第一章  6話  しばしの別れ

「あれは、俺の船だ」


「戦艦持ちハンターなんですか?」


「ああ。俺の作ったチームの船だ」


『そして、私の本体でもある』


「え? 本体って?」


『ふむ。その答えは時がくれば自ずと理解しよう……。私の眼が見えているのなら、また会うこともあるだろう。オーウェン』  


 オーウェンが返事を返す前にジャックの右顔の仮面の光は消える。唖然と立ち尽くすオーウェンの肩をジャックが軽く叩く。


「気に入られたなオーウェン」


「そう……なんですか……?」


「まぁな。初対面の相手にここまで会話を続ける事も、まして、冗談まで言うなんて事は今までにないことさ」


 オーウェンの疑問に、笑みを浮かべながら返事をするジャックの仮面は、先程までの光が嘘のように消えていた。

 オーウェンが再び口を開こうとすると、通信を告げる機会音が響いてきた。ジャックは通信装置を起動する。


「俺だ」


「マスター! お疲れさん! クィーンの転送準備完了らしいよ~?」


「おおっ、さすがに手際がいいな」


「へへへ~褒めていいよぉ?」


「偉い! 偉い! じゃ、とっとと初めてくれ」


 通信装置から聞こえてくる、どこか幼さの残る声にジャックは返事を返す。その会話の意味を理解したオーウェンは視線をクィーンの残骸ざんがいへと向ける。クィーンの残骸は全て光の幕に包まれて、やがてゆっくりとその場か消えていく。


「あのクィーンの残骸は……」


「そうだ。宇宙連邦広域ハンター協会の規定により、ハンティングに成功した者……。つまり、俺がその所有権を持つって事になる」


「ですよね……」


 オーウェンの疑問にジャックはすぐに答える。

 機械生命体の亡骸なきがら

 或いは残骸と呼ばれる物は機械生命体を破壊……及び、機能停止状態。無力化状態など様々な状態であっても高額で取引される。

 その機械生命体の残骸は、武器・防具・乗り物など、様々な用途で再利用される。主に機械生命体への攻撃・防御に優れているので軍やハンターなどがこぞって買い集め、職人である機械鍛冶師の手によって加工される。


「クィーンクラスの媒体があれば、凄い武器・防具が製造できますね……」


「そうだな。これ一体で数人分の強力な装備も製造できる」


 ジャックの言葉に、オーウェンはすでに消えてしまったクィーンの残骸があった場所を凝視する。オーウェンの視線の先に自らも視線を向けるとジャックは静に口を開く。


「だがなオーウェン……。強力な兵器も。結局、使う人間次第って事さ……。人の命を奪う凶器にもなれば、人の命を守る盾にもなる……」


 ジャックの言葉にオーウェンは彼の姿を視線に捉える。まっすぐに見つめ返すジャックは再び言葉を発する。


「今のお前は、どっちが欲しいんだ?凶器と盾……」


 ジャックの言葉は静に、しかし、鋭くオーウェンの胸へと突き刺さる。愕然としサラを抱える手の力が抜けそうになり慌ててサラを抱え直す。


オーウェン。サラを気遣う心があれば、それが最大の武器になる」


 ジャックはオーウェンに笑みを浮かべると、再び通信装置を起動する。二人の会話の流れを見ていたのか、それとも偶然かセフィリアがジャックの側に歩みよる。


「二名転送してくれ」


 ジャックの言葉に先程の女性の声が木霊する。二人は淡い光に包まれる。セフィリアは笑みを浮かべて、静にオーウェンに手を振る。


「オーウェンお前。と思うぜ?」


 不適な笑みを浮かべたジャックに、この日最後となる驚きの視線を向けるオーウェンだったが、すぐに二人の姿は消えてしまっていた。

 上空では轟音と共にジャックの戦艦が移動を開始した。その姿が見えなくなるまで、オーウェンはその場を離れることができなかった。

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