音杏とデート編

第15話 桐ヶ谷音杏はデートに誘う

 今は放課後。私は莉音りおんと一緒に部活に出ていた。特に強くも弱くもない部活なので、ガチルこともふざけることもなく、それなりの練習の毎日。


 特に今日は大きな問題はなかった。強いて言うなら一ノ瀬いちのせに、か、かべ、壁ドンされたくらい・・・・・・本当にあんなことあるんだ。テレビの中の話かと思ってた。って言っても、テレビの中の話みたいなことをしたんですけどね。


 一ノ瀬は私に「気にするな」って言ったけど、実際一ノ瀬はどう思ってるのかな? やっぱり面倒くさいって思ってるのかな? そうだろうけど。


 じゃあ、やめてくれって言ったらよくない? 別にほとんど初対面の私に気を遣う必要なんてないし、そもそも気を遣いそうなキャラじゃないし。やっぱり一ノ瀬ってわからない。


 その一ノ瀬も普段通り、と言っても普段をあまり知らないけど、授業受けて、休み時間を過ごして、お昼を食べていた。普段通りと言うことはすなわち一人でってこと。


 あれで楽しいのかな? そりゃぁ私だって一人になりたいときとかあるけど、あそこまで徹底てっていして一人だとさすがにびっくりする。もう一人のいきを超えて誰も寄せ付けないと言った方がしっくりくる。


 あの視線を感じながら普通に読書できるとか普通に尊敬なんですけど。絶対話声とか、視線とかわかっているのに完全無視だもんね。どうしてあんなに一人が好きなのかな? 理由とかって聞いちゃ・・・・・・だめだよね。


 って言うか絶対に教えてくれないし。どうせ「お前に言ってもしょうがない」とか言うんだよね。あの人を見下みくだしたような態度なんとかならないの! ちょっとは彼女らしく扱った方がいいと思うんですけど!


 まぁ、サバサバしてるおかげで他の人に干渉かんしょうされないんだろうけど・・・・・・何か見ててさみしいよね。まっ、関係ないけど。


 そんなことを考えながら私は部活をし、部活はいつも通りに終わって片付けに入った。


音杏のあー、ボール変だったよ。何か悩み事? もしかして色恋沙汰いろこいざた?」

「莉音、からかいすぎ」

「ごめん、ごめん。面白くてつい」

「誰のせいだと思ってるの? って言っても莉音は私のために提案してくれたんだもんね。ありがと」

「ま~、私も面倒だな~って思ってたし。音杏のことならいつでも相談に乗るよ」

「ありがと」


 たよりがいのある親友だ。たまに年相応としそうおう羽目はめを外すことをのぞけば、私の中では気の置けない友達の最高峰さいこうほうに位置している。


 やっぱり友達がいると相談事とかできていいよね。他にも頼りがいのある先輩とかがいれば・・・・・・い、いったん置いておいて。悩み事が共有できるってすごいことだと思う。


 一ノ瀬って悩み事とかあったらどうするのかな? そもそも宿題とかでわからないことがあったら誰に聞くの? 親? それとも兄弟? って、一ノ瀬って兄弟いるの?


 もしかしてネットにたくさん友達いるとか? よくある「萌え~」ってやつ・・・・・・って一ノ瀬にかぎってそんなことないか。どっちかって言うと、見た目的に推理小説とかミステリー系を読んでそう。


寧々ねね先輩には・・・・・・聞いてないんだろうな。もし話してるとしたらあそこまで寧々先輩のことを悪く言わないよね。二人に何があったんだろ?


「ねーねー、音杏。聞いてる?」

「え、あ、うん。もちろん」

「ほんと~?」

「ほんと、ほんと。聞いてないよ」

「聞いてないんかい!」


 莉音が小さな手で私をポンポン叩いてくる。手加減しているのか、子供がおじいちゃんにする肩たたきみたいなイメージになっている。それはそれで背もあいまってかわいい。


「ごめん、ごめん。っで、何の話だっけ?」

「だからー、みんな疑ってるんだよ。音杏と一ノ瀬いちのせが付き合うわけないって」

「まぁ、そうなるよね」

「そこで! 恋人らしいことをしようってわけ」

「恋人らしいことって?」

「二人で帰ったり、一緒にお昼食べたり、デートしたり」

「そ、そんなことしないよ!」


 どうして恋人のなのにそんなこともしないといけないわけ? 第一一ノ瀬がそんなことするわけないじゃん。


「別に恋人同士なら普通だよ。音杏だってあんまり免疫めんえきがないんだから一ノ瀬を利用しちゃえば?」

「め、免疫くらいあるよ」

「そんなこと言って男子とで遊んだことなんてあんまりないでしょ。付き合った経験もほとんどないんだから」

「それは・・・・・・」


 ぐうのも出ない。確かに男子と一緒にカラオケに行ったり、なんやかんやしたことはあるけど、そのときは大体だいたいがグループだったし、中学の頃から付き合った経験なんてほとんどない。


 付き合ったことがないのはもちろんわざと。だってになるのが嫌だから。でも、言われてみればこのとしになって男子と二人きりで遊んだことがないのは自分でもどうかと思う。


 付き合っているをしているんだからデートくらい普通だよね。他の人に信じてもらえるようにするにも恋人らしいことをしないと。


「ちょうど、今度の土日は部活もオフだし、どっか行ってきたら?」

「早くない?」

ぜんは急げって」

「だから、これって善なのかな・・・・・・」


 昨日からこの言葉をよく聞いている気がする。ただやっぱり自分のやっていることが善なのかどうか疑わしくなってくる。


――もっと自分の意志を強く持て。


 今日の一ノ瀬の言葉がフラッシュバックしてくる。どうしてこんなときに一ノ瀬が出てくるの? 関係してるから? それとも意外すぎて印象に残ってるから? どちらにしても一ノ瀬の言う通りだ。迷っても始まらない。


 どうせ三ヶ月しか付き合わないんだから少々急いだところでばちも何も当たらないよね。予定が空いてるか聞くだけ聞いてみよ。


「って、私一ノ瀬の番号知らないんだけど」

「え~! 何してるの?」

「いや、だって、きゅうだったし」

「はぁ・・・・・・早めに聞いた方がいいよ」

「うん」


――ブー。


 PINEの着信だ。タイミングよく一ノ瀬が・・・・・・なんてことは絶対にない。どうして聞くの忘れたかな? 色々ありすぎて聞くタイミングを失ったってことにしておこ。


 PINEのメッセージは寧々ねね先輩からだった。


――お疲れー。カズは自分から番号送らないと思うから、電話番号とPINEのID送るね。カズにも音杏ちゃんの番号とID送っておくね。カズの返信は時と場合によって遅かったり早かったりするから気長にー。私に返信は絶対に来ないんだけどね。


 その文章の後に一ノ瀬のものらしき番号とIDが送られてきた。どうして、ということはこのさい置いておくとしてタイミングがよすぎる。でもそんなことを考えてもどうしようもない。


――ありがとうございます。


 過程はどうあれ、とりあえず一ノ瀬の番号を手に入れることに成功した。だけど、さっきから莉音が私の画面をのぞいてるんだよね。


「カズって誰~?」

「えっと・・・・・・と、友達かな?」

「『かな』って言われてもわかんないよ」

「あ、うん、そうだね」


 言っていいのかな? 一ノ瀬と寧々先輩が知り合いっぽくて、その上もしかしたら寧々先輩は一ノ瀬のことが好きなんて言っていいのかな・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る