第23話 下積みとガマちゃんと雑なオチ
「「た、ただいまー……」」
あれから何十テイクと繰り返し、ショータロー君のオーケーがようやく出た時には、既に辺りは真っ暗になっていた。
オーケーになったネタはブルーレイ版に収録されているので、またみんな買ってね(発売予定は未定)。
俺とドンショクちゃんはヘトヘトの身体のままいつもの部屋へと帰還すると、二人してドサッと畳の上に倒れ込む。
「つ、疲れた……」
「は、吐きすぎて食道が痛い……ずっとムカムカしてる……」
ドンショクちゃんがグテーっとしたまま口を開けている。今にも魂が飛び出てきそうなだ。
俺も俺とて疲労感マックスで、なんなら股間の葉っぱもしなしなになっている。如何に俺がくたびれているかがよく解るな。
「……こんな事しなくても輝かしい脚光を浴びてる人が大勢いんのに……なんであたしばっか辛い思いしなくちゃいけないのよ……?」
「……仕方ねーだろ、んなもん」
寝転がったまま愚痴り始めたドンショクちゃんに向けて、俺は返事を返した。
「何でもそーだが、成功する奴なんざほんの一握りなんだよ。そいつらの倍……いや、何倍かも解らないくらいの数の、失敗したり、上手くいかずにくすぶってる奴らがいるんだ。そんなもんだよ……」
「……何が、足りないってのよ……あたしだって、こんなに頑張ってんのに……ッ」
「……そりゃもう運なんじゃねーの?」
俺の言葉に、ドンショクちゃんが顔を上げる。
「なによそれッ!? 運? 運って何よッ!? そんなどうしようもないもんなんかで……」
「そんなどうしようもないもんなんかで、差がつけられるんだよ」
倒れたまんまで、俺は続けた。
「いくら面白い奴だろうと、どんだけ実力がある奴だろうと……成功する機会を得られるのか。そしてそこで成功できるかなんざ、もう運の領域なんだよ。どれだけ腕を磨こうが、その腕を発揮できる機会がないかもしれねーし。どんだけサボってようが何度もチャンスに恵まれて、結果成功する奴だっている……結局は、運が良いか悪いかなんだよ」
「そんな、そんな事って……ッ!」
「でも……だからこそ、頑張んなきゃいけねーんだよ」
叫びそうになっていたドンショクちゃんを、俺は遮った。
「何処で運良く機会が得られるかもわかんねーんだ。いつ来ても良いように頑張ってなきゃ、いざ来た時にもったいないだろ? んで、チャンスが来たらやれるだけやって、あとはどうか上手く行きますようにって祈っとけ祈っとけ。それ以上考えたって、もうどうしようもねーんだから……」
「…………ホント……やってらんない……ッ」
ドンショクちゃんはもう一度寝転がった。
「結局は運なんて……ホント、やってらんないわ……」
「……ま。全部じゃねーけどな。そもそもある程度は実力がなきゃ、箸にも棒にもかからんし……ただ、もっと上に進みたきゃ運も絡んでくる、ってだけの話だよ」
「……それでも……頑張っても報われない事ばっかなんて……やってらんないわよ……」
「……そーだな……」
まあ、ドンショクちゃんの愚痴も解る。どれだけ頑張ろうが、報われるかなんて解んない。
むしろ報われない方が多いのが、当たり前みたいなとこがある。そんな中でも頑張らなきゃいけないなんて、ホントやってらんねぇわ。
でも、それだけじゃないのが世の中だ。たまに、たまーにだけど、予想以上に良くなったりすることもある。
今までの頑張りでそれっぽっちかよ、なんて思ったりもするが……それだけで、頑張ってて良かった、なんて思えちゃったりもする。
嫌いになるにはもう少しだが、好きになるには程遠い世界、と何処かで聞いたことがある。ホント、上手いことできてるよ、世の中。
グギュルルルゥゥゥ…………。
「……つーか腹減った……マジで昼のもやし以降、なんも食ってねーぞ?」
「あ、あたしも……でもお腹空いてるのに、めっちゃ胃がムカムカしてて……キモチワルイ……ッ」
リテイク毎にシロアシラを吐き戻していたドンショクちゃんには、割りと同情する。
まあ、今日くらいは俺が何か作ってやろう。何かっつっても、冷蔵庫にはもやししか入ってないんだが……。
「さーて、さっさと晩飯でも……んんん?」
と思って冷蔵庫を開けたが、中には何にも入っていない。おかしい。ここには今日分のもやしがあった筈だ。
「……あれ? 変態、机の上になんか置いてない?」
「ん?」
ドンショクちゃんに言われてちゃぶ台の上を見てみると、そこにはペシャンコになった無様なガマちゃんの姿と、一枚の紙が置いてある。
……ガマちゃんの様子から薄々勘づいてはいたが、俺はゆっくりとその紙を手に取った。
『負けちゃいました、てへ! 今すぐ許せよ。
あっ。お腹空いてたんでもやしは頂きました。ちょっとくらい、いいじゃないですか。ケチケチしないでください。
そしてわたしは、ちょっくら旅に出てきます。パチンコの必勝法を、探す旅に……長い旅になりそうです。でも寂しいからって、わたしを思い出して抜いたりしてはいけませんよ?
ではッ!
貴方のステータスちゃんより』
「ドンショクちゃん」
「変態」
俺達は互いを呼び合い、そして立ち上がった。疲労感も空腹も一旦は無視だ。
今はそれよりも大切な事がある。俺は台所の包丁を取り出し、ドンショクちゃんは"悪食(イートワールド)"の触手を構えていた。
「あんのクソアマ見つけ出してブチ殺すぞオラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「こんな雑なオチでメインヒロイン気取るとか絶対に許さんぞあのクソババアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「うるさいッ! 今何時だと思ってるんだよッ!?」
二人してアパートの部屋を飛び出したら、小さなスイカがたくさんプリントされている寝間着姿のショータロー君にハリセンでしばかれた。
痛かった。今のは、痛かった……しかし俺達は止まらなかった。心の中の憤怒が、行け、と言っていたから。
ドンショクちゃんと共に、夜を駆けていく。今は止めないで。遠くのステータスちゃんの方へ、二人今、夜に駆け出してく……。
「「ゴッロォォォスッ!!!!!!」」
『氏名:相山ハヤト
性別:男性
年齢:二十八歳
状態:葉っぱ隊
職業:ロリコン
取得スキル:ステータスちゃん
持ち物:五百万円の借金(ちょっと減った)
備考:相山は激怒した。必ずあの邪智暴虐のステータスちゃんを除かなければならぬと決意した。(New!!!)』
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