俺は青春ラブコメを信じない ~そんな俺が学校の4大美女の1人に告られた~
揚げ豆腐
和也と音杏の始まり編
第1話 一ノ瀬和也は告白される
俺はラブコメを信じない。この世にラブコメなど存在するはずもない。現実世界にラブコメのような出来事が始まるなど天地がひっくり返ってもありはしない。
そんなことを言ってもラノベや漫画、アニメでラブコメはあるじゃないか、と反論してくるやつもいるだろう。だが、それこそが現実にラブコメが存在しない動かぬ証拠だ。
ラノベなどでラブコメを見るのは現実に存在しないが故に、非日常の世界を味わうためである。もしもあちこちでラブコメ展開が起こっているならば、今のようなどうでもいい世界を題材にしたラノベが世に出回っているだろう。
それなら、物語の設定なのだから別にいいじゃないか、と言ってくるやつもいるだろう。俺は別にこの世からラブコメを書いているラノベ、漫画、アニメを根絶やしにしたいとは一つも思っていない。だからその反論は無価値である。
なぜ俺がラブコメが嫌いかって? 仲の悪い主人公とヒロインが
いきなり一人の男子、または女子の周りに複数の異性が集まってハーレム、逆ハーレムが形成される。など、
こんなことは実際には起きない。ハーレムなど形成されないし、問題を乗り越えるということもない。さえないやつはいつまで経ってもさえないままなのだ。
この世は弱肉強食の世界。弱いやつは強いやつの餌となり、踏み台になるしか道はないのだ。勝ったやつが強いなどという言葉も聞くが、勝ち負けなど人生において勝負する前から決まっている。
強いやつが勝つのだ。それは自然の法則であり、不変の事象である。もしもこれに
だから弱いものが消えたのだ。この話の教訓は『強いものが勝ち、弱いものは負ける』である。Kが死んでしまったのもそういう理由からである。
「・・・・・・と、
「何って、『こころ』の感想です」
「うーん、僕には人生に対する闇を
丸眼鏡に、軽く天然パーマのかかった頭をした水谷先生は服装によって実年齢の三十代前半よりも若くも老けても見える。ちなみに今日はワイシャツにグレーのズボン、茶色の薄手の上着を着ている。
「偏見ですよ。ほら、しっかりと『K』について書いてありますよ」
「この短い一文のことかい?」
プリントの表を俺の方に向けながら最後の一文を指でトントンとしながら言ってきた。後ろに支えのないプリントがゆらゆらと揺れる。
「それです」
俺は端的に肯定した。
「僕には最後の最後に書く内容のことを思い出して付け加えたようにしか見えないんだけど」
水谷先生が呆れたような顔を向けて、俺に言った。
俺は一瞬ギクリとしてしまった。水谷先生の言う通り自分の感情にまかせた書いた文章に適当に付け加えただけだ。先生というのはやはりすごいんだな。
「はぁ、それになんだい? 『俺はラブコメを信じない』って」
「そのままの意味です」
「そういうことじゃなくて」
水谷先生がため息をついた。そんなにため息をついていたら幸せが逃げますよ、とは言わない。
「どうして急にラブコメの話が出てくるんだい?」
「『こころ』ってラブコメですよね」
「どこをどうしたらラブコメに?」
「下宿先の女性がこんなにモテるなんてラブコメですよ」
水谷先生が両方の目頭を抑えた。俺が何か悪いことでも言ったのだろうか。心当たりがないこともない、と言うか十中八九これが原因だと断言できるものがあるが、それを言ってしまうと自分の非を認めることになるので言わないことにしておく。
「『こころ』を読んでラブコメだと思うのは一ノ瀬君くらいだと思うよ」
そんなに先生をやってないだろ、とは言わない。
「まぁ、これは書き直してもらうとして、何か悩みでもあるのかい?」
「どうしてですか?」
「こんなことを書いているくらいだからね」
苦笑いを向けながら水谷先生が俺のことを心配した。なるほど、確かにこれは心配されそうな内容ではある。
「いえ、いたって順調に人生を歩んでいます」
「大げさに言うね」
おそらく人生と言ったことに対して言ったのだろう。学校生活にしろ、人生にしろ俺に悩みはないからどちらでもいいことだが。
「普段休み時間とか何してるんだい?」
「特に何も。ボーッとしてます」
「へー、友達と話したりは?」
「しないです」
と言うよりも友達という友達がいない。それが悲しいかと言われると全く悲しくも寂しくもない。俺は一人が好きなのだ。
「高校生なんだからたまには青春しなよ」
と言いながら俺にプリントを渡してくる。これで終わりということなのだろう。
俺はそのプリントを受け取って職員室を出た。今度は当たり
俺は廊下を歩きながら水谷先生が最後に言っていた「青春」について考えていた。
青春。それはテレビなどに影響を受けてしまったうぶな若者たちが一時の学生生活の一部を無駄に消費してしまうことである。
恋愛、なれ合いなどなどが自分の自由を恋人、友人という名の
俺は青春などという愚かな時間を過ごさない。その代わりに一人で優雅な時間を過ごすのだ。ぼっちではない、一人が好きなのだ。
青春と言えば他にもこの学校には四天王って呼ばれてる女子がいるらしいな。俺のクラスにもそれっぽいやつがいるが、中二病かよ。
おまけにファンクラブもあるとか、時間の無駄すぎる。俺にはアイドルとか縁のない話しだし、どうでもいい。
したいやつはすればいいが、それを勝手に押し付けないでほしい。たまに宗教の勧誘みたいに変な信者が来るが自分の趣味を押し付けてくるなよ。
どうしてああいうやつらとか、コミュニティ作らないと生きていけないやつらとかは自分の趣味は相手も好きみたいになるのか。全く理解できない。
俺は職員室から教室に向かっていた。友達が待っているというわけではなく、荷物を取りに行っているのだ。どうせ、暇人どもがわいわいしてるんだろうな。
だが俺が教室には一時、予想に反して珍しいやつが教室に一人でいた。教室にいるのが珍しいのではなく、一人でいるのが珍しいのだ。
俺と
桐ヶ谷
そして何よりさっき言った四天王のうち一人だ。他にも何とかと、何とかと、何とかが四天王だ。これも底にいる俺と、頂点にいる桐ヶ谷というところが異なる。
もちろん他にも違うところは多いが大雑把に言うとこんな感じだ。つまり俺と桐ヶ谷は住む世界が違うのに、たまたまクラスが同じになってしまったということだ。
俺は桐ヶ谷と話したことはない。桐ヶ谷どころかクラスのほとんどの人とそこまで話さない。話すとしても業務連絡か挨拶くらいだ。
「いたのか」などという声かけもせずに俺は自分の席に向かった。そして机の上に置いていた鞄を持って、帰ろうとする。
「ねぇ、一ノ瀬」
そんな俺に桐ヶ谷は話しかけてきた。
俺は桐ヶ谷の方を向いた。一瞬、一ノ瀬って誰だ、と思ったが、俺以外に一ノ瀬がいないことを思い出したので俺が振り向いた。
どうして俺が桐ヶ谷に話しかけられるんだ? もしかして授業かなんかで連絡があるのか? それなら納得だ。
「どうした?」
「あの・・・・・・」
一瞬、沈黙が降り立つ。
「私と付き合って」
「は?」
念のためいっておく。俺はラブコメを信じない。
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