第17話 桐ヶ谷音杏は知る
現在十三時五分、って完全に遅刻! 今日が楽しみで
そんな
休日ということもあって家族連れ、友達同士、そしてカップルらしき人たちがたくさんいる。みんなこんな感じなの? どうしてか罪悪感を感じてしまう・・・・・・気にしないでおきたい。
私は
でも、一ノ瀬の姿が見えない。もしかして一ノ瀬も遅れ? それならまだいいけど、もしかして忘れてる? さすがにそこまでひどいやつじゃないと思うけど・・・・・・まさか、まさかだよね。まさかだよね!
その中に私の目を引く人がいた。テレビや雑誌に取り上げられるようなイケメンというわけではない。どちらかというと中の上か上の下と言った印象。でも、その身近な感じが逆に私をひいている。
噴水の
少し癖のついたマッシュヘアに、ネイビーのカットソーから白のTシャツが少しのぞいていてデニムの淡い青色とが
何をしてるんだろ? 待ち合わせかな? って言うか高校生? 大学生? 雰囲気的に大人びて見えるけど、同じくらいの歳にも見える。
って言うか私見過ぎ? そもそも一ノ瀬はどこ? 私このままじゃ急いできたのに直ぐに買えることになるんですけど!
そのとき私とその人の目が合った。心臓が一瞬強く打ったのがわかる。けだるげな、と言ったら悪く聞こえてしまうが、それさえも特徴として残るような目をしている。
その人が読んでいた本を閉じて鞄の中にしまった。そして、立ち上がって私の方に歩いてくる。見間違うことなく私の方に歩いてきているのがわかる。
えっ? やっぱり見過ぎてた? 怒ってる? そう言えばちょっと怒ってる感じがする。どうしよう・・・・・・こういうときってどうするのが正解? 逃げる? それとも大声を出す?
って言うか一ノ瀬来なさいよ! 私がこんな目に遭ってるの一ノ瀬の生でしょ!日曜でも土曜でもどっちでもいいって言うから
その人が私の目の前に来る。
「
「すみません! ごめんなさい! わざとじゃないんです! ちょっと見ていただけで、迷惑をかけようなんて思ってなかったんです!」
私は全力で頭を下げながら
顔を見られなくて私は顔を下げた状態で止まった。
・・・・・・ん? 今、「桐ヶ谷」って言った? それに「遅い」って? ちょっと待って・・・・・・もしかして・・・・・・
恐る恐る顔を上げる。いや、嘘でしょ。全然違うじゃん。そんなわけないよね?でも・・・・・・えっ?
「桐ヶ谷、人の顔をじろじろ見るな。お前といる俺まで頭がおかしいやつだと思われる」
「いやいやいや! もしかして一ノ瀬!?」
「他に誰がいる? 遅刻してきてそんな態度をとれるなんて。これだから
「そうじゃないでしょ! だれよあんた!」
「うるさい、少し黙れ。お前は注目されることになれているかもしれないが、俺はそういうのが嫌いなんだ」
一ノ瀬が顔で「周りを見ろ」と言っているのがわかる。それを見て自分が大勢の前で大声を上げたのだとわかってしまった。おかげで今まで聞こえなかった「何々?」みたいな声が聞こえてくる。
いたたまれなさが増加して自然と顔を下に向けてしまった。何か、この前のファミレスでも似たようなことがあった気がする。
「こんなところで
非情でしょ! この短い期間でどれだけ私のことをけなしたと思ってるの? 自覚ないとしたら救いようがなく非情何ですけど!
「顔を上げろ。そして中に入るぞ。もう二人分の券は買ってある」
「えっ?」
思いも寄らない言葉に顔を上げてしまった。聞き間違い? 券を買ってるって聞こえたんですけど?
「早く行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
私の驚きなんてなんのその。一ノ瀬は私に背を向けて水族館にむけて歩き出した。私は一ノ瀬の後に続いて小走りで向かう。
「待ってって」
「歩きながらでもいいだろ」
うっざー! やっぱこいつ一ノ瀬だ! 確信した、こいつは一ノ瀬だ!
「何その格好?」
「普通だろ」
「いやいや、いつもと違いすぎない? いつもはもっとこうグデーっとしてるって言うか」
「本人を前にしてよくそんなことが言えるな。お前自分を中心に世界が動いていると思っているだろ」
「あんたの方が、よく本人に聞こえるようにそんなこと言えるよね」
「その髪ってワックス?」
「当たり前だろ。んなこともわからないのか?」
確認しただけなんですけど?
「いつもと感じ違うくない?」
「普通の格好でこんなところに来たら逆に浮くだろ。『木を隠すなら森の中』、頭が浮かれているやつの多いところに行くなら、それと同じような格好をした方が逆に目立たない」
「普段からその格好したら? 絶対友達できるよ?」
「面倒くさい。それに俺は一人で過ごしたいんだ。それなら話しかけづらいような雰囲気の方がいい」
さすがにひねくれすぎじゃない? 本当に尊敬しそうになる。絶対普段からこういう風な感じにした方がいいと思うけどなぁ。普通にかっこいいし。
でも、そう考えると何か特別感を感じるっていうか、
「このことは他には言うなよ。面倒なことになる」
「えー、どうしよっかな?」
「・・・・・・クズイな」
「そんなこと言っていいの? ばらすよ」
「前にも言ったが自分の方が有利だと思うな」
そう言い放ったところで私たちは入り口に来た。一ノ瀬がポケットから二枚の入場券をとりだして、そろって中に入った。
「いくら?」
「貸しにでもしておく」
つまり払わなくていいってこと? と、私が尋ねる前に一ノ瀬が私と少し距離をとった。それがたまたまなのか、それとも私の質問をさえぎるためなのかはわからない。
だけど、私は一ノ瀬という人物を少し見直さないといけないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます