第3話 一ノ瀬和也は返事をする
俺は今どういう状況なんだ? いきなり告白? いや、おかしい。こんな何でも食べ放題みたいなやつが俺に絡んでくるはずはない。
「どういう・・・・・・」「いや、これは・・・・・・」
俺と
「何を企んでいる?」
正確には「いきなり告白なんて、しかも俺みたいなモブもいいところみたいなやつに向かって。一体何を企んでいるんだ?」だ。
行間を読んだかどうかはわからないが桐ヶ谷は話し始めた。
「えっと、四天王って知ってますか?」
話し方がよそよそしい話すのなんてこれが初めてだからしょうがないだろう。
「あっ、知ってる?」
だが、そんなことを思っていると桐ヶ谷は言い方を変えた。多分自分でもよそよそしすぎると思ったんだろう。
「ああ」
知っているかどうかを聞かれたのでそれだけに答えた。質問には端的に答えるのが一番だ。
「それで、私もその一人っていうのは?」
「ずいぶん自信満々だな」
カーストの上位にいるやつらは全体的に他のやつらよりも自分が上だと自負するから嫌いだ。わざわざ自分から「四天王の一人」と名乗るなんて自分に酔っているにもほどがある。
しかし、どうやら桐ヶ谷は少し違うようだ。
「何よ! 別に私が自分からなりたいなんて思ったことないし!」
急にぶちギレられた。
いや、そんなにキレなくてもいいんじゃないか?多少なりとも俺の言い方に難があったかもしれないが、その誤解をさせたのは他でもない桐ヶ谷本人だ。
「っで、その四天王の一人の桐ヶ谷
「四天王の一人」というところにアクセントを置いたのは意図的にだ。
「何のよう」というのは、「この告白じみた仕掛けをして俺に何をしろと言うんですか?」という意味だ。さすがにこのくらいは通じるだろう。
「だから、付き合って!」
だが、どうやら桐ヶ谷には意味が通じなかったらしい。しかもまだキレてる。おそらくその原因が俺のアクセントの位置にあるのは大体察しがついたが、放っておくことにする。
「俺が聞いているのはその理由だ。そんなこともわからないのか?」
少しばかり物わかりが悪いようなので丁寧に説明してやった。
「その人を見下したような言い方やめてもらえる?」
桐ヶ谷が自分の前で腕組みをしながら俺に言ってきた。その行動は何も自分の胸を強調するためのものではないのだろうが、意図せずそういう結果になってしまっている。
「はいはい。それで俺の質問に答えて?」
そんなことはどうでもいいから俺は早く話を進めたいんだが。
「四天王のことどのくらいまで知ってる?」
「まったく。毛ほども興味はないからな」
「あっそ」
桐ヶ谷が大きくため息をついた。そんなに自分のことを学校中に知ってほしいのかよ。とんだ自信家だな。
「いいや。端的に言うと私は四天王なんて言われたくないの」
腕組みをした状態でようやく説明をした。俺に態度を直せと言いながら、自分の態度がひどくなってないか? どうでもいいんだが。
それよりも俺は桐ヶ谷について少し誤解をしていたようだ。こいつは四天王という座について注目を集めたいのではなく、どうやら逆に注目を集めたくないらしい。
「それで、そのことと俺に何の関係があるんだ?」
俺のようなカーストの最下位のやつが桐ヶ谷を四天王から下ろすなんて根回しできるはずもない。
「四天王って付き合ったら外されるらしいの」
桐ヶ谷がようやく大本の理由を説明した。なるほど、それで告白。納得はできないが
「それで、OK?」
いつもと雰囲気違うな。いや、いつもの雰囲気自体をあまり知らないが、教室の中でうるさく騒いでいるときとは印象が違う。うわー、女子ってこうなんだな。
しかもでたでた。こういう風な上位層って自分から告白したら絶対にOKだと思ってるんだよな。
「無理」
別に嫌がらせなわけではない。俺もそこまで性格はひねくれていない。
「どうして?」
不思議そうな顔、と言うよりも驚いた顔をしている。断られるなんて思ってもなかったのだろう。これだから勝ち組は嫌いだ。
「俺は目立ちたくない。お前がいたら確実に目立つ」
「そんなの私だって目立ちたくないわよ!」
「お前のことは俺には関係ない」
「他人事ね」
「他人事だからな」
実際にこの件に関して俺は全く関係ない。しかも俺は一人ライフをこいつに邪魔されたくない。
俺は鞄を肩にかけて桐ヶ谷とは反対側に向いた。
「それならお前のファンクラブにでも言ったらどうだ? それこそ泣いて喜ぶんじゃねぇの?」
後ろにいる桐ヶ谷に向けて俺は言った。俺に頼むなんてお
俺は教室を出るために歩き出した。人気者は人気者で大変なんだな。まっ、俺には関係ないけど。
「ちょ、ちょっと待って!」
また桐ヶ谷に呼び止められた。これでもう二度目だぞ。
「何なんだ? いい加減にしろ」
俺は立ち止まって上半身だけ振り返りながら桐ヶ谷に忠告した。これ以上何を言われても俺はお前に関わらないぞ、と言う意志を込めて。
俺が見ると桐ヶ谷は左手にスマホを持った状態で歩いていた。その顔が赤いのは怒っているせいなのか、それとも別の理由なのか。
桐ヶ谷はそのまま俺の横を通過して正面に立った。おいおい、何がしたいんだよ。
「いい加減にしてくれ。俺はお前の頼みを聞くつもりはない」
「頼みじゃなかったらいいんでしょ」
赤らんだ顔を俺に向けながら言った。どういう意味だ?
だが、俺が質問する前にその答えは出た。
桐ヶ谷は俺の空いている左手をつかむと、おもむろに自分の胸に俺の手を置いた。俺が状況が飲み込めずぼんやりしていると、自撮りの要領でその風景を撮影した。
俺は撮影が終わっても何が何だかわけがわからなかった。だが、非現実的な光景に情報処理が追いついてくると俺はすぐに手を引っ込めた。もう遅いと知りながら。
俺が手を離すよりも前に桐ヶ谷はスマホを自分のスカートのポケットにしまった。だからもう奪おうにも奪えない状況になってしまたのだ。
「こ、これで、その、しょ、証拠は、で、できたから」
足がガタガタと震えている。それが犯罪を自作してしまったことへの恐怖なのか、それとも照れてしまってこの場から逃げ出したいのを必死に我慢しているからなのか、俺にはわからなかった。
だが、どちらにせよ俺も通常通りではなかった。背中に汗が流れているのを感じる。息もあらっぽくなってしまっている。これは性的な興奮ではなく、焦りから来る興奮だ。
「つ、付き合わなかったら、これを、学校に出すから」
顔を真っ赤にしながら脅迫してくる。なるほど、どうやら恥ずかしいようだ。
でも、これを学校とか警察に出されて俺のことを信じる人がどれだけいるだろうか? かたやスマホとは言えど写真持ちの被害者、かたや無実だと言うだけの加害者。決着は目に見えている。
「はぁ、わかった。とりあえず落ち着け」
「う、嘘じゃない?」
「こんな状況で嘘をつけるほど肝は据わってねぇよ」
「じゃあ、付き合ってくれる」
「ああ、付き合うふりをしてやる」
疑うような目で見られているので、いったん桐ヶ谷を落ち着けようとする。顔に似合わず大胆なことをするやつだ。
「じゃあ、これからのことを話し合うためにどこか行きましょ」
「それなら、出てすぐのファミレス行こう」
「そこは生徒が多いからだめ」
面倒くせぇ。と言っても、俺もこいつと一緒にいるところを他のやつらに見られたくないから確かにあそこは嫌だな。
「お前ってチャリ通?」
「そうだけど」
「じゃあ、ちょっと行ったところのやつにするか」
「うん」
俺は目で桐ヶ谷に行くぞと合図を送る。しかし目が合った瞬間、桐ヶ谷は顔を背けてしまった。無理もないか。あんな無茶をしたんだもんな。
桐ヶ谷は俺が何が言いたかったのかわかったらしく自分の席に戻って支度を始めた。俺は桐ヶ谷を待つことなく教室を出た。
「はぁ」
自然とため息が出てしまう。面倒なことに巻き込まれてしまった。
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