第19話 一ノ瀬和也は救う
俺と
この場所に来ると桐ヶ谷の顔は見えにくくなっている。おかげであの少ししたら泣きそう、という顔を見なくて済んでいる。
さすがに泣かないとは思ったが、あんな顔をされたらさすがの俺でも気まずくなる。二回も間違ってただただ恥ずかしかっただけなのだろうが、それでも念のため避難した。
今も桐ヶ谷は
おそらくまだ赤くしているのだろう。ちなみになぜ俺が座っていないかというと、横に座るほど近しいわけではないし、遠くに座るほど知らないという微妙なあいだだからだ。
それにしても気まずい。よく考えれば女子の傍らに男子が立っているというのもおかしな話だ。そのうちこの辺に来たカップルやら家族やらにおかしな目をされるだろう。
しょうがない。この場はいったん俺が離れよう。少し行った先に自販機があったよな。
「桐ヶ谷、飲み物買ってくるが、何かいるか?」
「・・・・・・」
無視かよ。まぁ、俺は無視をされることに慣れているからなんとも思わないが、こういう問いかけにはさすがに答えろよ。空気を読むことしかできない陽キャどもは無視なんてしないんじゃないのか? 知らんけど。
俺は桐ヶ谷の無言の答えを「いる」ととらえた。それを本人に確認することもなくその場を離れた。桐ヶ谷はうんともすんとも言わなかったがあそこを動くことはないだろう。
俺は阿呆どもや家族連れの間を
――あー、疲れた。
うるさい。黙れ。
――えー、お茶? こういうときって缶を買ってきてゆっくり話すんじゃないの? ペットボトルって持ち運べるじゃん。デート下級者モロバレ。
お前が何を買ってこいとか言わなかったんだろ。しかも俺はお前とゆっくり話す気なんかさらさらなかった。
――まっ、いいや。どうせ一ヶ月だけだし。
じゃあ付き合わなくていいじゃねぇか。お前らの頭のおかしい罰ゲームに俺がどうして巻き込まれるんだよ。
――ねぇ、カズ・・・・・・もう少し、付き合ってくれない?
うるせぇ。一ヶ月だろうが。お前の気まぐれに俺を巻き込むな。
――ごめんね、カズ。ごめん・・・・・・
やめろ。泣くな。ウザい。消えろ。
――じゃあね、カズ。
「消えろ、もう二度と
俺は自分の大声で現実世界に戻ってきた。息が荒くなっている。大声のせいか、それとも無意識に急いでいたからか。それは俺にはわからない。
急いでいたとしたらなぜ? 何かから逃げていたのか? 何から? 過去から? んなわけねぇ、俺はもうあのことは忘れたんだ。
周りを見ると俺に視線が集まっていることがわかる。それもそうだ、一人で大声を出しているやつを見るなと言う方が酷というものだ。
俺はそれを恥ずかしがる、なんてことはまったくせずにごく普通に自販機で飲み物を買った。ちなみに気がついたところがちょうど自販機の前だったという偶然が起きた。
俺は手に持ったペットボトルのコーヒーとオレンジジュースを持って桐ヶ谷の方に向かった。遅くなったと言うこともないが、また変なことを思い出さないように早歩きで戻る。
この角を曲がったら、大きな部屋に出て、その
俺はそのまま角を曲がったが、反射的に戻った。
なぜなら、
「ねーねー、君一人?」
「なんでさっきから
「そうそう。どうせ彼しか誰かに振られたんでしょ! それなら俺たちと遊ぼうよ」
いかにもという男子が三人、桐ヶ谷の周りを囲んでいる。俺がいなくなったあいだに周りを囲まれたか? 下を向いていて逃げようにも逃げられなかった?
いや、男のうち一人が「かわいい顔が」と言っていた。俺と別れてから一度も顔を上げてないのだとすると顔は見えないはず。となると顔を上げていたが、逃げなかった。
どうしてだ?
俺はもう一度桐ヶ谷の方を見た。すると椅子に座っている足がガタガタと
さてどうするかな。あいつらも大声を出してたし、周りの家族連れとかもあいつらに注目してたから、多分そのうち
俺がわざわざ目立つようなことをしなくても他の人がなんとかしてくれる。それならば俺がどうこうする必要はない。
俺は小説やアニメの主人公のように実は格闘ができるなんていう隠れた才能なんて持っていない。運動ができないわけではないが、普通くらいと言ったところだ。
さらに他人と関わる必要のない有意義な時間を過ごす俺にとってけんかという無駄な争い事は
俺は注目されるのが嫌いなうえに、こんなアニメの主人公のような場面にのこのこ出ていようなバカでもない。このままおとなしくしていたらことが落ち着くのにどうして面倒事に自分から飛び込もうか、いや飛び込まない。
そもそもこういう場面に進んでいくやつが俺は嫌いだ。自信過剰にもほどがある。自分のことをヒーローか何かと、勘違いしているに違いない。そう言うやつはバカだ。
バカだ、バカだが・・・・・・
「おい、足震えてんじゃん!」
「かわい~。そういうの俺たち好きだよ」
「大丈夫、俺たちがいいところに連れてってあげるから」
この場面にのこのこ出ていようなやつは嫌いだ。だが。
俺は買ってきたペットボトルを鞄にしまった。そして少しでも俺という印象をなくすためにだて眼鏡をかける。
そして角を曲がって桐ヶ谷の方に向かう。
「チッ、おい!」
男たちに声をかける。それに反応して男たちが俺の方を向く。その行動に少し遅れて桐ヶ谷も顔を上げた。
こんな風に正義のヒーロー気取りのやつは俺は嫌いだ。だが、それ以上に自分が上だと思い込み、自信過剰な態度で他人に
「キサマらのような人種の方が何百倍も嫌いなんだよ!!!!」
男たちに向かって大声で
「ハハハハハ! 何? 彼氏さん? 普通じゃん!」
「本当だ! こんなかわいい子には釣り合わねぇよ!」
「そうそう! 俺たちの方がよっぽど合ってるって!」
何かをほざいている。言葉になってはいるが、その言葉が意味をなしていない。お前らの方が合っているかどうか? それはこの俺でさえわかる。桐ヶ谷にお前らは似合わねぇ。
俺は男たちの
そしてそのまま歩いて行く、ということはさせてもらえなかった。
男の一人が俺の肩を強引につかむ。止めるという意味と傷めるという意味を同時に行うような行為だ。
「待てよ。俺はその子に話があるんだが?」
「
「おいてめぇ! 口の利き方に気をつけろよ!」
別の男が俺の胸ぐらをつかんでくる。そのまま上に持ち上げるので体が少し浮く。
「その子を離したら、大目に見てやるぞ」
「こいつに手を出してみろ。俺は大目に見るなんて
さっきも言ったとおり俺は戦うことはできない。そう、戦うことは。
「この!」
と言いながら胸ぐらをつかんでい男がもう一方の腕を振りかぶる。
そのすきに顔の前に
俺は殴ったりするには非力だが、逃げることはできる。自己防衛のために、逃げる技は中学生のときに色々と学んだ。それは必要だったからに他ならないが。
「てめぇ!」
「こら! そこで何をやってるんだい!」
「チッ、面倒くせぇ。逃げるぞ」
三人のうち一人が俺を殴ろうとしたところで守衛が来た。そのおかげで二人はそそくさと逃げ、片膝の状態の男はゆっくりと立ち上がってから、二人の後を追いかけていった。
「ふぅ」
疲れた。久しぶりすぎて今まで以上に疲労感を感じる。
そのとき、桐ヶ谷の腕から力が抜けた。俺は反射的に桐ヶ谷の方を向いたが、
俺は手を離そうとしたが、手の力を抜いた瞬間に桐ヶ谷の手に力が入ったので離れることができなくなった。
俺はその状態で守衛が走ってくるのを見ていた。おそらく、後ろから
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