第22話 一ノ瀬和也は見送る
俺は
「
「へぇ、一ノ瀬でも心愛ちゃんに見とれたりするんだ」
「お前の足りない脳みそならそう思うのも無理ないかもな」
「足りなくないし! これでも
こいつの言う「春高」とは、某スポーツ大会のことではなく、俺の通っている「
俺のいた中学から行くやつはほとんどいない。と言うのも、実は春高は中高一貫であるため定員が少ない。中高一貫と言っても、
さらに言うと、学年の三分の一しか中学上がりがいないのでそんなに中高一貫感を感じない。俺は言うまでもないが高校からだ。と言うことは自動的に
桐ヶ谷の言い方だと桐ヶ谷も高校からだろう。と言うことは自動的に
だが、仮にも春高に受かったやつがあんな小学生でもわかるような魚の種類を間違えるか、普通? どう考えてもカンニングか不正入学だろ。
「何?」
「いや、バカでも春高に受かるんだな」
「そ、そんなにバカじゃないし!」
「それをさっき魚を間違えたやつが言うか?」
桐ヶ谷がすごみのまったくない目で俺をにらんでくる。もっと頑張ってみろ。それはただ眉間にしわを寄せて目を細くしているだけだ。もっと誰かさんみたいに冷たい目をしろ。
さっきまでは水族館の話題を出すのがはばかられたが、これだけ回復したのなら大丈夫だろう。それよりも。
「さっきの三波ってやつは誰だ?」
「
「他の三波がいたか?」
「確認しただけじゃない! もう、知らない!」
そう
面倒くせぇ。
ともあれ、これじゃあ聞けなくなったな。まぁ、知らなくても平気だろう。俺の
「心愛ちゃんは春高の四天王の一人よ」
へそを曲げたと思われた桐ヶ谷が意外にも説明を始めた。気まぐれなやつはよくわからない。
「あっ、お礼で教えてるだけだから」
本当にへそを曲げてしまったようだ。声がぶっきらぼうになってしまった。だからどうしたということもないんだが。
「一年か?」
「うん」
「どんなやつだ?」
「誰にでも分け
距離感の取り方が
「それで、本当はどんなやつだ?」
「さっきのが印象のすべて。それ以上でも、以下でもない」
はぁ、
面倒くさそうになってから対処すればいい。それより俺の問題の優先順位は桐ヶ谷、寧々の順で深刻だ。こっちを先に片付けなければならない。見えない
後味の悪い終わりになったが、総合的に見るとやっぱりいい気分転換にはなった。月に一回くらいならこういうことをしてもいいかもな。・・・・・・やっぱり半年に一回。
時間もそろそろ夕暮れだ。どこかの阿呆が初デートは二、三時間が理想的みたいなことを言っていたが、四時間半くらいか。途中に色々あったからしょうがないと言えばしょうがないが。
にしても二、三時間は長くないか? そんなに他人のために時間を使うなど暇人のすることだ。やはり一人がいい。その方が絶対に
「桐ヶ谷、そろそろ帰るか?」
「・・・・・・うん」
一瞬考えるような間ががあったが、桐ヶ谷は俺に顔を向けることなく
一応俺も「貸しにしておく」という言葉を使ったが、正直に言って貸しやら借りやらは嫌いだ。面倒な上に、そんな昔のご恩と奉公みたいな関係を作る必要があるんだ?
俺は桐ヶ谷と一緒に最寄りの駅にいた。この辺りはそれほど職場があるというわけでもないのであまり混んでいない。そのおかげで
「送らなくていいんだな」
「うん。途中で買い物に寄るから」
と言うことで桐ヶ谷とはここでお別れだ。普通の恋人ならこのことを悲しむべきなのだろうが、俺たちは普通ではない恋人なので悲しまない。悲しむはずがない。
桐ヶ谷が俺に背を向ける。そのまま歩き出す、と思ったがなかなか動き出さない。
「
そのことか。俺がそんなことを気にすると思うか? それよりもそのひどく悲しんでいるような声を出される方が俺的には困るんだが。
「はぁ、んなことか。気にする必要はない。俺も多少なりとも悪かったからな」
俺が普通のことを言うと桐ヶ谷は振り返った。その目がうっすらと
「そんなこと、言う人じゃないじゃん」
「俺を極悪非道な人間か何かと思っているのか? なら残念だが、俺は人の心はある。じゃないとお前に協力などしない」
俺はその台詞を言い終わると後ろを振り返って歩き出した。これ以上ここにいても何もうまれない。うまれたとしても無駄な時間だけだ。
ただ、俺の耳にはしっかり聞こえていた。桐ヶ谷の「ありがとう。ありがとう」という言葉が。俺の言われた言葉ランキングで下から数えた方が早いような言葉を二回も。
それでも、俺の心は、想いは、感情は、まったく動くことはない。この程度で、俺は道を
俺は己が身の丈を知らないようなそこら
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