第38話 一ノ瀬和也はカレーを作る
「
「もう少し・・・・・・」
「ぶきよー」
「このくらい普通でしょ。
「えっ? それって褒めてる?」
「褒めてる」
「じゃあ、もっと褒めて!」
「・・・・・やめておこうかな」
「なんで~!」
徐々にこれになれ始めている自分が怖い。言わなくともわかると思うが
野鳥ウォッチング
今はオリエンテーリングと同じ班に分かれてカレー作りをしている。なぜカレーなのだろうか? 別に悪いとは思わないが、疑問を抱かないこともおかしいのではないだろうか。
受動的に動くことと能動的に動くことが異なるように、物事を受容することと妥協することは異なる。何も考えずにそんなものだと受け入れることに、一体どんな価値があるのだろうか。まぁ、どうでもいいが。
こんなことを考えても価値がないといと言われれば確かにそうだ。だが、考えないよりも考える方が価値があるに決まっている。
理由とは
すべてに理由がある。その理由の一つ一つを知れとは言わない。俺はただすべてのことには理由があると言いたいだけだ。
「イッチー、にんじんの大きさバラバラすぎない?」
「・・・・・・うるさい」
「もしかして、料理できない系~?」
「どんな系統だ」
「そんな~、隠さなくてもいいのに」
双葉が俺の方をニヤニヤしながら見ている。
別に隠してはいない。隠す必要がないからな。
その会話につられてかはわからないが、桐ヶ谷が俺の方を向く。言わなくてもいいかもしれないが桐ヶ谷もニヤニヤしている。何がそんなにうれしいんだ?
「できないんだ」
「人のことを言える
「
「どんぐりの背比べだね~」
「莉音! そんなことないし! 私の方ができてるし!」
張り合うな。確かにお前の方ができているかもしれないが、双葉から見れば同じくらいだろう。ちなみに双葉の
俺が料理ができない理由は単純にやらないからだ。やらなくてもいいのだから無理してやる必要がない。つまり、簡潔に言うと慣れていないから料理の腕が悪いということだ。
カレー作りは順調に・・・・・・進んで・・・・・・い、る。俺、桐ヶ谷、双葉の三人がカレーのルーを作っており、
九条たちの様子はわからないが客観的に見て俺の手際は悪いの一言では表しきれないほど悪い。双葉どころか桐ヶ谷と比べても残念だ。
俺はようやくにんじんを切った・・・・・・と呼ぶことができるかどうかわからない不格好なものを完成させた。そしてそれを双葉に渡した。ものすごくどうでもいいことだが、桐ヶ谷の切ったにんじんの形はそろっていた。
双葉は俺と桐ヶ谷が渡した材料を鍋に入れて料理を始めた。それを俺はただたんに眺める。手伝えという声もあるだろうが、どう考えても俺が双葉の手伝いをしたら邪魔にしかならないだろう。
それは桐ヶ谷も同じようだ。双葉の後ろで
すると気まずげに下を向く。今朝から桐ヶ谷の様子がおかしいな。頭のねじがぶっ飛んでしまったのだろうか?
俺はそんなどうでもいいことを無視して辺りをぶらぶらすることに決めた。九条たちの様子を見に行こうとしなかったのは俺が指示できることなど
別にどこに行くということもなくカレー作りをしている調理場? のようなところをぶらつく。全員が楽しそうに・・・・・・料理をしている。
何がそんなに楽しいんだ? 家でもできるようなことを強制的にさせられているんだぞ。もっとも、俺は家で料理などまったくしないのでここでしかできないような体験だが。
にしても、あと何年かしたら一人暮らしをするのか。料理の一つや二つできないとやばいな。まぁ、そのときになればなんとかする。このご
「ねぇねぇ、キャンプファイヤーに彼誘った?」
俺が歩いているとどこからともなく、と言っても調理しているところ意外にはないが、女子のきゃぴきゃぴした声が聞こえてきた。
「まだ・・・・・・どうしよう」
「もうすぐだよ。早くしないと」
「でも・・・・・・緊張するし・・・・・・」
「誰かにとられちゃうよ」
「それは嫌!」
女子二人が
他者に何かを提案するときは何かメリットを突きつけろ。メリットのない提案など提案ではない。それはもう
傲慢は七つのうち二番目に重い罪だ。ちなみに一番重いのは
己が身の丈を知りすぎた者は嫉妬などできない。
話が
そんな一般的に見て腐った考えをしていると、一般的に見て普通の考えを持った者どもの話は進んでいるようだ。
「でも、本当に早く誘いなさいよ。好きな人と踊るのがこのキャンプファイヤーの
そうなのか?
「まぁ、・・・・・・キャンプファイヤーの言い伝えが本当ならね」
「本当らしいよ! 部活の先輩が言ってた! 後、私のお姉ちゃんも!」
「マジで!?」
「マジマジ」
何を盛り上がっているんだ阿呆ども。
「好きな人」「キャンプファイヤーの言い伝え」・・・・・・
知らんな。まったく聞いたこともないし、そもそもそんなことに興味はない。
――今日の、キャンプファイヤーなんだけど・・・・・・一緒に踊ってくれない?
まさか、な・・・・・・
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