異世界に転生してステータスを開いたらキェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!! 俺とステータスちゃんと行く土下座珍道中
沖田ねてる
第一章
第1話 俺と異世界転生とステータスちゃん
衣服という俺を包む窮屈な殻から解き放たれ、産まれたての赤ん坊のようなピュアな姿で生きていきたい。
深夜。仕事終わりの帰り道にそんなアホな事を考えていた俺は、フラフラだった。家路の海沿いの堤防線上。かばんを持ち、ヨレヨレのスーツ姿の俺の足取りはおぼついていない。
そりゃ二日連続で零時過ぎまで仕事してたんだから、仕方ないだろうさ。切ったばかりの髪の毛もボサボサだが、まあ繁忙期はいつもこんなもんだ。
しかし、その日はいつもと違った。と言うのも、
「……おわっとぉ!?」
自分で自分の足に引っ掛けてしまうくらい、俺は疲れていたんだ。昨日若干徹夜気味になったのも原因かもしれん。
何とか態勢を直そうとしたものの、時すでに遅し。
「うわぁぁぁああああああああああああッ!」
ガードレールも無かった為、そのままカバンを放り投げながら堤防を転げ落ち、俺は海へと落下した。
いきなり水の中に叩き落ちた事で、ボーッとしていた意識が一気に覚醒する塩水が鼻に入って痛ァァァいッ!
「……ップハァ!?」
ゲホ、ゲホと咳をしながら、水の中から俺は這い出る。そこまで深くなかったのが幸いした。
「……は?」
しかし次の瞬間、俺は目の前の光景を疑った。深夜で暗闇だった筈の世界には太陽が昇っている。
更には道路が続いていただけの堤防は消え失せ、綺麗な砂浜が広がっている。
何処だここ?
「……もしかして、流行りの異世界転生ってヤツか?」
おおよそ自分の居た場所ではないここを見て、俺は休日に読んでいたライトノベルの存在を思い出す。
そうだ。いきなり知らない場所に飛ばされるとか、異世界転生に違いない。トラックに轢かれてとかのパターンが王道だが、まさか海に落ちて異世界に飛ぶとは……。
……っとその前に、ずぶ濡れになったスーツとワイシャツが気持ち悪いな、もう全部脱ぐか。
幸い気候はあったかいし……うっへぇ、パンツまでびしょびしょじゃん。
全部脱ぎ捨ててフルチンになると、妙な解放感が来て疲れが吹っ飛び、俺のテンションが上がった。
服は広げてその辺に置いとけば乾くだろ、よし。
「……本当に異世界に来たんなら、まずやることは一つだな」
一息ついた俺の頭に、一つの欲が浮かぶ。
もし本当に異世界に来たのなら、ゲームみたいにステータスを確認してみたいんだ。昨今では、何故かそう言う異世界が多い。
自分の身体能力等が数値化された、あの画面。あるなら是非とも見てみたい。
一度やってみたかったんだ、これ。逸る気持ちを抑えつつ、俺は両手を上げて叫んだ。
「ステータス、オープンッ!!!」
『それが人に物を頼む態度ですか?』
「ぎゃぁぁぁああああああああああああッ!!!」
まさか返事が来るとは思わなかった俺は焦った声を上げるっつーか誰だ今のッ!?
『失礼。命令形の言葉に思わずイラッとしまいました』
「だ、だ、誰だァッ!?」
辺りを見渡してみるが、全く人影は見えない。なのに声が頭の中に誰かの声が響いている。
『誰だとは、また言葉遣いの荒い人ですね。と言うか、自分は名乗りもせずに一方的にズケズケと聞いてくるとか、失礼じゃないですか?』
「……相山(あいやま)ハヤトです」
謎の声の塩対応にまるで冷水でもかけられたかのような感じがして、思わず正座してしまう俺。
『そうですか……まあわたしは貴方のステータスなので、名前くらいは把握していますけどね』
「それ俺名乗る意味あったァッ!?」
『さあ?』
さあ、て。
『とりあえず、名乗られたのなら名乗り返しましょう。先ほども話しましたが、わたしは貴方のステータスです。気軽にステータスちゃん、とお呼びください』
「……俺のステータス?」
『はい。貴方の名前や身体能力、状態やスキル、そして性癖等、貴方の各種個人情報を表示、管理するものです』
「個人情報表示システムが自我を持ってるとか前代未聞なんだけど。何? ここではこれがデフォルトなの?」
あとシレっと性癖とか言われたんだけど気のせい? そこ、気安く他人が触れちゃいけない所じゃないの? んん?
『いいえ。他の方々のステータスに意志はありません、おそらく。とりあえず、ステータスをどうぞ』
そう言ってステータスちゃんは、俺の目の前にゲーム画面のような薄青色の映像を出した。
黒枠付きの白文字で、俺のステータスと思われる内容が表示されている。
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:フルチン
取得スキル:ステータスちゃん』
どうしよう、自分の事なのに俺これ見ても何にも把握できない。
あと状態の欄にあるフルチンが字面的にキツい。早く服乾かないかな。
「……これ以外のステータスは?」
『ありますよ?』
「じゃ、見せてよ」
『嫌です』
何で拒否られたの?
『これ以上は有料になります』
「自分の個人情報なのに金取んのォッ!?」
『……っと。そんなことより危ないですよ?』
すると突然、ステータスちゃんが声色を変えた。
『相山、後ろです』
「な、何で苗字呼び捨てなん……」
「グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
後ろを振り返ると、そこにはサメの身体にイグアナのような手足を持った、巨大な化け物が海から這い出てきた。
大きさ的にはファミリーカーくらいだろうか。手足を使って砂浜を這いずり、口を大きく開けて俺の方に一直線に向かってくるってちょっと待たんかいッ!!!
「な、な、なんだコレッ!?」
『イグアナサメですね』
「いや名前聞いた訳じゃないってかうぉぉぉおおおおおおおおおッ!?」
口に並んだ無数の牙でこちらに噛みつこうとしてきたイグアナサメの突進を、すんでのところで避ける嫌ァァァ死ぬゥゥゥッ!
『肉食で魚とか人間を食べます。しかし、ここまでの大きさの個体は珍しいですよ。運が良いですね』
「んなもんに襲われてんなら運が悪いわボケェッ!」
その間にも、俺はイグアナサメとやらに襲われ続けている。
大口を開けて向かって来る突進をすんでの所で避けているが、このままじゃ……ってか避けられてる?
いつもより身体が軽い気がする。俺ってこんなに運動神経良かったっけ?
『いいえ? 貴方の身体能力はクソ雑魚ナメクジでしたよ。あのままだとイグアナサメと出会って二秒で喰われそうでしたので、ギリギリ回避できるくらいまで、わたしの方で数値を上げさせていただきました』
何言ってんのコイツ? 数値を上げた? それって……あといちいち口悪くない、このステータスちゃん?
「じ、じゃあ! 数値をもっと上げれば倒したりできるんじゃないのかッ!?」
『できますね』
「しろよッ!!!」
って言うか危ないッ! 辛うじて避けられたが俺の息子が喰われそうだったあと少し長かったらやられてたタマがヒュンってしたァァァッ!
『おおおッ! 今の回避は芸術点高いですねッ!』
「なに人のピンチ楽しんでんだテメーェェェッ!!!」
『……テメー?』
すると、俺の言葉にイラッとしたのか、ステータスちゃんが不機嫌な声を出した。
『何ですかその口の利き方? 人に向かってテメーとか……ハァ、もう良いです。わたしは完全にヘソを曲げました。貴方なんか知りません』
「ち、ちょっと待ってくれよッ!?」
俺は焦りながら言葉を続ける。ってかステータスにヘソあんの?
「お、お前がなんとかしてくれなかったら、俺はどーなるんだよッ!?」
『死ぬんじゃないですか?』
めっちゃ他人事の言われようだが、俺には冷や汗が滴る感覚がある。
死ぬ。コイツはあっさりと言ってのけたが、俺はその冷たさを背中で感じでいた。
イグアナサメの攻撃は激しくなる一方で、油断すると今にも死神が俺の肩をポンポンと叩いてきそうな勢いが……。
「わ、悪かった! 俺が悪かったから! 謝る! 何度でも謝るから、だから……」
『土下座なさい』
必死な俺の声に対して、ステータスちゃんが放った一言はシンプルだった。
『土下座です。ジャパニーズ土下座。それ以外は認めません』
「こ、こんな状況で土下座なんか……」
「グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!!」
容赦なく俺を喰おうと襲ってくるイグアナサメ。でも助かるには土下座しろとステータスちゃんは言う。
…………。
……解ったよやればいいんだろコンチクショーッ!
俺はなりふり構わず逃げ回り、少しイグアナサメと距離を取った瞬間に、両膝と両手と額を砂浜に擦り付けて土下座をした。
「申し訳ありませんでしたどうか哀れな俺をお救いくださいステータス様」
「グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!!」
早口で謝罪を述べたが土下座は五秒も保たなかった。だけど何とかやれた、やれたよ俺ッ!
『……ま、この辺で勘弁してあげましょう』
ステータスちゃんがため息混じりにそう言うと、突如として逃げ回っていた俺自身が光り輝き、身体中の筋肉が盛り上がっていった。
『筋力のステータス値を上げました。今ならやれますよ、ほら』
気がつくと、俺はボディービルダーかと思うくらいにムキムキになっていた。
凄い、本当にこれは俺なのか? 躍動する筋肉達がもっと輝けと言っている気がする……俺は、この筋肉を……信じるッ!
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
そうして勢いのままに放った俺のパンチは、突進してきたイグアナサメの身体に風穴を空けた。
だが、それだけではない。
衝撃波は空気を伝って響き渡り、波立つ海の方まで行くと、眼前に広がる大海原を綺麗に二つに割ったウッソだろお前。
「 」
『あっはっはっはっはッ! ま、まさか海が割れるなんて、あっはっはっはっはッ!!!』
殴ったままの態勢で開いた口が塞がらない俺に対して、脳内で大笑いしているステータスちゃん。
こうして。俺のステータスちゃんに無茶振りされる異世界冒険譚は始まった。
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