第48話 一ノ瀬和也は泊まる?
「あ~、面白かった」
「・・・・・・絶妙に面白くなかった」
何なんだ、あの先の展開が俺にもわかる映画は。ストーリーはいい感じなのに、オチがわかってしまう分なんとも言えない気持ちになってしまった・・・・・・
こんなことなら
「はぁ。ねぇカズ、次は何する?」
「どうせ俺の案は通らないからその無駄な時間は省け」
「ふふふ、つれないなぁ」
「俺のことをノリのいいやつだと思っていたのか? そりゃぁ、俺のことをよく知ってる」
「言い方!」
ほおを膨らませながらそんなことを言ったところで、お前の柄じゃないだろ。違和感しかないぞ。お前は余裕を持って物事に当たるタイプのくせに、何がしたいんだ?
「でも、何しようかなぁ? カズはゲームするような人じゃないし、映画も見たいのは見たし・・・・・・少し早いけど晩ご飯にする?」
寧々につられて時計を見る。集合が十三時、今が十八時なので約五時間くらい寧々と一緒にいることになる。午前中に集合しなかったのはこう見えて、寧々が朝にめっぽう弱いからだ。
普段は学校があるので無理をして普通に見せているが、その反動のせいか休日は昼間でぐっすりだ。このことを知ったら、寧々信者のやつらはどう思うのだろうか? だらしない? それとも、かわいげがある? かわいげなんてみじんもないがな。
十三時集合に合わせるために昼食を早めにとったのでそろそろいい感じにお腹もすいてきている。晩飯にするならしても別にいい・・・・・・って、
「は? 晩飯?」
「うん。晩ご飯」
こいつは何を言っているんだ? そんなもの、こいつと一緒に食うわけないだろ。二万六千五百八十七歩譲ってこいつと食ったとしても、寧々の声が聞こえないほど賑やかな場所だな。
「だって、今日泊まっていくでしょ?」
「・・・・・・あのことは依頼してないが?」
「別にいいじゃん。どうせ部屋余ってるし」
こいつ本気で言っているのか? 普段からろくでもないことをしているせいで脳みそが腐ってるのか? いや、自明だった。こいつの脳みそは腐っていた。
でも、これ以上面倒なことになる前にさっさと帰ろう。こいつの言うことにいちいち耳を貸していたら俺まで頭がおかしくなりそうだ。・・・・・・それも元々か。
「俺は帰る」
言葉を発するのとほぼ同じタイミングでソファーから立ち上がって、出て行こうとし――
「でも、もう
したが、足が動かなかった。足が動かなかっただけでなく、再びソファーに腰を下ろしてしまった。
別に帰っても支障はないが、俺が帰って寧々と母さんが連絡を取って、寧々が母さんとの仲を縮める機会を増やす方が面倒なことになりそうだった。寧々ならしかねない。
「って、どうして泊まることになってるんだ?」
「・・・・・・いいじゃん。・・・・・・私だって、寂しいときくらい、あるよ・・・・・・」
隣に座る寧々の顔を見ると、どこまでも深く暗い表情をしていた。俺には絶対にわからない顔をしていた。
かわいそう、という感情は出てこない。そんなことを同じ境遇に立ったこともない俺が言ってはいけない。そう感じてしまう顔だ。
寧々の母親は大手化粧メーカーの商品開発室長かつ次期社長候補、父親がIT企業の社長というどちらも忙しい身だ。寧々曰く二人の顔が家に帰ってくるのは週末、しかも週一に帰ってくればいい方らしい。
もちろん、俺が寧々の親と会ったことはほとんどないに等しい。ゼロかと言われると、たまたまタイミングが合ったときに少し話したことがあるのでゼロではないが、そのときだけだ。
別に連絡先を知っているわけでも、お茶をしながらゆっくりと話したことがあるわけでも無い。向こうが俺のことを覚えている角かさえ怪しいほどだ。
そんな俺でも、あの親が好きにはなれなかった。仕事一筋・・・・・・でもないような気がしないでもないが、寧々のことをいまいち理解していないのはわかった。それを俺が言うか、というのはいったん置いておこう。俺は寧々のことを理解しなくてもいい人間だからな。
そんな親に対して寧々が憤りを感じている・・・・・・ならば本人もどれだけ楽だっただろうか。そうなれないからこそ寧々は今、こんな顔をしているんだ。
寧々は家族が好きだ。部外者の俺でもそのことがわかる。どうしてそれほど家族が好きなのかは中学時代でも言ってくれなかった。気にはなっているが、それを深く聞いてはならないとわかっている。
家族は好きだが、家族を奪った仕事は嫌い、それが
普通ならそんな風には思わないのかもしれないが、頻繁に家に企業の人が来て、「紀野さんの何々」「紀野社長の何々」とことある毎に仕事関係の人から『紀野』という単語を聞いていればそうなるのもしょうがないのかもしれない。
そして、一番身近なはずの両親がいない環境で育った反動なのか寧々は人一倍人恋しい人間に育ってしまった。寧々が周りに人を集めようとするのも、交流を広げようとするのも、単純に仲良くなりたいからだ。
そんな寧々が他人を道具? は言い過ぎか・・・・・・駒(も言い過ぎな気がするが)のように扱う(も言葉がひどい)のは言語道断と言われるかもしれない。俺もそう思う。
だが、これは俺の想像の上に仮定を重ねた妄想なのだが、他人と深い関係を築くのを恐れているからかもしれない。両親という手に届く距離にいるはずの人に裏切られればそんな想いを持ってもおかしくないと思う。
近づきたいが、近づいた後に遠くなられるのが怖い。そんな想いを持っているのかもしれない。
その寧々が俺にだけこんな姿を見せるのは喜ぶべきなのかもしれない。だが、この愛情もどきはホンモノの愛情ではない。言わば、寧々が俺のことを同類とでも思っている証拠だろう。
わかるのかもしれない、人の愛を受けてこなかった人間同士、何か引き合うものがあるのかもしれない。
寧々は両親から、俺は他人から、愛という感情を受けたことはない。俺と寧々が違うとすればそれを欲しているか欲していないかだろう。俺は別に望んではいない。
それでも寧々は自分の痛みを知っている人を側に置いておきたいのかもしれない。
だがそれは、寧々の本当に欲しいものではないだろう。
俺が与えられるのは愛のない理解。寧々の欲しいのは愛のある理解。
理解できそうなのは俺だけ。だからこそ寧々は俺からの愛を欲している。
だと、思う・・・・・・
俺は青春ラブコメを信じない ~そんな俺が学校の4大美女の1人に告られた~ 揚げ豆腐 @forest_night_view
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺は青春ラブコメを信じない ~そんな俺が学校の4大美女の1人に告られた~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます