第21話 シロアシラと話し合いと監督
「あん?」
「今、何か聞こえなかった? あたしは聞こえたけど……」
「ぼくも聞こえたね。確か、あっちの方に……」
「グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
顔を向けた俺達の前には、三メートルはあろうかと言う白い毛並みをしたクマさんが立っていた。
それを見た俺は咄嗟に叫んだ。
「クマだッ! 死んだふりをしろッ!」
「えっ!? クマ!? クマ怖いッ!」
死んだふりをした俺とドンショクちゃんの前で、そんな声を上げて死んだふりをするクマ。
それを冷めた目で見ているショータロー君。
「……いやクマはアンタでしょ?」
「……ハッ! そーいやワシ、クマだったわッ!」
「誰かツッコミ代わって。また馬鹿が増えて過労死しそう」
遠い目をしているショータロー君だが、油断するとテメーがツッコミサボって良い空気吸い出すのを俺は忘れてねーぞ、このクソガキ。
「……んで、こいつは結局何よ? 何でクマが喋ってんの?」
「そりゃワシがシロアシラだからな」
「クマさん、会話って知ってる? やっぱクマって脳みそ足りてないの?」
全く答えになってないが、一つ解った事がある。カプコ●のパチモンだよこのクマ。あー、モンハ●やりてー。
「……で。コイツって金になんの?」
「シロアシラって不味いから嫌い」
とりあえずドンショクちゃんが当てにならないのは解った。
「何だよお前ら。せっかくワシが出てきてやったってのに……」
せっかく出てきてやった? どういう事だよ?
「いんや。そこの葉っぱ一枚のお兄さん、確か海でイグアナサメの兄貴に風穴開けた挙句、大海原を真っ二つにした人間だよな? 魔物界隈でも有名で、姿見たら隠れろってお達しが来てたぞ?」
魔物に出くわさんかったのはあの時の所為か、やっぱステータスちゃんが全部悪いんじゃねーか、帰ったら殴る、グーパンじゃグーパン。
「なら、アンタは何で出て来たのよ?」
至極当然の疑問を呈するドンショクちゃん。うん、俺もそう思う。
ヤバい奴がいるから逃げろって言われてて、何で出て来てんのコイツ?
「……出番が……欲しくてあたばァァァッ!?」
「そんな理由ある?」
三メートルのクマにすら、容赦なくハリセンを振るっているショータロー君。うわこのショタ強ぃ……。
「いやね? ワシも結構悩んだのよ? 最悪、命の危険もあるし……でも一応顔くらい出しておけば、もしかしたらマスコットキャラクター的立ち位置を獲得できて、レギュラー入りも夢じゃないかなーって思ってさ。たまに来るやられ役のエキストラ出演だけじゃ、生活も厳しくてヘブアァァァッ!?」
「売れない役者かアンタは」
再びショータロー君のハリセンが唸る。
どこの世界でも下積み時代の世知辛さは共通するらしい。つらみ。
「……でも、流れ的にこのクマ狩って素材売らねーと、今回の話の盛り上がりに欠けるしなぁ……」
「そこを! お兄さん、そこを何とかできませんッ!? ワシも考えるからさぁ!」
両の前足を合わせてクマがお願いしてくるので、俺達は仕方なく円状に座って、今後どうするのかについて話し合う事にした。
事態が事態なので、カメラさんとか音声さん、監督なんかも集まってくる。ちなみに全員ハゲのおっさんだ、眩しい。
「ちょっとシロアシラ君、困るよ~、ちゃんと台本通りやってくれなきゃさ~。そういう営業は画面外でやってくんない?」
前髪から後退しているタイプのハゲでサングラスをし、手に丸めた台本を持った小太りの監督さんがクマに詰め寄っている。
「すみません、監督さん! で、でも、もうワシ、使い捨てキャラみたいに扱われるのが辛くて……」
「……って言うか今回の話って、新入りのあたしとかショータローの掘り下げ回じゃない訳? 何で喋るクマ出してんのよ?」
「いやー。当初はそう聞いてたんやけど、思いついたのが魔物狩りのストーリーでな。ちょうど暇やったワシにお鉢が回ってきたんさ」
「ウソつけ。オメーが夜通し泣きながら土下座して無理やり頼み込んできたから、仕方なくねじ込んでやったんだろうが」
「カメラさんそりゃないっすよー。ワシだって食い扶持の為に、必死なんですから」
「あー、あー、マイクテ……イクテス……んん? ……音声さ……俺のマイ……たまに途切れ……けどちゃん……てんの?」
「んー? あっれー、おかしいなー。ハヤトさんの声、さっきまではちゃんと撮れてたんだけど……ちょっと待ってね、新しいの取ってくるから」
音声さん……しいマイ……ってしまっ……。
「とりあえず、ここでのシーンはモ●ハンに来た三人が、シロアシラと遭遇! ステータスちゃんなしのハヤト君がピンチに陥り土下座、ドンショクちゃんがそれを撃退ッ! 筋書きは変えないよ」
「監督さ……は良いんだけ……クマのレギュラ……無しで……ただでさ……前回二人も……入りしたっ……これ以上増え……読者……覚えら……」
「ちょっとー! 音声さんマイクまだぁ!? ハヤト君が何言ってるか全然解んないんだけどッ!?」
「はーいはいはいッ! 今持ってきましたからー!」
「あー、あー……よし、これでちゃんと喋れるな。とりあえず、クマのレギュラー入りはなし。んなもん飼う余裕はウチにはねーんだよ」
「あたしも賛成ー。次から次にキャラぶち込んでたら、あたしの影が薄くなっちゃうし……」
「そこッ! ワシとしてはそこを何とかお願いできんかッ!? ほら、喋るクマとかキャラ的に美味しくない?」
「うるせぇ。今どきのライトノベル界隈にゃ、喋る動物なんざ溢れかえってんだよ。今さらクマが喋ろうが、何の新鮮味もねーわ」
「たしかにねー。それだけだと弱いわよねぇ……何か特技とかない訳、アンタ?」
「特技かー、ワシの特技なー…………あっ、けん玉ッ! けん玉ならできるぞ!」
「そんなんで視聴率が取れるかこのボケがァァァッ!?」
「い、いや監督さんッ! 昔は立ったレッサーパンダが有名になった前例もあるし、けん玉できるクマがバズる可能性も……」
「芸ができる動物って、最近の動物園じゃ当たり前じゃないの? 全く、あたしくらいちゃんとキャラ立ちしてからにしなさいよ……」
「言うてドンショクちゃんも、色々とアレだけどな」
「何よ変態ッ! あたしの何がアレだって言うのよッ!?」
「ツンデレ口調ツリ目ツインテールゴスロリ衣装に大喰らいで親父ギャグ好き……ワシもクマと言語能力とけん玉だけじゃ足りんって事か……」
「ちょっとッ! 勝手に親父ギャグ好きとか決めつけないでくれるッ!? あたしは別にそんなもの……」
「イカはイカがとイカした親父さん」
「ブッハァァァッ!? ちょ、変態、さ、三連コンボはズルいって……」
「それはウツボの思ウツボ」
「ひーッ! ひーッ! く、クマ、アンタまでェッ!」
「やるなクマ。まさか海鮮ネタで被せてくるとは……」
「ワシも結構な年やからなぁ。こういうノリならどんどん行けるぞ?」
「……お酒は肝臓にいかんぞうッ!」
「ギャッハァッ!?」
「おお、監督さんも結構イケる口?」
「ハヤト君、舐めてもらっちゃぁ困るよ? 私もこの業界長いんだから……」
「この焼き肉、焼きにくくなーい?」
「ウッヒヒヒヒヒヒ…………ッ!」
「カメラさんもノリノリじゃん。良いね良いね。はい、皆さんご一緒に! 布団がぁ……」
「「「吹っ飛んだッ!」」」
「あーっはっはっはっはっはっはッ! ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!!」
「監督さん。もうこれ、親父ギャグでドンショクちゃんを殺す回とかでも良いんじゃね?」
「ハヤト君いいねー、それ! 親父ギャグを一般公募とかすれば、番組的にも盛り上がりそうだし……」
「そ、それはともかくワシ! ワシのレギュラー入りはッ!? ほら、けん玉も親父ギャグもイケるし……」
「いやでもシロアシラ君はなー。商業戦略的にマスコットキャラクターは必要だと思うけど、それを君にするのも……」
「そんな! 監督さん、ワシ、頑張りますからッ! ね、ハヤトさんもそう思うでしょ!?」
「んな事言われても、結局決めるのは俺じゃなくて原作者……」
「「「「「「あふひばァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」」」」」」
「オメーら全員そこになおれ。これ何の小説だおい」
やがて表情筋の全てを殺した顔のショータロー君が、俺達全員にハリセンを振るった。
その時のハリセンは今までで一番痛かったし、その時の彼は今までで一番怖かった。
はい、調子に乗りすぎました。本当にすみませんでした。
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