中にその名を轟かせる有名人でもない癖に、他の世界に行けば勇者になれるとでも思ったんですか? 社会の小さい歯車の分際で」


「もう勝負はついたッ! 命まで取ることないだろうッ!?」


 砂浜で両手両膝をついた俺に向けてめっちゃ良い笑顔のステータスちゃんの追い打ちが刺さるグハァ!


「いいじゃない! 現実で上手くいかないなら、異世界で夢見たっていいじゃない! ヒーローになりたいんだよ男の子はなァッ!!!」


「……ロリコンの癖にヒーローとか、子どもの夢ブチ壊しも良いとこですね。むしろ性犯罪者の方が合っているのでは?」


「まだ手ェ出したことないわッ!!!」


「まだ、とか……うわぁ、いずれはとか考えてそうでぶっちゃけキモイですね……」


 いずれは幼い女の子のぷにぷにの身体を堪能しながら「おにーちゃん、何するの……?」と不安げにしかし何かを期待したような顔でこちらを見つめてくる彼女に優しく微笑みかけながら我が息子を乱暴にねじ込んで処女膜を破るという無知ックスで童貞を捨てると心に決めているが、まだ何もしてはいない。俺の経歴は息子共々、綺麗そのものだぜ。


「貴方の職業がロリコンなのを魂で理解しました。したくもありませんでした。わたしの魂が汚された気がします。魂って何処で洗濯できますか?」


 知らねーよ、勝手に洗濯してろ。


「……言いたいことはまだまだあるんだが……とりあえず、これから俺はどうしたらいいんだよ?」


「……さあ?」


「さあって何さあってッ!? オメーが連れてきたんだろッ!?」


「いいえ。わたしが連れてきた訳ではありませんよ」


 えっ? 俺は自分の耳を疑った。


「わたしはたくさん来た転生者の中で、一番何をしても心が傷まなさそう……ゲフンゲフン。弄って面白そうだった貴方を選んだだけですので」


「そ、それってどういう……?」


「……おじさん達、何してるの?」


 ツッコミどころ満載の言葉をステータスちゃんから聞いたところで、俺達は不意に声をかけられた。

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